ユーロ登場
欧州統合の象徴として、今から6年前の2002年元旦から、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル及びスペインの12ヶ国において共通通貨EUROが導入されました(ご興味の方は「ユーロにまつわるトリビア」もご覧下さい)。しばらくは各国のこれまでの通貨も流通するよう経過期間が置かれましたが、最も遅い国でもその年の3月1日以降は使えなくなりました。
新通貨の名称EUROは、1995年のEUサミットで正式に採用。1ユーロは、100セントで、両単位とも英語では単複同形です。その通貨記号は、ギリシャアルファベットの第5字ε(epsilon:英語のE)に由来しており(上図参照)、ヨーロッパの頭文字でもあります。
さて、新たに発行された7種類のユーロ札(5、10、20、50、100、200及び500ユーロ)のデザインを手がけたのは、1996年のコンテストを勝ち抜いた、オーストリア国立銀行所属のデザイナーRobert Kalina氏です。 お札のデザインは、ヨーロッパの建築遺産を象徴しており、表側には開かれたヨーロッパと協力の精神を示す窓や門を、裏側には建築史の7つの時代区分(小さい金種から順に、古典、ローマ、ゴシック、ロマネスク、バロック・ロココ、鉄とガラスの建築及び20世紀建築)の橋をモチーフにして、ヨーロッパ人同士及びヨーロッパと世界の人々とのコミュニケーションを表しました。
Kalina氏が苦労したのは、「どのデザインもいかなる国の特定の記念建造物や英雄を示唆してはならない。」との制約でした。そこで彼は、ヨーロッパの偉大な橋のあちこちの部分をコンピュータで組み合わせて、誰にでも受け入れられる中立的な橋に仕上げたのです。しかも、これを構造設計の専門家にチェックさせて、強度上問題ないことを確認したそうです。
発足当時の各お札に共通なのは、EU旗、12の星、EUの地図、ユーロ加盟12ヶ国の言語による欧州中央銀行の略称名(BCE、ECB、EZB、EKT、EKP)、同総裁の署名、通貨単位のラテン文字(EURO)及びギリシャ文字(ΕΥΡΩ)での表記でした。
一方、8種類の金種(1、2、5、10、20及び50セント並びに1及び2ユーロ)で発行されるコインの場合、裏側のデザインは、お札同様各国共通のデザインですが、表側のモチーフは、各国自由なものとなっています。従って、全部で8x12=96種類の新しいコインが発行されるのですから、蒐集家にとっては、たまらないことでした。しかも、ユーロ加盟国のどの国が発行したコインでも他のどの国でも通用します。ドイツ人がフランス発行のコインをポルトガルで使うということが可能なのですから、欧州統合の象徴的な出来事のひとつになります。
オーストリアの場合、8種のコインのデザインは、1セントから始まって大きい方へ、それぞれ、リンドウ、エーデルワイス、アルプス・サクラソウ、シュテファン寺院、ベルベデーレ宮殿、分離派会館、モーツアルト、そして、2ユーロは、ノーベル平和賞受賞者のベルタ・フォン・スットナー女史とオーストリアの植物、建築物及び著名人をモチーフにしています。
さて、ユーロへの切り替えを機に、犯罪組織が一儲けを企んでいました。人々が未だ新しい通貨に不慣れな内に、偽札を掴ませようとの魂胆で、特にお年寄りを狙って「早めに新通貨に交換すれば、良いレートで替えられる。」と言って騙そうとしたそうです。いつも割を食うのは社会的弱者のようです。偽造団に対抗するため、欧州中央銀行側も新紙幣の特徴について詳細は、最後の最後まで公表を控えていましたが、現在では、欧州中央銀行のウエブサイトで、分かりやすい説明がなされています。皆さんも騙されないよう良くご覧になって見て下さい。
甲斐 晶(エッセイスト)
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