続・大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました

前回に引き続き、今年(2025年)の9月初めの週に、東京からとんぼ返りで大阪万博を覗いて来たときのご報告です。

当日見学した5つのパビリオンは、大国フランス、小国ルクセンブルグ、鎖国時代から日本と歴史的つながりの深いオランダ、自然とテクノロジーで知られるスイス、そして明治以来文化・芸術面で深い交流のあるオーストリアと、いずれもその国らしい特徴のある展示内容でした。ただ、 フランス館では、もっぱら、ルイ・ヴィトンの旅行トランクやクリスチャン・ディオールのドレスや香水の夥しい数の陳列ばかりが目立って、商業主義的な匂いを感じてしまいました。フランスらしいもっと文化・芸術の国らしい展示が望まれました。唯一の救いは、展示Img_1615_20250923234001 内容とは無関係に、手をモチーフにしたロダンのブロンズ彫刻の小品が見学通路のあちこちに配されていたことでした。また、円形状のプールの中央に設置されたステージの上に、見事なオリーブの巨木が展示されていたのが印象的でした。こんなに立派なオリーブの木はこれまで見たことがありません  (上図参照。写真をクリックすると拡大します。以下同様。)。

Heidi オーストリア館のお隣がスイス館。「ハイジとともにテクノロジーの頂へ」とのテーマで、公式マスコットであるアニメのハイジがアルプス文化と最新テクノロジーが共存するスイスの実像を紹介して呉れます。

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入館するとすぐに、スイスの街並みを描いた巨大な切り絵が目に飛び込んできます。そこに、アインシュタインの似顔絵と彼が特殊相対性理論から導き出したあの有名な数式、E=mc2 を見つけましたが(左図)、かつて首都ベルンで彼の住まいだった記念館を訪れたことを思い出し、彼がスイス国籍であったことを気付かされました。

ルクセンブルグ館は小粒ながらも魅力的な展示でした。これまで、ルクセンブルグには首都のルクセンブルグ市しか訪問したことがなく、都市のイメージしかなかったのですが、郊外には豊かな自然環境が存在することを知り、新たな発見でした。最後の展示室の床全体がほぼネット状になっていて、見学者が靴を脱いでそこに寝転ぶと、目の前の巨大な画面にルクセンブルグの田園風景の映像が映し出され、あたかも自分がその中に没入しているかのような臨場感を味わうことが出来ました。かくして、色々なパビリオンを経巡って歩き疲れた足と目を癒して呉れました。

Img_1629 オランダ館では、絵本で有名なあのミッフィが、館内のあちこちの解説パネルに登場(左図参照)。館のテーマである「コモングラウンド=共創の礎」、すなわち、人々が同じ土台に立ち、発想し合えば新しい価値観が生まれ、人類共通の課題を解決できるとの考えを示す展示へと導いてくれました。パビリオンの建物の真ん中に、直径11メートルの白い球体が浮かんでいるのが、その外観上の特徴です。再生可能なクリーンエネルギーと日の出を表していて、その内部は360度スクリーンになっています。入館すると、ひとりひとり、手のひらサイズの球体型デバイス「オーブ」を渡されますが、これが色を変えながら光ります。入館者は、水の流れを操るオーブによって、水素など新エネルギーへの転換を巡る旅へと導かれて行きます。

ベルギー館もルクセンブルグ館同様に、万博閉幕後は解体されて再利用されます。健康と医療分野の最新技術に強みを持つお国柄から、館内では、AI(人工知能)やロボットを活用した最新技術など、国を挙げて注力するライフサイエンス、ヘルスケア分野について紹介されます。「人間の再生」をテーマに、生命の源である「水」と「細胞」を表現したパビリオンとなっていて、水の三態である液体、固体、気体をイメージした外観は、3地方に大別される国土の象徴でもあるとのこと。また、パビリオンの中は3層に分かれていて、水の三態である「固体」「気体」「液体」をそれぞれのエリアで表現していました。見学のあとは、屋上テラスに設けられたレストランで、ビールのほかチョコレートやワッフルなどが提供されており、ステージや万博会場の眺めと共に楽しめるようになっていました。

Img_1636 5つのパビリオンを観終わってみて、オーストリア贔屓の筆者の偏見もあるのかも知れませんが、その展示内容の素晴らしさの点で、オーストリア館に軍配を上げる次第です。音楽の都ならではの「未来を作曲」というテーマは、展示内容ばかりでなく、オーストリア館の建築デザインにも反映されています。前回(大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました)に述べたように、空に向かって立ち上がるような特徴的ならせん状のオブジェは、五線譜をモチーフとしていて、そこには「人類皆兄弟」を標榜するあの有名なベートーベンの「歓喜の歌」の冒頭部分、ミミファソ ソファミレ ドドレミ ミレレ の音符が描かれています(左上図)。

Img_1590  入館者が第1の部屋に入ると、まず、両国の絆を象徴する展示として、1873年のウィーン万博で明治天皇に献上されたという幻のピアノ「エンペラー」(ベーゼンドルフ社製グランドピアノ )のレプリカが目に入ります。その反響版にはあの有名な北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版画が描か れており、このモデルは世界に16台しか存在しないとのこと(左上図)。このグランドピアノには自動演奏の機能があって、入館者を迎えると、モーツァルトの曲と思しき作品を演奏し始めます。日本語ガイドの方にその曲名を尋ねてみると、なんとこれは、ウィーン大学の先生がAIを駆使してモーツァルト風の曲を作曲したものとか。うまく騙されました。天井から下げられたロブマイヤー社製のシャンデリアの光に包まれたグランドピアノの自動演奏を聴くのも素敵な体験でした。

Img_1596 オーストリア館のマスコットキャラクター、Aka-shiro-aka(左図参照)に導かれて入る、第2の部屋は「人々」がテーマで、オーストリアの著名人が紹介されるとともに、現代オーストリアの様々な科学技術・現代文化がデジタル技術で紹介されます。そして、これに続く第3の部屋では、オーストリア館のテーマ「未来を一緒に作曲」を入館者が実体験します。複数のスクリーンで、多数の入館者が同時に異なるSDGsを選択すると、その組み合わせに応じて独自の曲が作曲され、バーチャル・オーケストラによって演奏される仕組みです。

こうして、オーストリア館では、文化・芸術ばかりではなく科学技術の粋も体験することができました。

甲斐晶(エッセイスト)

 

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大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました

今年(2025年)の4月13日から10月13日まで、184日間の予定で開催されている大阪万博に、9月初めの週、東京から日帰りで行って来ました。早朝に家を出、新幹線で新大阪まで往復し、夜分に帰宅するという、ちょっとした強行軍でした。

大混雑必至で、特に人気パビリオンは長蛇の列で長時間待たされることとは知りながらも、あえて出かけることにしたのには、訳があります。実は、5つの在日欧州商工会議所(すなわち、オーストリアビジネス協議会(ABC)、ベルギー・ルクセンブルグ商工会議所(BLCCL)、フランス商工会議所(CCIFJ)、オランダ商工会議所(NCCJ)とスイス商工会議所(SCCIJ))が合同で特別イベントを開催することとなり、日墺協会宛にその招待状が届き、役員に対して公募がなされたので、即、応募したところ、幸運にも限定数名の枠に入ることができたからです。しかも、このイベントの特典の一つが、一般の入場券とは異なって、万博会場への入場日時の指定やパビリオンの入館予約をする必要が無く、ID登録も不要なVIP入場券が入手できる(代金1万9千円)ことから、無理してもとんぼ返りで出かけた次第なのです。

Img_1577旅の準備として、事前にJR東海のアプリ、スマートEXでクレジットカードを登録したうえで新幹線の乗車券・座席指定券を入手。このアプリと自分のスマホに入ったPASMOとの紐づけをしておいたので、当日は、このPASMOを使って、自宅の最寄り駅の改札ゲートをタッチで入場して私鉄に乗車。途中、JR在来線への乗り換えもPASMOで行い、品川駅でJR在来線から新幹線への乗り換えもPASMOでタッチしてOK。乗り換えの際、新幹線の乗り換えゲートをPASMOでタッチすると、「EXご利用票」(左図参照。写真をクリックすると拡大します。以下同様。)が自動的に印刷されて出て来たので、これを受け取りました。これには、予約した新幹線の列車番号、車両番号、座席番号が記載されているので、どこに着席したら良いかが一目瞭然に分かってとても便利でした。

スマートEXが便利なのは、座席指定の変更(指定列車、指定号車、指定座席の変更)がとても簡単で、列車発車時刻までなら何度でも無料でできることです。実際に私も、予約した新幹線の発車時刻よりもかなり早く品川駅に着きそうだったので、予約したものより早い発車時刻の列車に予約変更。入場で手間取りそうな万博会場に当初の予定よりも早めに到着できるようにしました。

久しぶりに新大阪駅に着いてみて、東京との違いをいくつか感じました。日本列島を東京から西にわずか2時間半ほど移動しただけで、エスカレーターの人波の列が、東京では左側は立ち止まって乗る人の列で、右側は急いで駆け上る人の列であるのに対して、大阪では、右側の列が立ち止まって乗る人の列でした。左側は駆け上がる人専用なのかと思いきや、ほとんどの方が左側でもそのまま立ち止まって乗っていました。また、東京では、ホームで電車に乗り込む際には、みんなが整列乗車であるのに対して、大阪では整列などせず、横入りしてもあまり咎める様子は見られませんでした。

新大阪からはOsaka Metroを乗り継いで万博会場の最寄りの夢洲駅へ。地下鉄の車両が夢洲駅に近づくと、「次は、いよいよ、夢洲です。」との車内アナウンス。乗客の胸の高まりを代弁しているかのようでした。

Img_1578 夢洲駅の改札口を出て、万博会場に向かうコンコースに出ると、そこは既に大勢の入場者で大混雑(左の写真参照)。ここで大いにその威力を発揮したのが、前述したVIPチケット。普通なら入場に1時間以上もかかるところを、長蛇の列を横目に見ながらスイスイと専用ゲートへ。お陰で特別イベントの集合時刻、10:30よりもかなり前に、指定の集合場所であるオーストリア館に到着できました(オーストリア館の展示内容については、既報の記事、「EXPO 2025 オーストリア館」を参照)。

Img_1585 特別イベントでは、まず11:30に、貸し切りとなったオーストリア館を日本語によるガイド付きでゆっくり見学。見終わって、あのベートーベンの歓喜の歌の楽譜がデザインされた、らせん状の木製外階段(左図参照)を登って3階のオーストリア・レストランへ。テーブルに着くと、給仕担当の女性がオーストリアの伝統料理を手にして回って来るので、それを好きなだけ取って食することが出来ました。Img_1603
左の写真は、こうして出されたオーストリア料理の数々です。左上から、ヴィーナー・シュニッツェル(子牛肉のウィーン風カツレツ)にフッジリのサラダ。その右が、キャベツのストゥルーデル(Kohl Strudel)にパプリカ(辛口)ソースを添えたもの、そして右端には野菜サラダの一部が見えています。いずれもレベルの高い出来で、ネット検索してみたら、どうもオーストリア本国から来日したシェフやウィーンで修業した日本人シェフが関与していたようです。Img_1606
左の写真は、デザートの数々。杏子のジャムを添えたカイザーシュマーレンと本場のカフェー、ユリウス・マインルのウィンナー・コーヒーを楽しみました。写真にはありませんが、あの有名なザッハートルテ(チョコレートケーキ)も賞味しました。

食事の後は、12:45開始で、お隣のスイス館から始めて、フランス館、ルクセンブルグ館、オランダ館を自分のペースで回って、最後に4:40ごろにベルギー館に入館。5:00から同館で行われるネットワーキング・レセプションの開始まで、ベルギー館をゆっくり見学することが出来ました。6:00ごろになると帰宅ラッシュになって退場する観客で退場ゲートが大混雑になり、会場を出るのに1時間以上もかかると聞いたので、レセプションを早めに切り上げて、帰途に着きました。

特別イベントに参加したお陰で、限られた時間内に、ヨーロッパのパビリオンだけでしたが、5つも見ることができました。どこでもVIP入場券の威力で、待ち時間0で即入館でき、我々のためだけの解説もあったりして、大変優遇されたツアーでした。一般のお客さん達は、炎天下の厳しい日差しの中で、日傘を刺してしゃがみ込み、長時間待たされていましたので、この特別イベントのアレンジはとても有難い限りでした。

残念ながら、紙数が尽きました。上記5つのパビリオンを訪れた感想は、次の記事(続・大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました))と致しましょう。

甲斐晶(エッセイスト)

 

 

 

 

 

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欧州セキュリィ調査団の旅

 2024年9月下旬に、9日間の日程で、欧州における原子力発電所のセキュリティ対策の状況を調査するため、英国、オーストリア、ハンガリーに調査団として出かけて参りました。

 Heysham2_20241027211201 英国では、ランカスター近郊のヘイシャム2原子力発電所(左図)を訪れて、サイバーセキュリティ対策について調査するとともに、その核セキュリティ業務を請け負っている、EDF Nuclear Services社のグロスター本社を訪問し、核セキュリィティ対策の現状について調査しました。New_wins_logo2018large_20241027211201 さらにオーストリアの首都ウィーンにあるWINS(世界核セキュリティ協会:ロゴは左図)を訪問。各国の核セキュリティ対策の現状について調査するとともに、ハンガリーのパクシュ原子力発電所及び原子力規制機関HAEAを訪問して所要の調査を行いました。

 Paksnpp-atomerm_fbejrat_20241027211201 英国のヘイシャム2原子力発電所とハンガリーのパクシュ原子力発電所(左図)では、現場を視察する機会を得ました。現場視察では、思いがけず予定しなかった事物や出来事に遭遇することがあり、それらを我が国の原子力施設に適用して役立てることができるのはと思われることがあります。今回もいくつかそうした事例に遭遇しました。

 61yvjexv9l_ac_sx569_ 例えば、ヘイシャム2の現場視察では、核セキュリティ担当者が随行して原子炉施設内部を案内してくれましたが、立ち入り制限区域を通過した際のことです。この担当者がうっかりしていてスマートウォッチを区域外の所定の保管庫に置くのを忘れて入域していたため、壁に設置された探知器が反応してしまうということが起きました。これはこの探知器の有効性を示すものですが、内部脅威対策の機器として、電磁波を発生する機器の持ち込みを探知する機器に適当なものはないかと探していた電力会社所属の団員にとって有益な情報となったことと思います。

 また、同発電所の食堂を利用した際のことです。天井から、AからZのアルファベットの看板が吊り下げられているのを目撃しました。何のためのものか随行者に尋ねると、安全上の緊急事態が発生した際に、食堂が職員の1次避難の集合場所として利用されていて、職員は自分の姓の頭文字のアルファベットごとに該当する看板の下に整列することになっていて、これによって迅速に安否確認ができるようにしているとのことでした。こうした工夫はわが国でも参考になるのではと思われます。

 Manchesterap 今回の調査日程は、3泊したブダペスト以外、毎日が移動、移動の連続で、毎晩宿泊地が異なるというタイトな状況が続きました。このため、航空会社に預託した荷物を最初の到着地(マンチェスター)で受け取れなかった場合には、その荷物の転送先の指示に苦労することが危惧されたのですが、幸いにもそうした事態に至ることが無くて済んだのは、何よりでした(左図©Euro Travller)。

 ところが、ロンドンからのフライトが遅延したため、ウィーンの宿に着いた時には、すっかり真夜中を過ぎてしまいました。事前にそのことを知らされていなかったのですが、23:00以降はレセプションに全く人がいなくなり、玄関のインターフォンを押しても、何の反応もないのです。すっかり困っていると、やはり遅れて到着したハンガリー人の老婦人が助けてくれました。彼女の英語が流暢ではないので、お互いにカタコトのドイツ語で意思疎通。その結果、ホテルの電話を呼び出すと、担当者が電話口に出るので、自分の名前を告げます。すると、その個人専用のPIN番号を教えてくれるので、インターフォンの横にあるテンキーを使ってPIN番号を入力すると、割り当てられた部屋の鍵が見事に出てきました。やれやれ。

 Haea-oahlogoen_20241027211201 今回の調査にあたっては、実に色々な方々にお世話になりました。特に、親交のあるHAEA(ロゴは左図)の部長には、ショートノーティスでのHAEA及びパクシュ原子力発電所訪問の依頼であったにも関わらず、手厚い対応をして戴きました。さらに、訪問先の手がかりが全く無かった英国の原子力発電所の視察に関しては、本年1月下旬に東京で開催されたWINSのワークショップでご一緒したEDF Nuclear Services社の専門家の手配によって、円滑な訪問が可能になりました。この場をお借りして関係各位に謝意を表する次第です。

甲斐 晶(エッセイスト)

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EXPO 2025 オーストリア館

__20250529220701 大阪・関西万博(EXPO 2025)が2025413日から1013日までの日程で大阪市の「夢洲」で幕を開けました。158の国と地域が参加しており、オーストリアも後述するようなユニークな形のパビリオン(オーストリア館)を建設して参加しています。

 修好156年を迎える日墺関係において、万博は特別な役割を果たしてきました。1873年のウィーン万博の際には、明治政府は文明国たる日本を世界にアピールする絶好の機会と捉えて、初めて自らのパビリオンを建設して参加。その結果、西洋にとってとてもユニークな文化であるジャポニズムが全ヨーロッパ、さらには世界へと大きく広がり、西洋の芸術・文化に多大な影響を及ぼしました。

 一方、オーストリアは、日本で初開催の大阪万博(1970年)は勿論、自然と共存する21世紀社会の創造を目指した愛知万博(2005年)にも、自らのパビリオンを建設して参加し、オーストリアの文化・芸術を幅広く紹介する場としました。

 Alexander_van_der_bellen_13072021_croppe 今回のEXPO 2025では、523日のオーストリアの日(ナショナル・デー)に行われたオーストリア館での式典に参加するため、アレクサンダー・ファン・デア・ベレン墺大統領が来日。これを記念して、日墺二国間の経済フォーラムが521日、目黒の雅叙園において開催され、同大統領も基調講演を行いました。

 このフォーラムでは、多くの演者から、①150年を超える両国関係を通じて、相互に相手国に対する敬意が醸成されており、②両国は、自由、人権、平和、安定、発展、開放、イノベーション、国際感覚などを重んじるlike-minded countries(志を同じくする国同士)であり、③すでにオーストリアから日本には約80社、日本からオーストリアには約100社が投資しており、④オーストリアはEUに展開する上での門戸、また日本はアジアへ展開する上での門戸であることなどが指摘されました。

 Takedaaheadaustria715x328 オーストリアと言えば、ともすればその文化・芸術だけをイメージしがちですが、実は官民を挙げてイノベーションに力を注いでおり、これに着目した武田製薬が、オーストリアの研究開発力と連携するため、20239月にウィーン郊外にバイオ関係の研究所(左上写真参照)を設立していることも紹介されました。

 先に述べたように、本年523日のオーストリアの日には、オーストリア館においてファン・デア・ベレン墺大統領の臨席のもと、ウィーン少年合唱団が両国歌を歌いました。またオーストリア観光大使のHYDE氏も大統領と交流。翌24日には大統領が兵庫県の姫路城を訪れ、同城とシェーンブルン宮殿の「姉妹城」締結式が行われました。(ちなみに大阪城は、「豊臣期大坂図屏風」(リンク先のServus!の記事を参照)が縁で2009年にグラーツのエッゲンベルク城と「友好城郭」提携を結んでいます。)

 Photo_20250529220001 さて、オーストリア館は、大阪・関西万博のシンボルである大屋根リングを時計回りに15分ほど歩いた位置にあり、木製の帯である五線譜がらせん状にぐるぐると17メートルの高さまで空に伸びて行くという、ユニークな外観で一段と人々の目を引きます(五線譜には、ベートーベンの「歓喜の歌」の一節が記されています)。同館は、万博の総合テーマ、「いのち輝く未来社会のデザイン」にちなんで「未来を一緒に作曲」するとのコンセプトで、入館者を両国関係に関する旅へと視覚的、音楽的、情緒的に誘って呉れます。

 Bsendorfer-grand-piano-under-lobmeyer 館の内部は3部構成になっています。まず、「両国関係」がテーマの第1の部屋に入ると、1869年に皇帝フランツ・ヨーゼフ1世から明治天皇に友好の印として送られたベーゼンドルフ社製グランドピアノにちなんで制作された、自動演奏機能を有するグランドピアノがあり、ロブマイヤー社製のシャンデリアの光に包まれています。その反響版にはあの有名な北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版画が描か38817_expoaustrianpavilionboesendorferkl れており、このモデルは世界に16台しか存在しないとのことです。この部屋では、1869年から今日に至るまでの両国関係の歴史における主な出来事が鮮明な動画でスクリーン上に映し出されています。

 やや狭い回廊となった第2の部屋は「人々」がテーマで、オーストリアの著名人が紹介されるとともに、現代オーストリアの様々な科学技術・現代文化がデジタル技術で紹介されます。

 これに続く第3の部屋では、オーストリア館のテーマ「未来を一緒に作曲」を入館者が実体験します。複数のスクリーンで、多数の入館者が同時に異なるSDGsを選択すると、その組み合わせに応じて独自の曲が作曲され、バーチャル・オーケストラによって演奏される仕組みです。

 パビリオン内部の見学を終えた入館者は、らせん状の帯に設けられた階段を登って屋上階に出ると、サウンド・オブ・オーストリアという音響装置があって、これに触れると、教会の鐘の音、ラデツキー行進曲、牧場の牛の鳴き声などを聞くことが出来、オーストリアのランド・スケープならぬサウンド・スケープを味わうことが出来ます。また、屋上からは、EXPO会場の素晴らしいパノラマ景観を眺めることが出来ます。

 Menyu-image17453119442871024x707 パノラマの展望を楽しんだ後は、カフェでオーストリアのグルメを楽しんで見ては如何ですか?定番のヴィーナー・シュニッツェル(左の画像をクリックして拡大して現れるメニューのNo.6)からグーラーシュ(同No.5)、そしてデザートのカイザーシュマーレン(同No.7)、アプフェルシュトゥルーデル(同No.8)、ザッハトルテ(同No.9)、リンツァーシュニッテ(同No.10)に至るまで何でも揃っています。そして、お食事の後には、本場のウィンナー・コーヒー(クライナー・ブラウナーまたはグローサー・ブラウナー、それぞれNo,11、No.12)を是非どうぞ。

甲斐晶 (エッセイスト)

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CNS年次大会等を訪れて

Cnalogo2022 2023年6月上旬に、原子力発電所のセキュリティに関する調査のため、カナダと米国に出かけました。まず、カナダのセントジョン市で開催されたカナダ原子力学会(CNS)の年次大会に参加し、開会セッション等に出席するとともに、同市に所在、または同大会に参加していたセキュリティ関連のメーカーや原子力関連のエンジニアリング会社等との個別会合を行いました。さらに、米国ワシントンD.Cに移り、セキュリティ関連のNPO.を訪問して所要の調査を行いました。

Moltex CNSの年次大会では、カナダの原子力事業者の発表を通じ、次世代のSMR(中小型炉)の配備を中心にして、クリーンで安定したエネルギー源の活用により、カーボン排出ネットゼロの社会の実現を目指す意気込みを強く感じさせられました(図:カナダで配備が検討されているMoltex炉)。また、個別企業等の会合では、サイバーセキュリティ及び核セキュリティに係る先進技術に接することができ、所期の目的を果たすことができました。

Opening 開会セッション開始の冒頭、先住民の男女2名が、本大会の参加者及びその家族の健康と安寧を祈念する儀式を、先住民の歌や踊り、タバコの煙を鷲の羽で煽いだりする動作を交えて行っていました(左図)。こうした特別な行事を学会の開会冒頭に行っていることを目にしたり、開会セッションにおけるカナダの各州や事業者の発表の中で、その事業の推進において、先住民との共存を図るべく、事業への先住民の参画にいかに腐心しているかの言及を耳にしたりして、先住民との関係に特別な配慮を行わなければならないカナダ特有の事情、すなわち、原子力開発利用においても先住民の理解と協力や参画が必須と考えるカナダの原子力関係者の姿勢が窺えて印象的でした。

Img_5704 ところで、新型コロナが5類感染症に移行して間もないタイミングでの出張だったためか、日本からカナダへ向かう機内では、マスク姿の乗客が日本人以外にも見かけられ、我々の一行も皆マスク姿でした。しかしながら、CNSの年次大会では、レセプションにおいてもマスク姿の参加者は殆ど見かけなかったことから(380人ほどが参加登録した年次大会でマスク姿は、たった一人、白人男性がいただけでした)、我々も、若干の懸念を抱きつつも、郷に入りては郷に従えで、マスクなしで過ごすことになりました。

K10014093381_2306080927_0608093846_01_02 しかしながら、ワシントンD.C.着いてみると、道行く人々にマスク姿が多く見られ、アメリカ人のメンタリティはカナダ人と少し違うのかなどと感じましたが、実はこれは、カナダ東部で続く森林火災(右上図、出典:NHK)の煙が国境を越え米国に広がり深刻な大気汚染を引き起こしてImg_6028 いたためでした。このため、ワシントンD.C.でもひどいスモッグになり、公衆衛生当局がマスクをしないと肺などに健康上の影響を起こす可能性があるとの警告を出したためだと分かりました。左下の図は、自由時間にリンカーン記念館を訪れた際に、カナダの森林火災によるスモッグのために霞んで見えるワシントン記念碑を撮ったものです。森林火災によるスモッグの影響は深刻で、ワシントンDCよりもカナダに近いニューヨークでは飛行機の発着にも遅れがでたほどとの報道がなされていました。

Citylogo347110285_9451800418224260_50374 今回CNSの年次大会が開催されたセントジョンは人口約12万のニューブランズウィック州第2の都市で、ファンディ湾の北、セントジョン川の河口に位置しています。世界最大の干満差を見せるファンディ湾は、1日2回、大西洋の潮の満ち引きでセントジョン川を逆流して約1000億トンの海水が押し寄せることから、「Reversing Falls(逆流する滝)」が見られることで有名で、同市のウェブサイトには、Reversing Fallsを見物するため、その日の干潮・満潮の予報時刻の情報が掲載されているほどです(https://saintjohn.ca/en)。

Reversing-falls70 個人的には、約50年前、ミシガン大学に留学中の夏休みに、ノヴァスコシャへ州へのドライブの途上で、「逆流する滝」の見物にセントジョンを訪れて以来の再訪問でした。今回、宿泊したヒルトンホテルが河口に位置していたので、毎日のように「逆流する滝」を見られるはずでしたが、どうも名前負けしている印象だったのは、50年前と余り変わりませんでした。(左図:「逆流する滝」の様子。出典:Tripadvisor

Cosjlogoblack さて、カナダにはセントジョン(Saint John)と良く似た名前のセントジョンズ(St. John’s)という町があるので要注意です。後者は、カナダ東岸に浮かぶニューファンドランド島東端近くの人口約20万の港町で、ニューファンドランド州の州都です。北米最古のイギリス人入植地ともいわれ、また世界一霧の深い町としてギネス認定されています。そのロゴ(左図)はセントジョンズ湾の幅の狭い深い入り江の形状を象徴しています。

甲斐 晶 (エッセイスト)

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サイバー先進国エストニア

Qpanoramic-view-of-tallinn_20200813110001 ほぼ1年前のことになりますが、サイバーセキュリティの調査のため、この分野の先進国、エストニアの首都、タリンを訪れました(左写真:タリン旧市内の眺望)。タリンでは、教育・研究機関であるタリン工科大学(Tal Tech)、サイバーセキュリティに責任を有する行政機関である国家情報システム庁(RIA)、サイバーセキュリティ分野におけるNATO加盟国間の協力推進を行うNATOサイバー防衛協力センター(CCDCOE)(写真:CCDCOE加盟国の国旗掲揚。出典:ERR)などを訪問。Ccdcoe649845h63f1t27 専門家との意見交換や情報交換を通じて、我が国の約100分の1の人口で、面積が約9分の1の小国、エストニアがどのようにしてサイバー先進国となったか、その秘密を探ることが出来ました。

古くからエストニアは外国列強による支配が繰り返されて来ました。すなわち、14世紀から18世紀にかけて、ドイツ(騎士団)、スウェーデン、ロシアによって領有されます。ロシア革命(1917年)の翌年にようやく独立を果たしますが、第2次世界大戦中の1940年に今度はソ連に併合されてしまいます。そうして、ソ連にペレストロイカの波が生ずるに及び、ようやく1991年に独立を果たすのです。こうした歴史から、バルト三国の中でも、いち早くNATO加盟、EU加盟を果たし、脱ロシア・欧州の一員への移行を進めるとともに、IT・サイバー防衛の先進国としての地位を確立するに至ったのです。

Eid すなわち、独立後のエストニア政府は、まず、旧ソ連時代の非効率さを根絶し、投資を呼び込むためにIT分野の人材育成に力を入れたのです。また、国家予算の1%を効率的な電子行政サービスシステム(e-Estonia)の構築にあてました。これにより、ポータルサイトState Portal “EESTI.EE”を通して、出生や転居、税申告、教育、選挙投票など「ゆりかごから墓場まで」に必要となる公共サービスのほとんどがオンライン化されるようになり、国民の圧倒的な支持を得ています。例えば、このシステムを通じて子供の出生届を出しておくと、その子の保育園入園の時期になれば、どこそこの保育園へどうぞとの入園案内の通知が親御さんの元にくるようになっているとか。至れり尽くせりの血の通ったシステムなのです。また、15歳以上の国民全員が電子認証・署名の機能を持つ電子IDカード(eID card)を所有するようになっています(上写真。出典:総務省)。これは、公共サービスを使用するために必要な個人証明として使用され、モバイル版も存在しています。民間を含む電子サービスでの電子認証・電子署名としても使用され、非居住者向けにもe-Residency Card(一部制限あり)が発行されているそうで、あなたも申請すれば持つことができるかも。

2qimg_3633 さて、エストニアにおける調査では、訪問先のどの機関においても、エストニアがサイバー先進国となるきっかけとなった、2007年に起こった(ロシアによるとされている)大規模なサイバー攻撃のことが話題になりました。すなわち、2007年、タリン市の国立図書館前にあった戦没ソ連兵慰霊碑を郊外の軍人墓地に移転したことを巡り、ロシア語系住民の抗議活動が暴動・略奪に発展。治安部隊の介入により1名が死亡、約170名が負傷、1000名以上が逮捕。ロシアがエストニア政府の対応を批判する中、エストニア政府及び民間企業のウェブサイトがロシアからと思われる大規模サイバー攻撃(DDoS攻撃)を受け、一時的に機能不全に陥ってしまったのです。これを機に、エストニア政府はサイバー対策に本腰を入れるようになり、Tal Techによるサイバーセキュリティの修士コースの設置(2008年)、CCDCOEの誘致(2008年)、サイバー防衛関係の国際学会CyConの開催(2009年。以降、CCDCOEが毎年主催)、RIAの設立(2011年)に繋がっています。このため、事件の発端となった戦没ソ連兵慰霊碑を是非訪れてみたいと願い、CCDCOEの近くにくだんの軍人墓地があると知って、同センターを訪問した際の帰路、タクシーでホテルに戻る途中に、わざわざそこに寄って貰い、写真を撮ることが出来ました(左写真)。

2qimg_3509 ところで、今回の調査ミッションの日程が、たまたま一年で昼の長さが一番長い夏至(6月23日)の時期と重なってしまいました。タリンヘは、フライトの都合で、直前の調査国であるハンガリーの首都ブダペストから、まずヘルシンキに向かって飛び、そこで一泊し、その翌日タリン行きのフェリーに乗るというスケジュール。ところが、ブダペストからヘルシンキへの移動日に、ホテルに到着したのが真夜中に近いというのに、日没直後の残光が明るく、昼間と間違うほどでした。白夜なのです。(写真:運転席上のデジタル時計の時刻参照)

落語家の柳家権太楼師匠が「白夜」を見たくて、わざわざアイスランドのレイキャビクに訪れたところ、単なる真っ昼間に過ぎないことが分かってがっかりしたとの逸話があります。「白夜」→「北欧」→「オーロラ」→「美しい」との連想から、「白夜」にきっとロマンチックな光景を期待したのでしょうね。

甲斐 晶 (エッセイスト)

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日本のパスポートの秘密

前回の記事「世界の魅力的なパスポート」において、世界の多くの国のパスポートでそのビザのページがブラックライトで幻想的に浮かび上がる素敵な隠し絵が印刷されていることを紹介しました。日本のパスポートではどうなっているのか知りたくて、早速、ブラックライトをネットで購入しました。

Bl-img57192386 送料込みで200円台の中国製の安価なものが多数Amazonで売りに出されていました。しかし、コメント欄を見ると、①安かろう、悪かろうで、結局、粗製濫造品を掴まされ、すぐ壊れてしまった、②中国から送られて来るので商品が着くまでえらく長く待たされたなどの書き込みが多かったので、これは少々高くても日本製をと考えました。色々、ネット検索した結果、日亜化学工業社製のUV-LEDを搭載したPW-UV343H-03Lという商品を選びました。税込み・送料込みで1,880円しましたが、注文してわずか2日で無事配達されてきました。

90445_jpg 早速、今回発給された2020年パスポートの前に使っていた旧パスポートを確かめてみました。身分証明のページは、写真が薄いフィルムでコーティングされており、ページを上下に傾けるとページの中央から右の部分に富士山と小さな桜の花びらのホログラムが現れます。この桜の花びらは角度によって雪の結晶に変わるのが芸の細かいところです。写真の部分のホログラムは、複数の波線が写真を覆うように現れるとともに、丸に山桜の家紋や大小多数の桜の花びらが現れます。別の意匠の家紋も現れ、これら二つの家紋が角度によって全く別の家紋に変化するのですが、デザインが細かすぎて、私の目では何の家紋かを判別するのは困難です。またビザの各ページには大きな桜の透かしが漉き込まれています。

Soldppidpage まず、身分証明のページにブラックライトを当ててみました。すると、ICチップに記録されている顔写真がページの右側にモノクロで楕円形の縁取りの中に現れるとともに、楕円の縁取りの上部と下部にはそれぞれパスポート番号と生年月日が極めて小さいフォントで表示されます。また、楕円の縁取りの左側と右側の部分に、それぞれ姓と名がアルファベット表記で現れます。さらに、顔写真のすぐ右横には、二重丸の枠内に日本国外務省の文字が英文で表記され、その中央に政府の紋章である五七の桐が浮かび上がります。顔写真のページと見開きになっているページ(p3:右の写真の上部)には、三本の横線が現れます。これがp5、p7ではそれぞれ二本、一本に変わります。

Oldppblight2 他のビザのページでは、ブラックライトで照らすと、大きめの桜の花びらが沢山散らばっているのが現れます。これは、上で紹介して来たような蛍光色のものではなく、また自然光の下では隠れていて識別できないので、特殊技術による偽造防止策のようです。

次に、2020年パスポートも調べてみました。身分証明のページのホログラムがさらに高度化し、ページを上下に傾けると、色々なホログラムの文様が動き出し、別の文様に変化するように見えます。例えば、桜の花びらが小さくすぼまって行って、別の小さな桜の花びらになったり、六弁の花形が小さくなって行って五七の桐の紋章とJAPANのロゴが現れたりします。また、ページの右下にある六弁の雲形の場合はくるくる回り始めたと思うと「日本国」のロゴが現れます。

Qnewppmaskedjpg ビザのページに大きな桜の花びらの透かしが漉き込まれているところは変わっていません。さらに、身分証明のページにブラックライトを当てて現れる変化も上に述べた旧パスポートの特徴と全く同じです。また、身分証明のページの見開きで対になっているページには、三本の横線と大小様々な大きさの正方形や複数の桜の花びらの形が現れます。ただ、三本の横線は蛍光発色ですが、そうでないその他の文様は旧パスポートのビザのページに現れる桜の花びらのように特殊技術によって生ずるもののようです。これらの文様は残りのビザのページにも施されていてブラックライトでくっきり現れます。

Snewpplastpage この他、パスポートの最終の見開きページ(左の写真参照)には、旧パスポートにも同様に採用されていた特殊印刷技術による偽造防止対策が採用されています。これはお札の偽造防止技術を応用したもので、左側のページの中央にインクの盛り上がった部分(精密凹版印刷)があります。ページを傾けてこの部分を左側から眺めると、大きな桜の花びらとその下にJAPANの文字が現れます。同様に右側のページの下に、一万円札の表の透かしの左下にあるような雲形の模様が見られますが、ページを傾けてこれを下から見るとJPNの文字が現れます。

この他にも、マイクロ文字など偽造防止のための高度精密印刷技術が駆使されているようですが、私には確認できませんでした。政府も手の内を全て明かすことになるので、どんな技術が使われているかは公表されていません。

このように、我が国のパスポートには、様々な偽造防止の技術がふんだんに盛り込まれています。皆さんも一度実物で確かめて見ては如何でしょうか?もっとも、上記の全ての特徴を確認するにはブラックライトが不可欠になりますが・・・。

一家に一台ブラックライトがあれば、お札やクレジットカードの真贋判定も簡単にできますし、有害な蛍光剤、蛍光染料等の蛍光反応を確認したり、紫外線硬化樹脂やジェルネイル等の硬化、夜光(蓄光)ルアーの短時間での蓄光などに大いに役立ちます。(しかしながら、どう見ても特殊な用途で汎用では無いですね。)

甲斐 晶(エッセイスト)

 

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世界の魅力的なパスポート

Hokusai-img_4560-masked 前回のブログ「新しいデザインのパスポート」を見た友人から、①2020年パスポートの発給はオリンピック・パラリンピックの行われる今年限りで、来年になればまた元のデザインに戻るのか?②他の国のパスポートも日本の2020年パスポートのように、ビザのページに各国独自のデザインが採用されているのか?との質問がありました。

①については、来年以降も引き続き新しいデザインのパスポートが発給されます。②については、ネットで調べてみたところ、多くの国で、パスポートのビザのページがその国を代表するような景観や事物などが描かれているほか、かなりの国で偽造防止対策の一環として、ブラックライト(わずかに眼で見える長波長の紫外線)を当てると別の画像が現れるようになるなど魅力的なものになっていることが分かりました。以下に、その例をいくつか紹介しましょう。(各画像をクリックすると拡大表示されます。)

Finlandpassportdesigngraphics_lowres_sq_ まずは、フィンランド。偽造防止のために採用されたのはパラパラ漫画の手法です。ビザのページには北欧に生息するヘラジカが描かれているのですが、ページごとにその4本の足の形状が少しずつ変えて描かれているので、パスポートをパラパラめくると、このヘラジカがトコトコ歩き出して見える仕掛けになっています。どんな風に歩くのかは、左上の画像(出典:dezeen )をクリックするか、YouTubeのビデオ映像をご覧下さい。

同じ北欧のノルウェーの場合には、パステル調で美しいフィヨルドが描かれていますが、これにブラックライトを当てると、北欧特有の自然現象であるオーロラの画像が浮き上がって来る仕組みです。

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南半球にあるオーストラリアの場合は、国を代表する自然景観や固有の動植物などが描かれたビザのページにホログラムが組み込まれています。すなわち、パスポートを傾けると10種類のカンガルーのホログラム画像が現れる仕掛けになっています。

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カナダも36ページにわたるビザのページに、ナイアガラの滝(オンタリオ州)、首都オタワの国会議事堂(オンタリオ州)、国際レースで連戦連勝を誇った伝説の大型帆船Bluenose号(ノヴァスコシャ州)などカナダを象徴する名所旧跡や歴史的建造物などがデザインされており、これにブラックライトを当てるとそれぞれが更に華やかなイラストに変化します。例えば、ナイアガラの滝の場合、昼間のパノラマ景色を描いたものが、ブラックライトを当てると、夜空に輝く星座や月とともに鮮やかな滝の夜景となってが浮かび上がります。

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国会議事堂の場合には、変哲も無い建物の画像だったものが、ブラックライトによって建物全体がきらびやかにライトアップされ、夜空に大輪の花火が多数打ち上がります(出展:sigmalive)。

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中国も近年パスポートのデザインを変更し、万里の長城のような人気の名所旧跡などをビザのページに鮮明に描いています。ブラックライトを当てると万里の長城の場合には、長城の夜景が明るく照らし出されます。

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Hungarypassportdesigngraphicsbooks_dezee このようにかなりの国で、パスポートのビザのページに肉眼では認識できない特殊なインクで描いたデザイン画像を、それぞれの国の名所旧跡や特徴的な事物の画の上に重ねて印刷することによって、ブラックライトを当てると不思議な効果の画が合成されるようにしています。そんな中にあってユニークなのはハンガリーのパスポートです。ブラックライトを当てるとなんとハンガリー国歌のスコアが現れるのです(出典:dezeen

この他、ビザのページにその国を象徴する名所旧跡やユニークな事物の画を印刷しているパスポートの例は枚挙に暇が無いほどです。

Creativeunitedkingdom_updatedbritishpass 英国の場合は、5年ごとにデザインを変更しているようですが、最新のものは2015年12月に発給され始めていて、過去500年間に創造的な作品を生み出した建築家やデザイナーにちなんだ図柄になっています。例えば、左はシェイクスピア劇場などを設計した建築家エリザベス・スコット(1898 – 1972)の肖像とその作品群があしらわれています。ちなみに、彼女の叔父に当たるジャイルズ・ギルバート・スコット卿(1880 – 1960) も選定されており、彼の設計したロンドンのバタシー発電所、リバプールの大聖堂、それに英国を象徴するあの赤い公衆電話ボックスがコラージュされた図柄になっています。(出典:dezeen2

Us-passportnewinside 米国も定期的にパスポートのデザインを変えてきており、現行のものは2007年に改訂されたもので、ビザのページには「米国のシンボル」(American Icon)をテーマに、米国を象徴する歴史的建造物や動植物、名所旧跡の図柄が採用されるとともに、それぞれにちなんだ米国史上の有名人などの名言が13選定され、印刷されています。例えば、ビザの最初のページには、フィラデルフィアにある独立記念館と自由の鐘が描かれるとともに、初代大統領ジョージ・ワシントンの憲法制定会議での発言とされる “Let us raise a standard to which the wise and honest can repair.”との言葉が引用されています。Us20

さらに、その数ページ後には、米国の国鳥である白頭鷲と草を食むアメリカバイソン(バッファロー)が描かれ、そこに公民権運動で活躍したマーチン・ルーサー・キング牧師の名句 “We have a great dream. It started way back in 1776, and God grant that America will be true to her dream.” が掲げられています。

Us-current_2_lg また、これに続く次のページには、岩肌に4人の米国大統領、ワシントン、ジェファーソン、リンカーン、セオドア・ルーズベルトの顔が刻まれたラシュモア山が描かれ、その上方に、冷戦時代のケネディ大統領の言葉、 “Let every nation know, whether it wishes us well or ill, that we shall pay any price, bear any burden, meet any hardship.”が記載されています。ちなみにこれらを紹介しているサイトの著者は、選ばれた13人の男女比が12:1と圧倒的に男性優位なことに苦言を呈しています。

この他にも、インドネシア、フィリピン、ニュージーランド(以上出典:scoopwhoop)、マレーシア(出典:femalemag)などがビザのページにそれぞれの国を象徴する名所旧跡や特徴的な動植物などを描いています。具体的にどんなデザインかは、各出典のリンク先をクリックしてご覧になって下さい。なお、オーストリアの場合には、事物の代わりに、オーストリア各州の紋章などがあしらわれています(出典:scoopwhoop)。

このように、各国はそのパスポートのデザインや偽造防止のための特殊印刷技術を競い合っています。しかしながら、一般の人は自国のパスポートしか持ち得ないわけで(ゴーン逃亡者のように複数のパスポートを持っていれば別ですが)、自分の目で、これら各国のデザイン・コンテストの状況を実物を見て確かめることのできる人はわずかです。けだし、これが出来る各国の入国管理官は羨ましい限りです。

甲斐 晶(エッセイスト)

追記:

この記事を見た高校時代の級友が「プレゼントカードのように立体的に立ち上がったり、オルゴールの音が出るのは無理なのかな?技術が進めば富士山や君が代も面白いと思う」とのコメントを寄せてくれました。面白いアイデアです。現在のパスポートには身元証明用のデータが収められたICチップが既に埋め込まれていますので、midiファイル形式で取り込めば、音を出すのは技術的には可能でしょう。パスポートを開くと富士山の立体像のホログラムが現れて「頭を雲の上に出し・・・」の小学唱歌が流れたら素敵ですね。







 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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新しいデザインのパスポート

これまで10年間使っていたパスポートの有効期限が新年早々切れてしまいました。

すぐに更新手続きをしても良かったのですが、毎週見ているTOKYO MX テレビのアートステージ~画家たちの美の饗宴~」で、2020年春に発行されるパスポートからそのデザインが一新され、ビザのページに葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」が描かれると知って、新デザインに切り替わるまで更新手続きを見合わせることにしました。

外務省のホームページに2020年旅券(パスポート)のことが詳細に説明されていました。それによると、次期パスポートを2020年オリンピック・パラリンピックの開催を念頭に、その前年の2019年度中の導入を目指して準備を進めて来ていましたが、いよいよ令和224日以降に受理する旅券の発給申請について,新型の2020年旅券を交付することとなったのです。

1 2020年旅券はIC内の個人情報の不正読取り等を防ぐ機能を強化しているほか,偽造防止能力を高めるため,葛飾北斎の「冨嶽三十六景」をデザインに取り入れています。「冨嶽三十六景」は、世界的にも広く知られ,世界遺産でもある富士山をメインモチーフとし,まさに日本を代表する浮世絵のひとつであることから採用されたものです。外務省は、基本デザインの選定において,有識者5名による次期旅券冊子デザイン選定準備会合を開催し,複数の候補につき議論した内容を踏まえて最終決定しました。この選定準備会合は海外通信・放送・郵便事業支援機構会長の高島肇久氏を代表とし、元マラソン選手の有森裕子氏、慶応義塾大学文学部教授の荻野アンナ氏、俳優の関口知宏氏、東京芸術大学名誉教授の中林忠良氏で構成され、日本的なデザインをコンセプトに検討を行いましたが、「富嶽三十六景」以外には、正月やひな祭りなど日本人が持っている原風景にも似た日本の情景や,空を飛ぶ旅を連想させる鶴,桜などの日本の季節を代表する四季の植物をモチーフとした様々な候補があったようです。

2 一般旅券には有効期間が10年のものと5年のものがありますが、10年旅券は表紙を除き54ページあり,裏表紙,人定事項ページ,ICページ等を除く査証欄等の48ページに「冨嶽三十六景」の図柄を見開き2ページで一作品使用することとし,24作品が選ばれました。また、5年旅券では32ページに16作品がが選ばれました。

Hokusai-img_4560-masked 新たなデザインとなったパスポートの実物を是非この目で見てみたいとの思いを強くして、2020年旅券の申請受付が開始してすぐに申請していたところ、10日ほどで発給されました。私のは5年旅券ですので「富嶽三十六景」のうち16作品がデザインされています。そのうちのひとつを上に示します。有名な「凱風快晴」ですが、5年旅券にはこのほかにもお馴染みの「神奈川沖浪裏」、「山下白雨」などの作品が収められています。あまりの美しさ、すばらしさなので、こうしたページに入出国のスタンプやビザのスタンプを押して貰いたくない気分です。

皆さんも、機会があれば、是非、2020年パスポートを入手し、ご自分の目で実物のすばらしさをご覧になってみて下さい。

甲斐 晶(エッセイスト)









 

 

 

 

 

 

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機内食

長時間にわたる飛行機旅行の楽しみの一つに機内食があります。経費削減のあおりでエコノミークラスでは余り期待は出来ませんが、航空各社とも最近、収益向上のために営業収入の主体を占めるビジネスクラスやファーストクラスでの機内食の質の向上に力を入れ、顧客増加に努めています。例えば、有名料理店のシェフが機内食の監修を行ったりしています。

 スカイトラックス(Skytrax による世界の航空会社の2011年ランキングでは、09_imageaua_2オーストリア航空がビジネスクラスの機内食部門で1位を獲得しています(2位:トルコ航空、3位:カタール航空)。ちなみにエコノミークラスでは、タイ航空が1位(2位:トルコ航空、3位:アシアナ航空)、ファーストクラスではエティハド航空(UAEの国営航空会社)が1位(2位:シンガポール航空、3位:カタール航空)でした。どうやら中東とアジアの航空会社が頑張っているようです。

 オーストリア航空では、その名も「空飛ぶシェフ」(Flying Chef)が機内食に腕をふるっています。通常、機内食のサービスは、客室乗務員Flying_chef_2
が機内食の調理(といっても地上で調理済みのものの再加熱が主体です)と配膳を行いますが、オーストリア航空の長距離ビジネスクラスの場合、ウィーンの有名レストラン、
DO&COで訓練を受けたシェフがギャレーにおいて料理人姿で調理し、盛りつけを見栄え良く行います(こうした作業の場を確保するため、通常よりも広いギャレーが用意されています。)配膳は、客室乗務員が行いますが、顧客に対する料理選択の助言はシェフが行っています。こうしたサービスは乗客にも好評で、その努力が実った結果、ランキング1位の名誉を獲得したのでしょう。

DO&CO
の空飛ぶシェフの構想は既に1996年からあって、最初はチャーター便が主体のLauda_air_logoラウダ航空(有名なオーストリアのF1チャンピオン、ニキ・ラウダーが創業)と連携して実現させました。オーストリア航空の成功にあやかったのか、エティハド航空も昨年初頭から主要なファーストクラスに空飛ぶシェフを搭乗させており、このためシェフ100名を採用するとともに、機内食のメニューを一新。昼間のフライトにはアラビア料理の6皿コースが登場しているそうです。

ExteriorviewDO&COは、シュテファン寺院の真向かいにあるハース・ハウス内でホテルとレストランそれにカフェー/バーを経営しています。ウィーンでの赴任が終わりに近づき、いよいよ去るにあたって、家族揃ってここを訪れましたが、シュテファン寺院を間近に眺めながらのひと時はいつまでも記憶に残るものとなりました。現在、レストランでは、お寿司や刺身も楽しめるそうです。

 この他、DO&COは、新鮮なロブスターや牡蠣などの海鮮料理で有名なレストラン「ケルバン・サライ」や有名なハプスブルグ宮廷御用達のコンディトライ「デーメル」も傘下に収めるなど、手広く経営しています。

ある時、オーストリアの友人からアルベルティーナ美術館に併設されたDO&COのレストランにお招きを受けました。市民公園を見下ろすテラスから、暮れなずむウィーンの夕まぐれを楽しみながらのお食事でしたが、一手間掛けた質の高いお料理の数々を堪能しました。

 ところで、機内の気圧は地上よりも低く、湿度もサハラ砂漠並に極めて低くて乾燥していることから、味覚が大いに変化することが分かっています。実験結果では、地上に比べ塩味や甘みの感覚は半減してしまいます(旨味については地上とあまり変わらず)。その上、再加熱によって食材の水分が大いに失われてパサパサになり、食感も損なわれます。美味しい機内食とするためには、それなりに多くの工夫が必要で、旨味主体の料理(和食)にしたり、スチーム・オーブンを導入して再加熱でもパサつかないようにしたりしているとか。

 機内食がまずいとお嘆きの皆様。スカイラックスのランキング結果を参考に、航空会社を乗り換えて見るのも一案かも知れません。ただ、旅の安全性のランキングではないことにご注意願います。

甲斐 晶 (エッセイスト)

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