落語

iPod nano (第6世代)


_57  いつもの日課となっている1時間ほどのインターバルウォーキングでは、iPod nanoに取り込んだモーツァルトの曲や落語の噺などを聴いたり、FM放送を楽しんだりしています。iPod nanoは2005年5月の発売開始以降、2017年7月に販売を終了するまで、左の図に示すように、その形、大きさ、機能が時とともに大きく変遷してきました

51r7fi0ziil_ac_sy879_ 私の愛用しているのは、これらのうち、タッチパネルで操作し、超小型で(37.5x40.9 
x8.78mm)、クリップ機能の付いた第6世代です(左図。一番上の機種変遷の図では、下段の左から2つ目のモデル)。とても軽く(21.1g)、簡単に襟や袖口にクリップ止めでき、歩きながら聴くのにはとても便利です。
 

 私のモデルは容量が8GBで、音楽ソフトiTunesを使ってPCにCDやApple Musicなどから取り込んだ楽曲や落語をインポートしたものが1100曲/席ほど入っており、プレイリストから適宜選んで毎回違った楽曲や噺を楽しんだり、FM放送でニュースや音楽番組を聴いています。

 こうして長年便利に愛用してきたのですが、今年の初め、突然タッチパネルの画面がフリーズ。操作ボタンも機能しなくなってしまいました。大いに困っていたところ、幸いにも娘が私の喜寿のお祝いにと、アマゾンのギフト券(喜寿の77にちなんで17777円分)を贈ってくれ、記念に好きなものを買ってと言ってくれました。早速、アマゾンで予算内で購入でき、若干の残が出ました。

028941905727  この新しいiPod nano(といっても、第6世代のiPod nanoは10年前に製造中止となっているので、購入したのは新品ではなく、中古品を整備したものなのですが)をPCに接続し、iTunesを使って楽曲や落語の噺をインポートしようとしました。ところが、その昔Apple Musicで購入(ネットからダウンロード)したモーツァルトのホルン協奏曲第1~4番のアルバム(ザイフェルトとベルリンフィルの演奏でカラヤンが指揮)がPCに見当たらないことに気づきました。iTunesのアルバムの画像(上図)は表示されているのに、これをクリックしても、曲が元の場所には無いとのエラーメッセージが出るのです。

 そこで、購入当時に使用していた昔のApple IDとパスワードを使って、再ダウンロードを試みるのですが、IDまたはパスワードが違うとしてハネられてしまいます。仕方なくAppleサポートに電話を入れると、このIDは8年ほど利用されていなかったので無効になっているとのこと。以前確かに購入したことが先方のシステム上で確認できたので、新しいIDを告げて再ダウンロードを開始しました。

 ところが、何度試みても、全11曲中の一部しかダウンロード出来ません。最後の手段として、先方の提案で画面共有セッションを開始。私のPCでiTunesを立ち上げた画面を先方と共有しつつ、先方の指示に従って操作すると、全てをダウンロード出来ました。勿論、画面共有にあたっては個人情報(パスワードなど)が先方に漏れるリスクを危惧したのです が、パスワードを打ち込む際には画面共有を辞めてくれました。

 かくして、ウォーキングでiPod nanoを再び利用できるようになりました。一方、先にタッチパネルの画面がフリーズしてしまい、ボタン操作もできなくなっていたiPod nanoの方は、そのまま長らくほったらかしにしていたのですが、試しに充電してみると、なんと機能が復活。完全に放電したのが良かったのかどうかは分かりませんが、再びウォーキングで利用できるようになりました。

しかしながら好事魔多し。プレイリストを選んでシャッフルに指定しても、同じ曲目が何度もリピートされるという不具合が発生。仕方なく、アマゾンで求めた方に代えてみたのですが、どういう訳か、今度はこちらも同じ症状になってしまいました。ネットで検索して初期化をと調べたのですが、初期化すると全てのデータが失われると知って取り止めに。2_20221023213401 ネットで調べて、試しに、スリープ/スリープ解除ボタンと音量を下げるボタンを同時に押して強制的に再起動してみました(左図。出典:上記リンク先)。すると見事にシャッフル機能が戻りました。何らご参考まで。


甲斐 晶(エッセイスト)

 

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続・伊能忠敬物語

200前回「伊能忠敬物語」では、現役を引退して50歳になってから江戸で学び、正しい暦づくりのため、「地球の緯度1度の正確な距離を知りたい」と、足かけ17年をかけて日本全国を自分の脚で測量。伊能図と呼ばれる『大日本沿海輿地全図』を完成させた伊能忠敬の生涯についてお話しするとともに、香取市佐原にある記念館の展示で伊能図の正確さに感動した立川志の輔が創作した、2時間にも及ぶ新作落語「大河ドラマへの道-伊能忠敬物語」のことを紹介しました。

忠敬が亡くなったのは1818年。伊能図の完成はその3年後の1821でしたから、今年はその200周年にあたります。それを記念して、志の輔はこの4月17日、江東区文化センターにおいて伊能図完成200 年記念落語会で「伊能忠敬物語 -大河への道-」を演じています(左上図)。また、お正月恒例の「志の輔らくごin PARCO」では、新装なった PARCO 劇場における約1カ月間のロング公演、「伊能図完成200年記念『大河への道』」を計画。しかしながら、その直前にご本人が肺炎になってしまい、急遽中止となってしまいました。

Photo_20211225180301このため、200周年には間に合いませんでしたが、来年の1月「志の輔らくご in PARCO 2022」としてリベンジ公演「伊能図完成200+1年記念『大河への道』」が企画されています。1枚7200円と落語会としては破格の高額チケットなのにもかかわらず、発売直後に20公演全てが完売。彼の人気のほどを示しています(左図)。

忠敬の生涯に興味をそそられて訪れた記念館の展示で、衛星画像に基づく精緻な日本全図と伊能図が見事に重なるのを見た感動と、館外で目撃した「忠敬没200年記念に大河ドラマ化を」とののぼり旗から、「伊能忠敬物語 -大河への道-」という大作を創り上げた志の輔の想像力に感服します。

私がこの噺を2014年に初めて聴いた時の演題は、「大河ドラマへの道-伊能忠敬物語」だったのが、今では単に「大河への道」に進化。内容もきっと公演を重ねるに連れ磨きが掛けられているのではと思わせられます。

さて、「大河への道」は起承転結の構成になっています。まず志の輔は、30分にも及ぶマクラの部分で忠敬の非凡な人生、すなわち、50歳で天文学者の高橋至時に弟子入りし、55歳から日本全国を自分の脚で測量、73歳で亡くなるまでに地球一周分の距離を踏破したその生涯を語ります。

次いで「承」では、地元の偉人を主役にした大河ドラマの実現を目指す「伊能忠敬大河ドラマ推進委員会」の一大プロジェクトの顛末が描かれます。委員会は大物脚本家の加藤に脚本の作成を依頼。しかし、最終プレゼンの土壇場になって加藤は「出来ませんでした」と推進委員会の主任池本に詫びます。激怒する池本に加藤は「日本地図を完成させたのは、伊能忠敬ではない。」と思いもよらぬ発見を伝えます。実は地図完成の3年前に忠敬は亡くなっていたのです。

ここから舞台は江戸時代にタイムスリップする「転」の部分へ。主役は高橋景保で至時の息子です。彼は忠敬の死を伏せながらその事業を引き継ぎ、3年後の1821年に伊能図を完成させます。江戸城で将軍に拝謁し、忠敬の死を打ち明けて日本全図を披露します。「これが余の国か」と感動した将軍は、「伊能、大義であった。余は満足じゃ、ゆっくりと休め」と今は亡き忠敬に優しい言葉を掛けるのです。

ここで、再び場面は大河ドラマ推進委員会へ。結局加藤には忠敬の大河ドラマの脚本は書けず、書けたのは景保のものだったのですが、主任はその意味を深く理解し、提出書類にこう書きます。「伊能忠敬なる人物、ドラマにするには大きすぎた」。そして舞台は暗転してこの噺のクライマックスの「結」へ。パラグライダーで空撮した海岸映像がスクリーンに大写しされます。やがて画面上に衛星画像を元に作成された正確な日本地図が出現、続いてその横から歩測で得られた伊能図が現われて、両者がピタリと重なるのです。志の輔が伊能忠敬記念館で感動したシーンの再現です。

Photo_20211225180201ところで、この「伊能忠敬物語 -大河への道-」が映画化され、来年の5月20日から全国で上映されます。主演は中井貴一で、志の輔の落語に感動した中井が「この落語、映画化したら面白いと思うんです。ぜひやらせてもらえませんか」と志の輔に直談判。中井をはじめ、松山ケンイチ、北川景子ら若手からベテランまでの個性豊かな俳優たちを揃えて、それぞれが一人二役で、大河ドラマ制作の行方を描く「現代劇」と、200年前の日本地図完成に隠された秘話を描く「江戸の時代劇」の2つの世界を行き来する不思議な映画となりました。予告編はこちらをクリックすると見られます。https://movies.shochiku.co.jp/taiga/
ちなみに、映画には原作者の志の輔も二役で登場しています。

甲斐 晶(エッセイスト〉

 

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伊能忠敬物語

Photo_20211221104301落語が好きであちこちの落語会に良く出かけます。最近は立川志の輔にはまっていて、YouTubeにある彼の噺をせっせとダウンロードしては、iPodのファイル形式に変換して取り込んで楽しんでいます。彼は新作ものが多いのですが、中でも「親の顔」、「みどりの窓口」、「買い物ぶぎ」などが秀逸で大いに笑わせられます。

そんな中、2014年5月のことです。町田市民ホールで行われた彼の落語会に出かけ、2時間もの長講一席「大河ドラマへの道-伊能忠敬物語」を聴きました。足かけ17年をかけて日本全国を自分の脚で測量し、伊能図と呼ばれる『大日本沿海輿地全図』を完成させた伊能忠敬にまつわる話と2018年の彼の没後200年を記念してその生涯をNHKの大河ドラマにしようとする地元関係者の奮闘ぶりを描いた噺でした。その中で、彼の記念館が千葉県佐原(香取市)にあると知って興味をそそられ、出かけて見ました。

Photo_20211221103801 さして大きくもない記念館に入るとボランティアの方が展示物の説明をしてくれました。団塊の世代が定年退職し、社会奉仕のためあちこちでガイドを勤め始めたのは歓迎すべきことです。

館内最初の展示物は、裃を着て座る彼の肖像画(掛け軸)で、皆様もきっと教科書でお馴染みのことでしょう。その横には、巨大な映像パネルがあって、彼が前近代的な測量器具で実測して完成させた伊能図と最新の衛星画像による国土地理院の日本全図の二つが左右に示されています。見ていると両図は次第に近づいて画面中央でオーバーラップ。何とほぼぴったりと重なり合うのです。彼の仕事の偉大さを感じさせる展示ぶりです。

彼は17歳で佐原の酒造業を営む伊能家に婿入り。その商才によって傾きかけていた家業を見事に立て直すとともに、米取引、運送業、金融業など事業の拡大に成功し、多大な財産形成をします。一方、36歳で名主となった忠敬は、天明の飢饉の際には身銭を切って貧民救済に乗り出し、佐原村からは一人の餓死者も出しませんでした。

Photo_20211221110701 49歳で引退し家業を長男の景敬に委ねると、かねてから興味のあった暦学を志して江戸に出、天文学者高橋至時に弟子入り。その時忠敬は50歳、至時は19歳も年下の31歳でしたので、忠敬の決意のほどを伺い知ることが出来ます。

正しい暦づくりには地球の緯度1度の正確な距離を知る必要があり、日本ではこれを成した人物はいないことを至時から聞いた彼は、この偉業を成し遂げて後生に名を残そうとしたようです。
正確な値を出すためには、江戸から蝦夷地ぐらいまでの長距離を測れば良いとの至時の提案を受け、忠敬は蝦夷地南辺の測量を目指します。当時南下しつつあったロシアに対抗するためにも正確な蝦夷地の地図が必要との幕府の思惑とも合致し、至時の口添えで「御用」(幕府の公務)として蝦夷地測量の旅が忠敬55歳の寛政12年(1800年)閏4月19日に開始されるのです。

180日間の測量の旅(蝦夷地滞在117日)から戻り、約20日で完成させた蝦夷地の地図が幕府から高く評価され、追加の測量を命じられた結果がその後の全国踏破、ほぼ地球一周の4万㎞に及ぶ旅に繋がるのです。全国測量を終えた忠敬は全国図の完成を見ずに73歳で死去。その死は隠され、至時の息子景保を中心に作図作業が続けられ、ついに1821年に伊能図が完成するのです(左上図)。
Photo_20211221104001

記念館を出て「江戸優り」と称された当時の面影を残す町並みを散策していると、忠敬没200年記念に大河ドラマ化をと記されたのぼりが目に付きました。志の輔は噺の中で「一年間、測量姿の場面だけでは魅力が無い。かといって行く先々の名所旧跡の案内では『ぶらり途中下車の旅』と変わらない。各地の名物料理の紹介なら単なるグルメ番組となってしまう。」と揶揄していました。
ところが既に井上ひさしが「四千万歩の男」(全五巻)という長編小説を書き上げ、これが元で加藤剛主演の「伊能忠敬-子午線の夢-」という映画が出来ているのです。小説はどこまでが史実でどこからが創作なのか分からないほど、ドラマチックで面白い作品です。名脚本家を得さえすれば、きっと興味深い大河ドラマとなることでしょう。

甲斐 晶(エッセイスト〉

 

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わさび小痴楽二人会

Photo_20210617222901ようやく第1回目のコロナワクチンの接種を終えた日の夜、副反応で痛む左腕を抱えながら、国立湯演芸場で開催された「柳家わさび・柳亭小痴楽二人会」(第21回栗好みの会)に出かけました。コロナ禍で寄席や落語会の開催が中止となったり、ネット配信が盛んになる中で、久しぶりの生落語です。会場は、わさび師匠と小痴楽師匠それぞれの応援団で満ちていました。(左上は会場の受付で渡された今晩の落語会のポスターで、お二人の可愛いイラスト入りです。)Photo_20210617222902 この夜の二人会では、それぞれの持ち味を存分に堪能することが出来ました。お二人のマクラから、お互いに相手に敬意を抱いている様子が良くわかりました。所属協会こそ違え、同時期に真打昇進を果たした仲です。今後、益々切磋琢磨されることを期待しています。

 

Photo_20210617223102 小痴楽はお父さんが先代の柳亭痴楽。綴り方「狂室」で有名な、「破壊された顔の持ち主」である、先々代の痴楽の弟子ですが、先々代の存在が大きかったせいか、個人的には小痴楽のお父さんの印象は余りありません。豪放磊落な性格で、ほとんど家庭を顧みず、お金が入るとすぐに奢ってしまって、家に入れることはなかったとは小痴楽の弁。たまに電話があるとハワイからだったりして、「良いゴルフクラブを見つけたので、100万円すぐ送れ。」といった内容だったとか。突然、家に戻って来ると、子供たちに貯金箱を出させ、これを壊して中身を持って行ってしまう姿に、こんな親のようにはなるまいと子供心に小痴楽は思ったとか。

ところが、このコロナ禍で寄席や落語会が中止に追い込まれ、家賃も払えない状況に。奥さんに相談すると、昨年10月に生まれた長男に支給されている子ども手当を貯めた通帳の存在を打ち明けられます。いくらあるのか聞くと、「それは言えない。」との賢い奥様のことば。子供のお金をあてにしなければならない自分に父の姿が重なってしまったと、小痴楽は15分にも及ぶ長い近況報告のマクラで述懐していました。

苦労しているだけあって、親の七光りを享受しているほかの二世噺家とは違って、彼の噺には力があります。昨晩披露した「磯の鮑」も「岸柳島」も観客をぐんぐん引きつける熱演でした。

Photo_20210617223101 一方、わさび師匠の昨夜のネタ、「券売機女房」も「五目講釈」も、師匠の月例の勉強会「月刊少年ワサビ」で初披露されたのを聴いて以来でしたが、いずれもそのときよりも更なる磨きがかかって、高度な仕上がりとなっていて、会場を大いに沸かしていました。新作も古典もこなすわさび師匠ってすごいと感じました。

Photo_20210617223001 実は、トリの演目を何にするか高座に上がっても迷っていたとか。「明烏」とも思ったそうですが、同じ郭噺となって「磯の鮑」とかぶります。「二十四孝」をとも考えたそうですが、迷った末に語り始めたのが居候の若旦那の噺。てっきり「湯屋番」と思いきや、途中から五目講釈になって予想を完全に裏切られました。この噺は、講釈の素養が無いと出来ないもので、わさび師匠の「言い立て」の能力は大したものです。

 

 

甲斐 晶(エッセイスト)

 

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月刊少年ワサビ

前にも書きましたが、寄席や落語会に出かけて生で落語を聴くのが、私の趣味の一つです。

昨年もせっせと寄席や落語会に出かけ、沢山の噺家の噺を楽しみましたが、昨年の落語鑑賞のデータをとりまとめてみたところ、以下のような結果となりました。

昨年1年間に寄席や落語会で聴いた噺の総数は168席(一昨年は150席)、寄席・落語会の回数は36回(一昨年は26回)でした。
一昨年は、家内から「もういい加減にしたら。」と呆れられていたので、昨年はペースを落としたはずでしたが、結果的に一昨年を超える数値となってしまっていて、大いにびっくり。

噺家別では、以下の通りです。
1.柳家わさび 31席
2.柳家さん生  9席
3.古今亭駒治  8席
4.柳家権太楼  5席
4.林家正蔵   5席
5.春風亭一之輔 4席
5.古今亭文菊  4席
5.三遊亭歌武蔵 4席
この後は、3席が柳家さん喬、柳亭市馬、鈴々舎馬風、柳家甚語楼、三遊亭伊織、三遊亭わん丈、柳亭市松でした。

こうして見ると我ながら特定の噺家に偏っているなと思います。
柳家わさびが飛び抜けて多いのは、彼が昨年秋に真打となったので彼の真打昇進披露興業を多数追っかけたことと、彼の月例のミニ独演会「月刊少年ワサビ」と、王子の蕎麦屋の2階で隔月で開催される「越後屋寄席」(さん生、甚語楼との3人会)に昨年から出るようになったからです。わさびに次いで柳家さん生が多いのは、さん生がわさびの師匠なので、真打披露興業や越後屋寄席で必ず出て来たからでした。
彼らに次いで古今亭駒治が多いのは、前回書いたように幻の名作「十時打ち」を聴きたくて、駒治の真打披露興行を追っかけたからです。

ところで「月刊少年ワサビ」は、毎月末に神保町にある「らくごカフェ」で開催されます。会場は50人足らずで満席となるほどの小さなスペースですが毎回、わさびさんのファンで一杯。後述するように女性ファンが目立ちます。NHKの「落語ディーパー」や日テレの「笑点」の若手大喜利などでの活躍のゆえか、この頃では2ヶ月先の予約まで常連客によってすぐ満席になってしまいます。
 
Maskedimg_1366 開始は19:30から(受付開始19:00)ですので、まず、腹ごしらえに「いもや」という変な名前の天ぷら店に行くこととしています。
このお店は、神保町の交差点から100メートルほどの路地裏にある小さなお店です。
かなり年配の、いかにも職人風な寡黙のご主人と清楚で上品な感じの奥さんの二人だけでやっています。
とても人気のあるお店で、昼食時(11:30~15:00)には長い行列が出来、並び始めてから食べ終わるまでに小一時間はかかりますが、皆さん、忍耐強く並んで順番待ちをしています。さすがに夕食時(17:00~19:30)には列は短めです。


 
Img_1366 人気の秘密は、注文の品を目の前で揚げてくれ、出来たての美味しい天ぷらをわずか650円で楽しめるからでしょう。
定食のネタは、海老、紋甲いか、白身の魚、掻き揚げ、海苔(または紫蘇)などです。これに大盛りのごはん、熱々の豆腐とわかめのお味噌汁、香の物が付きます。

 
暖簾をくぐると小さなカウンターがあり、7人で満席となってしまいます。
お客は定食に(お好みで)追加のネタを注文します。
ご主人が黙々と手際よく揚げ、揚げ上がるとそれにおかみさんがご飯とお味噌汁を添えて出してくれます。
驚くのは、メモもないのに全てのお客の追加注文内容をおかみさんがしっかり覚えていて、食べ終わると正確な代金を請求してくれるところです。
 
美味しい天ぷらで身も心も満たされて、定刻の19時目掛けて会場に向かうのですが、これがとても分かりづらいところなのです。
初めて訪れた際には、「らくごカフェ」のある建物(神田古書センター)の正面の入り口から入って狭い階段を5階まで上ってみたのですが全く見当たりません。困り果ててしまってお店に電話をしてみると、なんと建物の裏口からしか入れず、しかもそこにたどり着くには、隣の建物の脇の道を大回りしないと駄目なのでした。

 
Img_3145 苦労して会場に着いてみると、19:00前というのに、30人ほどがもう並んでいます。常連さんのようで、そのほとんどが女性。
やせ細って弱々しい感じのわさびさんが母性本能をくすぐるのかも知れません。
 
この落語会の目玉は、毎回、前月の会で客席から出されたお題3つを元にわさびさんが三題噺を創作して披露するもの。
初めて参加した回のお題は、「お酒の失敗・座右の銘・猪突猛進」でした。

そして、隔月で古典のネタおろしがされます。毎月の三題噺の創作と隔月でのネタおろしが彼の良い修行の場になっています。

初参加の回では開口一番が「風呂敷」。これは、彼がレギュラーで出ているNHK(Eテレ)の「落語ディーパー」の番組で古今亭特集が組まれることになり、その準備のための練習と断っていました。
マクラでは、直前に武道館で行われた、らくごカフェ100回記念公演の模様が紹介されました。
出演した一之輔や天どんなど先輩師匠方の楽屋裏話が披露され、面白かったです。
本題に入っても、彼なりの仕草やクスグリの工夫がされていて、客席を大いに沸かせていました。
 
二席目は、注目の三題噺。「楽しいシラフ」と題して、どんなに飲んでも酔えない人物と酔客のやりとりを色々な格言を交えて可笑しく仕上げていました。

中入り後は、次月のお題の決定コーナー。聴衆があらかじめ一人一題ずつお題を書いて箱に入れた紙をわさびさんがランダムに5つ選択。この中から、客席の拍手の多かったトップ・スリーが次月のお題となる仕組みです。
 
初めて参加した回の三席目は、お馴染みの「だくだく」。空っぽな部屋の壁に家財道具などを描かせる場面で彼らしい工夫と仕込みがしてあって十分楽しみました。
 
口演終了後には出口でひとりひとりのお客さんをわさびさんが送り出し。私が「甲斐晶」であることを認識してくれていて、とても有り難く思いました。わさびさんの追っかけも多く、毎回、差し入れの山のスナップがわさびさんのツィッターで紹介されます。
 
昨年は9月下旬から11月上旬まで真打昇進披露興行の多忙な中で毎月の「月刊少年ワサビ」をこなしたのですから、わさびさんは凄い!53㎏だった細い体がさらに痩せたように思えます。
 

家内からさらなる叱責の声が聞こえてきそうなので、今年こそ自粛しようと思っている今日この頃なのですが・・・・。

甲斐 晶 (エッセイスト)
   

 

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十時打ち

バレンタインデーの日の夜(2019年2月14日)、後楽園に近いBXホールで開催された古今亭駒治独演会に出かけました。

 

 
20181024213037055駒治が昨年秋に真打昇進を果たしたことをお祝いする会も兼ねていて、開演前と仲入りの時には、お祝い酒が振る舞われていました。
 
この夜は、「We are
イデオッツ!」、「十時打ち」、中入り後に「おこっぺ本線」の3席をたっぷり聴かせてくれました。いずれも、私にとって初めて聴く噺です。
 
最初の演目は、3年前にネタおろししたものの、しばらく寝かせてあった噺で、3年ぶりに復活させたとのこと。
彼のブログによれば、「 選手権優勝を目指す弱小チアリーダー、城北大学イディオッツ。襲いかかるライバルの魔の手、チームの不和。キャプテンのあかりは、孤軍奮闘する。『辛いときこそ笑顔よ!』 青春の輝きが胸を打つ、私たちのグラフィティ。」と紹介されています。
いつものように、テンポの良い語りと、何でもありの思いがけない話の展開に、ついて行くのに苦労しますが、そこここに爆笑のネタが仕込まれていて、笑いの連続でした。
 
二席目の演目は、彼の代表作「戦国鉄道絵巻」に比肩する名作だとかねてから聞いていて、是非とも生の高座で聴きたいものと願っていたので、思わず「やった!」とひとり心の中で叫んでしまいました。

 

実は、この噺を求めて、昨年秋の彼の昇進披露興業を追いかけたのですが、前売り完売のため唯一参加できなかった上野鈴本での披露興行で口演され、見逃してしまったのです。

 

 
Img_3081発売開始の10時にプラチナチケットを必ずゲットする「十時打ち」の名人谷口職員とその娘みどりを人質にして、永遠のライバル上野駅と東京駅が抗争を繰り広げる姿を面白可笑しく描いています。
同じJRの指定席等発券システムMARSを扱った、志の輔の「みどりの窓口」に勝るとも劣らない、抱腹絶倒のお話です。
ただ、「十時打ち」の方は、鉄道マニアの駒治らしく、鉄ちゃん受けのするクスグリが随所にちりばめられていたり、古典落語の「明け烏」のパロディが仕込まれていたりて、会場に爆笑の渦を巻き起こしていました。
 
三席目の演目は、この2月の初めにネタおろししたばかりの噺とか。
廃線になる「おこっぺ本線」をかつて中学生時代に訪れた男性と沿線に住むキツネとの30年ぶりの心温まる交流を描いたもの。
ここでも、古典落語の『子ほめ』のパロディがさらりと触れられていたり、キツネが成城石井の油揚げにはまってむさぼり食べる姿などが滑稽に演じられたりして、大いに楽しみました。
 
念願の「十時打ち」を聴けた幸福感に包まれながら家路に就きました。

 

 

 

甲斐 晶 (エッセイスト)

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古今亭駒治真打昇進披露興行

001この秋、落語協会に属する5人の二つ目が真打に昇進し、その披露興行が9月21日から11月10日に亘って、東京の4つの定席と国立演芸場で行われています。昇進したのは、古今亭駒次 改メ 古今亭駒治. ・柳家さん若 改メ 柳家小平太. ・柳家花ん謝 改メ 柳家勧之助. ・林家たこ平 改メ 林家たこ蔵. ・古今亭ちよりん 改メ 古今亭駒子の5人です。このうち私は、古今亭駒治のファンなのでその真打昇進披露興行に上野鈴本まで行って参りました。

実は、11月の半ばまで行われる駒治の真打披露興業の初日は9月23日(日)の鈴本ででした。
当日、4時頃に鈴本の前に出向くと、既に、地下鉄上野広小路駅側の最初の信号のところまでの長蛇の列。
列に加わって30分ほど待っていると、係の方が整理のために現れて、「当日券はありません」とのご宣託。
仕方無く、駒治の人気の凄さを再認識しつつ帰路に就いた次第でした(日曜日と重なったためかも知れません)。

家に帰って早速、ネットでその次の興業である9月27日の前売り券を入手し、ようやく彼の真打披露興行第2夜に参加できたと言うわけです。

Img_1850色物を除いて、プログラムは以下の通りでした。(漫談風だった歌之介の正確な演目名は不明です。)
 柳家
花ごめ 「狸の恩返し」
 五明楼 玉の輔 「宗論」
 古今亭 志ん橋
「熊の皮」
 古今亭 菊之丞 「親子酒」
 鈴々舎 馬風
「楽屋外伝」
 林家 正蔵
「松山鏡」
  お仲入り
 -真 打 昇 進 襲 名 披 露 口
上-
 柳亭 市馬  「やぶ医者」
 三遊亭 歌之介
「方言・外国語漫談」
 <古今亭 駒次 改め>    古今亭 駒治
「ビール売りの女」

市馬の「やぶ医者」は寄席で聴くのは初めてでしたが(長い噺を良く15分に纏めていました)、その他のものはいずれも寄席の定番で何度も聴いたお馴染みの噺でした。

Img_1854ただ、菊之丞がマクラで、小三治、さん喬、市馬師匠たちが全くの下戸であることを披露していたは興味深かったです。
いずれの師匠方も、試し酒、禁酒番屋、猫の災難など酔っ払いの出てくる噺で酒飲みの酔態を演ずるのが上手いので、これは意外でした。
もっとも、下戸の方が酔客の態様を冷静に分析出来るのかも知れません。

また、いつも噛んだり、滑ったりすることの多い正蔵なのですが、松山鏡は十八番なのでしょうか。大変上手く演じていました。

真打昇進の披露口上では、本日の演者のうち、師匠の志ん橋を始め、司式(?)の玉の輔、落語協会会長の市馬、副会長の正蔵、最高顧問の馬風と、お歴々たちが口上を述べていました。
いずれも、ユーモアたっぷりで、こんなに和気藹々とした披露口上を見るのは初めてでした。この間ずっと駒治が顔を上げたまま前方の一点を見つめ続けていたのが印象的でした。

実は、トリの駒治のネタとしては、私がまだ聴いたことの無い、有名な「10時打ち」を期待していたのです。
風の便りによれば、23日に名作「鉄道戦国絵巻」を出したとのことだったので、昨夜は近くの上野駅にちなんだ「10時打ち」をやってくれるのではとの期待がいやが上にも高まったのですが・・・。
結局は、ヤクルトファンである駒治が神宮球場のビール売りの女性たちの壮絶バトルを描いた新作でした。
途中、客席のお客さんによる手拍子の全員参加などもあって、大いに盛り上がりました。


Img_0435_3これから「10時打ち」に出会うため、スケジュールの許す限り、鈴本以外の定席での駒治の真打襲名披露興業巡りが始まりそうです。

(この日出た正楽の紙切りで、運良く私のお題「お月見」が採用され、彼の作品を貰うことが出来ました。カミソリで切ったような細やかなハサミさばきは見事なものです。)

 

 

 

甲斐 晶 (エッセイスト)

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国境なき落語団

B00132_main落語の魅力を世界に知って貰おうと、外国語の字幕を駆使して落語の海外公演を行っているのが、在日15年のドイツ人女性、クララ・クレフとさん率いる「国境なき落語団 」です。2011年に日独修好150周年を記念して、クララさんの故国ドイツに三遊亭兼好師を派遣して以来、2017年10月までに総計15人の落語家が海を渡って、ヨーロッパ16カ国、4900人の観客の前で日本の古典芸能を披露。公演は大成功で、観客達は毎回日本の独特な話芸の虜になっているようです(上の写真は、ポーランド・ワルシャワ「日本の波」フェスティバルで落語を演じる柳家小せん師匠 =2017年6月。撮影=Maciej Pogorzelski)。

 

 

 

B00132_ph03私が、字幕付き海外落語会の存在を知ったのは、現在人気急上昇中の噺家、古今亭一之輔に密着取材してそのプロフィールを紹介した特番でした。正確な番組名は忘れてしまいましたが、一之輔が2016年の秋の海外落語公演に出かけた姿が描かれました。大学で日本語を学んでいる学生達を前にした口演で、果たして分かって呉れるのだろうかと奮闘する様子が放映されたのです。(左の写真は、オーストリア、ウィーン大学での春風亭一之輔師匠の口演=2013年(撮影:キッチンミノル))

 

 

 

Photo_3私は、二つ目の噺家の中では特に柳家わさびさんに注目していて、彼のツイッターをフォローしています。そこにおいて、今年(2018年)も6月に、橘家文蔵師匠とわさびさんがドイツ・ノルウェー・ポーランドを約10日間に亘って海外落語公演をしていることを知りました。凄みのある文蔵師匠と吹けば飛ぶようなわさびさんの弥次喜多珍道中の模様がツィッターで配信されていて、読んで見るととても面白いのです。是非ともその帰国後の凱旋公演に参加したくなって、早速チケットを購入しました。 

 

このことを、フェイスブックの特定の落語仲間だけに公開されているグループサイトに投稿したところ、仲間のひとりから、この字幕付き海外落語会の活動が、上述した「国境なき落語団」の活動であることを教えられたのです。 

 

彼によると、「今年の欧州公演は文蔵・わさびですが、一之輔・ぴっかりとか、扇辰・小辰とか毎年様々な落語家が行っています。企画の中心はクララさんというドイツ人です。観客の大部分は日本語が分からない中で落語家は日本語で演じ、英語、ドイツ語などの字幕を落語にあわせて出すという公演です。日本での予行演習の落語会で正太郎の「愛宕山」を見たのですが、字幕が大変よくできていました。数年前にはぴっかりさんがパスポートを盗まれて次の公演先に行けるかどうかが危ぶまれたが、総領事がすぐに手配してくれたので何とかなったとか、いろんなエピソードがあるようです。私は残念ながら今年の凱旋公演には行けませんが、会場がユーロライブなので、道中で撮影されたスライドが映されたりして面白い会になるのではないでしょうか。」とのこと。ますます期待が高まりました。(左上は、「橘家文蔵 欧州公演落語会2018」のポスター。)

 

 

 

Photo_4上述した「橘家文蔵 欧州公演落語会2018」と題したツイッター、@BunzoinEurope では、この海外落語会での公演を経験した噺家、柳家喬太郎、桃月庵白酒、古今亭一之輔の各師匠からの面白コメントが紹介されていたり、遠征資金集めのために制作された手拭い(二種)や缶バッジが披露されていたりするほか、旅先での珍道中ぶりを描いた動画やスナップが時々刻々アップされていました。 

 

左上の画像は、「橘家文蔵 欧州公演落語会2018」の応援手拭いで、イラストレーターとつかりょうこさんの作品。 

 

北欧各地でのお二人の微笑ましいコスプレ似顔絵が満載。にがみばしった文蔵師匠もひたすら可愛らしく、吹けば飛ぶようなわさびさんは文蔵さんよりも二回りも小さいサイズに描かれ、頼りなさそうに文蔵師匠に寄り添う姿が何とも可愛い限りです。 

 

お二人が無事に帰国された後の6/19の晩、渋谷ユーロライブで開催された橘家文蔵欧州公演落語会2018〜凱旋公演〜に出かけました。 既に開演前、旅先のドイツ・ノールウェー・ポーランドでのビデオ・クリップが流されていました。

 

 

 

次いで、公演冒頭のトークでは、旅先のスナップ写真をスライドショーで流しながら、橘家文蔵師匠と柳家わさびさんの二人が普段着での掛け合いで、旅先の面白いエピソードを次々と約1時間に亘って披露。中々興味深かったです。

 

 

 

Dfgwskuxuae49bc_2トークの最後には、ポーランド公演に合流した遠峰あこさん(唄うアコーディオン漫談)が飛び入り。ポーランド民謡「赤いりんご」の空耳バージョンを披露しつつ、欧州公演の聴衆の反応ぶりなどを報告してくれました(左は、公演の行われたポーランドのブロツラフに一人残って路上ライブをしている遠峰あこさん。その後、若者達とカフェーで後で述べるような「芝浜」談義に花を咲かせたそうです。出典:@acotomine)。

 

 

 

文蔵師匠は、公演で「ちりとてちん」と、なんと大ネタ「芝浜」を演じたそうです。芝浜のオチを言ったとたん、聴衆の「おーっ」との割れるような反応に、日本との差を感じたとか。その種明かしを、その後もポーランドに残ったあこさんがしてくれました。あこさんが聴衆だった若者達に芝浜の印象を聞いたところ、嘘をつくのは罪とのキリスト教文化があるので、いつおかみさんに不幸が訪れるのかハラハラしながら聴いていたところ、思いがけないオチにびっくりした由。文化の差が同じ落語を聴いても違った反応になるのでしょうね。

 

 

 

Photo_5更に、彼女の話だと男子と女子で受け止め方が違っていて興味深かったとか。男子は、夫を騙した奥さんはけしからんという意見が多かったのに対して、女子は、あんな駄目亭主を立ち直らせるにはあの嘘は必要で、ああでもしなければ二人は破滅したはずとの意見。単純な男に対してクールでしっかりした女性というのは、「芝浜」に出てくる夫婦を持ち出すまでもなく、万国共通のようです。

 

 

 

そして、仲入りの直前、旅先でわさびさんが描いたスケッチ5枚などが、ジャンケン勝負に勝った5名の聴衆にプレゼントされました。

 

 

 

私の座席の後ろの方が、その一枚をゲットしたので、スマホで取らせて戴きました。オスロで目撃した、ホームレスがゴミ箱をあさっているところのようです。

 

 

 

とても水彩画とは思えないほどの見事な写実性にびっくり。さすがは、日芸油絵科出のわさびさんです。笑点の紙芝居落語でもその腕前を披露していましたっけ。

 

 

 

Photo_6中入り後は、わさびさんの「ジャーマンポテト宿」。古典の「茗荷宿」を改作した、今夜限りのネタです。創作落語の作者でもあるわさびさんは、原作者へのリスペクトから、改作は極力避けることにしているとのこと。しかし、旅先で毎日のように食事に出たため、3日で辟易となった「ジャーマンポテト」をテーマに、時折、ドイツ語のフレーズを交えながら、聴衆の笑いを取っていました。

 

 

 

トリは、文蔵師匠の「猫の災難」。欧州公演中、ツイッター@BunzoinEuropeに毎日のように投稿される動画では、いつも赤い顔を晒していた師匠でした。そうしたお酒飲みの師匠ならではの呑ん兵衛の描写は見事でした。

 

 

 

 

トリの開始時間は、サッカーワールドカップの日本対コロンビア戦の真っ最中。会場外のあちこちのスポーツパブで観戦中のサポーターの応援の歓声が漏れ聞こえる中での凱旋公演でした。

 

 

 

甲斐 晶(エッセイスト)

 

 

 

 

 

 

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落語研究会

「落語研究会」をご存じですか?あちこちの大学にある落研(オチケン)の事ではありません。毎月、月末に三宅坂の国立小劇場で開催される、落語だけ(色物無し)が出し物の落語会のことです。その系譜は戦前の1905年まで遡り、途中、戦争を含め4度の中断があって、現在は第5次となります。そして、平成30年6月には通算第600回を迎えることになる歴史有る会なのです。現在は、TBSが主催していて、収録した中から選んだ演目が地上波で毎月第3日曜日の早朝4時から「TBS落語研究会 」として放映されています。

Tbs我が家のビデオレコーダーには、キーワード録画の機能があり、「落語」、「オペラ」、「オーストリア」など好みのキーワードが設定してあって、番組情報のデータや番組タイトルなどからこれらのキーワードを含む番組が自動録画されます。そうして録画された番組の中に、「TBS落語研究会」があったのです。番組の最後に必ず次回開催の案内が出演者リストと共に示されるので、「落語研究会」の存在を知るようになった次第です。


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590席ある国立小劇場の座席のうち、当日券用は78席だけであとは全て年間を通じた予約指定席(「定連席」)となっているようです。当日券の発売は開演30分前の18:00からなのですが、人気の噺家が出演する回ではすぐに「満員御礼」となってしまいます。実際、勤め先を早めに退社して17:30頃に会場に着いて見ると、時既に遅く、当日券を求める長い行列が出来ていて「満員御礼」の表示があって、地団駄を踏んだ経験が何度かありました。





Photo_7どうにかして「定連席券」を得たいものと、数年前に事務局に問い合わせたところ、年度末にその発売申込手続きがあることを知って、以後何度か申し込んだのですが、毎回落選。定連席を持っている人は次年度も継続を希望する人が多いようで、新規募集のために開放されるのは毎年
4060席ほどしか無いのですから、当然、倍率が高くなる訳です。でもその昔は、定連席を求めて数日前から赤坂のTBSで並ぶ という、涙ぐましい苦労を強いられていたようで、それを考えれば現在のシステムは格段に良くなっています。そんなことが3度続いた昨年3月、何と見事に当籤したのです。倍率の高くなると思われる前の方の席ではなくて、最後列の席(B席)を選ぶ作戦が成功したようです。

定連席券の値段は高いのですが(A38,000円、B33,000円)、当日券(A3800円、B3300円)の10回分で12回聴けるのですからお得なはずです。しかしながら別用と重なることもままあって、結局、昨年は9回しか参加できませんでした。でも、当日券を求めて並ぶ必要がないのは明らかに便利です。

昨年の4月が定連席券を得て初めての会でしたが、周りはもう何年も定連席を続けている方ばかりのようで、お互いに親しく話し合っている姿が印象的でした。ところが、私の隣りは、とてもユニークな方のようで、噺家が高座に座ったり、噺が終わって退場したりする際に、聴衆が皆拍手をしても決して付和雷同することもなく、その上、噺の間中くすりともしません。極めて取っつきにくそうな方でしたが、平成29年度最後の会である一昨日、思い切って話しかけたところ、大いに話が弾み、思いがけない人柄であることが分かりました。決して印象で判断してはいけないことを悟らされた次第です。

この晩は、開口一番が入船亭小辰の「蟇の油」、次いで柳亭こみちの「稽古屋」、仲入り前が古今亭志ん輔の「宗珉の滝」、膝代わりが桃月庵白酒の「粗忽長屋」、そしてトリが柳家小三治「千早ふる」というプログラムでした。

Photo_3平成29年度芸術選奨 大衆芸能部門で文部科学大臣新人賞を受賞した白酒と人間国宝の小三治が出ることから、18:00の当日券発売開始前に既に割り当て枚数を超える80名以上が並んだため、この晩も行列制限が行われたようです。

こみちの「稽古屋」は真打ち昇進で初めてネタおろしをしたそうで、志ん輔の「宗珉の滝」同様、私にとっては初めて聴く噺でした。こみちによる同様の音曲噺「豊竹屋」をこの落語研究会で聴いたことがありますが、こみちの唄と踊りの巧さ、芸達者ぶりが今回も印象に残りました。女流噺家は、どうしても江戸弁が女っぽくなってしまって限界を感じるのですが、彼女にはそんなところがみじんもありません。今後の活躍が楽しみです。

志ん輔の「宗珉の滝」は金細工名人で二代目横谷宗珉となった横谷宗次郎が親方から勘当中に紀州の殿様のお抱えになるまでの人情噺風の演目です。噺の中で志ん輔が、「錦明竹」に出てくる「横谷宗珉四分一拵小柄付の脇差」とはこの宗珉のことと解説するのに、「錦明竹」の一節を演じていたのはとても興味深かったです。

白酒の「粗忽長屋」は彼なりのくすぐりが満載で、どこまでも明るくて爽快な爆笑噺に仕上げていて、白酒ワールドを大いに楽しみました。オチも伝統的なもので無く、彼なりのものに変えていました。

Photo_6小三治が「千早ふる」という軽い噺をどう演ずるのか興味津々でしたが、間の取り方が絶妙で、さすが人間国宝との感を深めました。頸椎を手術したばかりで、リューマチも患っているようですが、大いに長生きして戴きたいものです。

ところで、私のお隣さんは亭号をお持ちで、素人ながらお仲間と落語を演じておられるとのこと。これまで3年間この定連席を続けてきたけれど、これからは他の趣味(島巡りや寄席巡りなど)に生きたいのと、自宅が遠いため帰宅が遅くなってとてもきついので、これで落語研究会を卒業するとのことでした。紙切りのリクエストでその年の干支を切って貰い始めており、十二支を全て集めたいとの目標を立てておられ、これまでに2つ集めたとか。いつまでもお元気でその念願が全うされますように。でも干支にちなんだ紙切りの蒐集は年に1回のペースでしょうから、まだ10年はかかりそうです。ご苦労様。

 

甲斐 晶 (エッセイスト)



























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商社殺油地獄余話

前回、「落語の楽しみ」と題して、落語に親しむようになったいきさつや好みの噺家について書きました。現在活躍中の3人、柳家小三治、春風亭小朝、桂文珍の名前を挙げて、それぞれの人柄や噺の特徴などを紹介しました。

 

 その中のひとりで上方落語の雄、文珍師匠の持ちネタのひとつに「商社殺油地獄(しょうしゃごろしあぶらのじごく)」があります。初めて聴いたのは、何年か前のANA国内線の機内でした。奇想天外な展開に抱腹絶倒したことがあります。帰宅後早速AmazonDVDを求め、聴き直して見ました。

 

 104このDVDは、2008年春に大阪で行われた「桂文珍10夜連続独演会」をDVDに録画したシリーズの第4夜に収録されたもので、「包丁間男」という噺と一緒に収められています。

 

 従前から文珍さんは、日本全国、各都道府県を訪れては、その地の公会堂などで独演会を開催するという地道な活動を続けています。東京でも毎年春先に国立劇場小劇場で「桂文珍大東京独演会」を数日間開催して、好評を博しています。

 

特に2010年には、46日から15日まで、1600人を収容する国立劇場大劇場で10日連続独演会を実施。その人気からチケットは即日完売し、連日満席の会場は大爆笑の渦となったという、半ば伝説的なものとなっています。この熱演の模様がやはりDVDシリーズ「桂文珍大東京独演会」として発売され、くだんの「商社殺油地獄」はその第6夜に「高津の富」とともに収録されています。

 

Photo_5「商社殺油地獄」は、ある産油国、駐在員3人だけの日本商社の小さな出先の噺です。新国王の就任1年記念イベントを取り仕切っているのがアラマ・ハッサンさん。彼は、新国王が日本留学の経験もある大の親日家であって、能狂言にとても関心が深いことから、記念レセプションで狂言をやるように駐在員に注文を付けます。

 

そうした事情を全く知らない日本人商社マンは、もともと狂言には疎いのですが、どうせ王様には分かりっこないと高をくくり、あわよくば油の割り当てを増やして貰いたいとの下心をもって、にわか勉強で新作狂言『天才バカボン』を国王の前で演ってみせるという筋です。結局は、目論見どおりには行かずに落ちになるのですが、あの有名な漫画の主人公達を狂言に登場させて、パロディ化。これが、滅茶苦茶に可笑しいのです。

 

文珍さんは浄瑠璃や謡曲の素養があるようで、賑やかな鳴り物入りの狂言の場面になると、見事な節回しで「謡い」を披露します。

 

ところで、噺の中味がパロディであるばかりではなく、「商社殺油地獄」というタイトルも、近松門左衛門が人形浄瑠璃のために書き下ろし、明治になって歌舞伎に翻案して大当たりを取った作品「女殺油地獄(おんなころしあぶらのぢごく)」の演題をもじったものなのです。

 

歌舞伎の方のあら筋はこうです。油商河内屋の次男坊で札付きの不良息子与兵衛は、義父の徳兵衛が番頭上がりで遠慮がちなのをいいことに放蕩三昧。ついには家を追い出されますが、両親は、親心から与兵衛が来たら渡してくれと、同業で懇意にしている豊島屋のお吉の元に金を届けます。それを目にした与兵衛は、借りた金の返済期限が迫っていたことから、お吉に金を融通してくれと頼みますが、そんな大金は貸せないとお吉に断られて逆上。油樽を倒して油だらけになりながら、逃げるお吉を殺害し金を奪いますが、結局捕らえられてしまうのです。

 

さて、是非とも「商社殺油地獄」を生で聴きたいものと、ここ数年来「桂文珍大東京独演会」に出かけるのですが、いつも空振り。一昨年など、リクエストを求められて「商社殺油地獄」と叫んだのですが、その日の昼の部でやったばかりということで駄目でした。

 

そして、満を持して臨んだ昨年4月、幸運にも手を挙げた私のリクエストが採用され、「商社殺油地獄」を演じて戴けました。話の筋は分かっていながらも抱腹絶倒で大いに堪能いたしました。

 

甲斐 晶 (エッセイスト)

 

 

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