マネー

ユーロ登場

 408pxeuro_symbol_gold_svg欧州統合の象徴として、今から6年前の2002年元旦から、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル及びスペインの12ヶ国において共通通貨EUROが導入されました(ご興味の方は「ユーロにまつわるトリビア」もご覧下さい)。しばらくは各国のこれまでの通貨も流通するよう経過期間が置かれましたが、最も遅い国でもその年の31日以降は使えなくなりました。

 新通貨の名称EUROは、1995年のEUサミットで正式に採用。1ユーロは、100セントで、両単位とも英語では単複同形です。その通貨記号は、ギリシャアルファベットの第5字ε(epsilon:英語のE)に由来しており(上図参照)、ヨーロッパの頭文字でもあります。Euro_banknotes_2

  さて、新たに発行された7種類のユーロ札(5、102050100200及び500ユーロ)のデザインを手がけたのは、1996年のコンテストを勝ち抜いた、オーストリア国立銀行所属のデザイナーRobert Kalina氏です。Sm_kalina4b1 お札のデザインは、ヨーロッパの建築遺産を象徴しており、表側には開かれたヨーロッパと協力の精神を示す窓や門を、裏側には建築史の7つの時代区分(小さい金種から順に、古典、ローマ、ゴシック、ロマネスク、バロック・ロココ、鉄とガラスの建築及び20世紀建築)の橋をモチーフにして、ヨーロッパ人同士及びヨーロッパと世界の人々とのコミュニケーションを表しました。

 T_kal_100_b Kalina氏が苦労したのは、「どのデザインもいかなる国の特定の記念建造物や英雄を示唆してはならない。」との制約でした。そこで彼は、ヨーロッパの偉大な橋のあちこちの部分をコンピュータで組み合わせて、誰にでも受け入れられる中立的な橋に仕上げたのです。しかも、これを構造設計の専門家にチェックさせて、強度上問題ないことを確認したそうです。T_kal_100_f_2

発足当時の各お札に共通なのは、EU旗、12の星、EUの地図、ユーロ加盟12ヶ国の言語による欧州中央銀行の略称名(BCEECBEZBEKTEKP)、同総裁の署名、通貨単位のラテン文字(EURO)及びギリシャ文字(ΕΥΡΩ)での表記でした。

 626pxeuro_coins_version_ii 一方、8種類の金種(1251020及び50セント並びに1及び2ユーロ)で発行されるコインの場合、裏側のデザインは、お札同様各国共通のデザインですが、表側のモチーフは、各国自由なものとなっています。従って、全部で8x1296種類の新しいコインが発行されるのですから、蒐集家にとっては、たまらないことでした。しかも、ユーロ加盟国のどの国が発行したコインでも他のどの国でも通用します。ドイツ人がフランス発行のコインをポルトガルで使うということが可能なのですから、欧州統合の象徴的な出来事のひとつになります。At_coins

オーストリアの場合、8種のコインのデザインは、1セントから始まって大きい方へ、それぞれ、リンドウ、エーデルワイス、アルプス・サクラソウ、シュテファン寺院、ベルベデーレ宮殿、分離派会館、1eモーツアルト、そして、2ユーロは、ノーベル平和賞受賞者のベルタ・フォン・スットナー女史とオーストリアの植物、建築物及び著名人をモチーフにしています。 

さて、ユーロへの切り替えを機に、犯罪組織が一儲けを企んでいました。人々が未だ新しい通貨に不慣れな内に、偽札を掴ませようとの魂胆で、特にお年寄りを狙って「早めに新通貨に交換すれば、良いレートで替えられる。」と言って騙そうとしたそうです。いつも割を食うのは社会的弱者のようです。偽造団に対抗するため、欧州中央銀行側も新紙幣の特徴について詳細は、最後の最後まで公表を控えていましたが、現在では、欧州中央銀行のウエブサイトで、分かりやすい説明がなされています。皆さんも騙されないよう良くご覧になって見て下さい。

甲斐 晶(エッセイスト)

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プラスチック・マネー

北朝鮮製とされる「スーパーK」に代表される精巧な偽札の前に米国が屈し、米国が約70年ぶりに新しい100ドル札を発行して、早10年以上が経ちます。「新札は旧札に比べ、見た目は少し変わりましたが、価値は少しも変わりません。」とのコピーの全面広告を新聞に出して、新札のPRに懸命だったのが、思い出されます。Us_100_070120_230653

 新100ドル札は、フランクリンの肖像を一回り以上も大きくして見やすくしたほか、これをお札の中心から左にずらして配置して対称性を排するとともに(財布に折って入れても肖像を傷っけないため)、こうしてお札の右側に生まれた空間に透かしを設けています。この他にも紫外線対応インク、お札に漉き込んだ金属フィラメント、マイクロ文字の採用など最近の精緻なカラーコピー機による偽造に対抗し得るような措置が講じられています。

 世界のお札を調べてみると、偽札の製造防止のための対策には色々なものがあります。古典的なのは透かしと万線と呼ばれる極く細い線で肖像などを描く手法でしょう。いずれも日本のものは名人芸だとして有名です。Englands

 透かしに次いで特殊技術を要するのが先に述べた極細の金属フィラメントをお札に漉き込む方法で、英国のポンド札、欧州共通通貨のユーロ札、韓国のウォン札などに共通の技術です。ある時、イギリス人の友人から、英国のお金には針金が入っているんだと言われてびっくりしたことがありました。ポンド札を調べてみると、確かにその左端から3分の1あたりに、上下に細長い箔状の金属が漉き込んであるのが分かります。

 現在流通している福沢諭吉の1万円札は、2004年に導入された新しいシリーズのものですが、それ以前のものには通し番号が黒いものと茶色のものがありました。前者の方が古いシリーズで、後者ではお札の裏面の下部にあるレース模様の線が“NIPPONGINKO”というマイクロ文字の羅列で構成されており、偽造防止のための最新印刷技術が採用されていました。虫眼鏡で見ないと分からないほどですから、カラーコピーした場合には消えてしまい偽札と判定できるというわけです。

この他、磁気や紫外線対応の特殊インクを採用したり(日本、スウェーデンなど)、従前のオーストリアの5000シリング札のように、ホログラムでモーツァルトの肖像が浮き出てくるものまであります。 Asch5000fしかし、こうした最新の印刷技術、偽造防止技術をいかに駆使したところで、技術革新の目覚ましい現代のこと、いずれ時間がたてば陳腐化してしまい、偽札造りの技術がこれに追いつき、結局、いたちごっこになってしまうでしょう。

 アメリカはクレジット・カードの発達した社会。カードは仮に本物でなくても、保険が掛かっていますから、顧客に実質的な損害はありません。これに対して、偽札の場合にはそうした救済措置がありませんので、現金は信用されないのです。特に高額紙幣(100ドル札)は敬遠されて受け取って貰えません。現金の有り難がられる日本とは大違いです。

 米国のモーテルでチェックインした際のことです。カードでなく現金で支払うと言ったら、3泊分の前払いを要求されたことがありました。カードを利用できない現金客は銀行から信用されない破産者か、身分をトレースされるのを嫌う不審な奴ということになるのでしょう。(ここで100ドル札でも出そうものなら、何度も裏返しては偽札ではないことを確かめ、そのあげくには店の責任者まで呼んできて、その判断を仰ぎます。まるで犯罪者並みの扱いなのです。)

 モーテルのフロントでの一件を見ていた私の友人のドイツ人が私に向かって、「アメリカは現生よりも、プラスチックを有り難がる国なんだよ。」と、片目をつぶりながら言っていたのが何とも印象的でした。Aul_060217_06

 ところがオーストラリアでは10年ほど前から5種類の「紙幣」全てがプラスチック製です。プラスチックへの精密な印刷は難しい上、この「紙幣」に織り込まれた透明なプラスチック製のシールが透かしの代わりになっています。ますますプラスチックは紙より尊しですね。

甲斐 晶(エッセイスト)

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ユーロにまつわるトリビア

 欧州の単一通貨、ユーロの紙幣と硬貨が市中に登場して丸5年となった2007年1月1日から、スロベニアでもユーロを使用し始めたので、EU域内のユーロ圏は13ヶ国となりました(*注)。ヨーロッパを旅する者にとって、ユーロ圏内なら行く先々で両替をする手間が省け、とても便利です。以下、ユーロに関するトリビアをご紹介しましょう。140pxeuro_symbolsvg

 2007年1月1日現在、EU加盟27国のうち、ユーロ圏に属するのは、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スペインの13ヶ国です(*注)。ユーロ発足当時のEU加盟15ヶ国のうち、イギリス、スウェーデン、デンマークは依然としてユーロ圏には加わっていません。また、ユーロ発足後にEUに新規加盟が認められた12ヶ国のうち、ユーロを導入しているのはスロベニアだけです(*注)。一方、EU加盟国ではないモナコ、サンマリノ、バチカンもユーロを通貨にしています。

 EURO英語ではユーロ、フランス語オランダ語ではウロ、イタリア語スペイン語ポルトガル語フィンランド語ではエウロ、ドイツ語ではオイロ、ギリシア語ロシア語ではエヴロと発音します。日本では英語式の発音ですね。

 1ユーロは100セントで、それぞれを表す記号として  ¢ があるのですが、¢ はあまり使われず、12¢ ではなく 0.12と表記されます。626pxeuro_coins_version_ii

 ユーロ硬貨には、1、2、5、1020及び50セントと1及び2ユーロの8種類があり、表面のデザインはユーロ加盟国の全てで共通ですが、裏面のデザインは国ごとに異なります。例えば、オーストリアで鋳造された硬貨では、1euro_oeモーツァルトやエーデルワイスなどオーストリアにちなんだモチーフとなっています(「ユーロ登場」参照)。

ユーロ紙幣には、5、102050100200及び500ユーロの7種類があり、そのデザインは後に述べる点を除き、基本的には各国共通です。Euro20040727042030_2オーストリア人カリーナ氏のデザインが採用されており、欧州史における建築様式の発展を、人と人をつなぐ「窓」、「門」(表)と「橋」(裏)という図柄によって表現しています。額面の小さい方から順に、古典、ロマネスク、ゴシック、ルネッサンス、バロック・ロココ、鉄・ガラス時代、そして20世紀-現代を示す図柄となっていますが、いずれも特定の国を優遇することの無いよう、架空の建築物ばかりです。また、表側にはEU旗、裏側にはヨーロッパの地図があしらわれています。

お札には、「ユーロ」がEU域内の2つの表記文字(ラテン文字及びギリシャ文字)でEURO及びEYPΩと表記されています。将来、ブルガリアがユーロ圏に加わればキリル文字の表示(EBPO)が追加されるかも知れません。また、表側には、ユーロ発足時のEU公式言語11による欧州中央銀行の略号表記5つ(BCEECBEZBEKT及びEKP)と同銀行総裁のサインも併せて表示されています。サインには、発行時点により初代総裁のものとその後任者のものの2種類があります。

 このように、各国共通の図柄が採用されたユーロ紙幣ですが、その印刷を1箇所だけで行うのは、その流通量からして実際的ではありません。従って、ユーロ発足当時には、全部で15の印刷工場が印刷に加わりました。すなわち、ルクセンブルグ以外のユーロ加盟国11ヶ国にある14工場(原則1国1工場ですが、フランスとドイツは、それぞれ2及び3工場でした)と、ユーロ圏外の英国の1工場で印刷されたのです。

 ところで、お札の印刷された国を識別する鍵がアルファベット1文字と11桁の通し番号からなる発券番号に隠されています。冒頭のアルファベット及び11桁の数字の各桁の数字の和(2桁になれば、さらに1桁になるまで和を求める)が、お札の国籍を示しており、例えば、オーストリアではそれぞれがNと3になっています。その他の国の場合についてもお知りになりたい方は、是非、WikipediaのEuro Banknotesをご覧下さい。もしも、お手元にユーロ紙幣があれば、その出身国をこれで調べてみるのも面白いでしょう。

*注:その後、キプロスとマルタが加わり15ヶ国となっています。

甲斐 晶(エッセイスト)

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