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2025年9月

続・大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました

前回に引き続き、今年(2025年)の9月初めの週に、東京からとんぼ返りで大阪万博を覗いて来たときのご報告です。

当日見学した5つのパビリオンは、大国フランス、小国ルクセンブルグ、鎖国時代から日本と歴史的つながりの深いオランダ、自然とテクノロジーで知られるスイス、そして明治以来文化・芸術面で深い交流のあるオーストリアと、いずれもその国らしい特徴のある展示内容でした。ただ、 フランス館では、もっぱら、ルイ・ヴィトンの旅行トランクやクリスチャン・ディオールのドレスや香水の夥しい数の陳列ばかりが目立って、商業主義的な匂いを感じてしまいました。フランスらしいもっと文化・芸術の国らしい展示が望まれました。唯一の救いは、展示Img_1615_20250923234001 内容とは無関係に、手をモチーフにしたロダンのブロンズ彫刻の小品が見学通路のあちこちに配されていたことでした。また、円形状のプールの中央に設置されたステージの上に、見事なオリーブの巨木が展示されていたのが印象的でした。こんなに立派なオリーブの木はこれまで見たことがありません  (上図参照。写真をクリックすると拡大します。以下同様。)。

Heidi オーストリア館のお隣がスイス館。「ハイジとともにテクノロジーの頂へ」とのテーマで、公式マスコットであるアニメのハイジがアルプス文化と最新テクノロジーが共存するスイスの実像を紹介して呉れます。

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入館するとすぐに、スイスの街並みを描いた巨大な切り絵が目に飛び込んできます。そこに、アインシュタインの似顔絵と彼が特殊相対性理論から導き出したあの有名な数式、E=mc2 を見つけましたが(左図)、かつて首都ベルンで彼の住まいだった記念館を訪れたことを思い出し、彼がスイス国籍であったことを気付かされました。

ルクセンブルグ館は小粒ながらも魅力的な展示でした。これまで、ルクセンブルグには首都のルクセンブルグ市しか訪問したことがなく、都市のイメージしかなかったのですが、郊外には豊かな自然環境が存在することを知り、新たな発見でした。最後の展示室の床全体がほぼネット状になっていて、見学者が靴を脱いでそこに寝転ぶと、目の前の巨大な画面にルクセンブルグの田園風景の映像が映し出され、あたかも自分がその中に没入しているかのような臨場感を味わうことが出来ました。かくして、色々なパビリオンを経巡って歩き疲れた足と目を癒して呉れました。

Img_1629 オランダ館では、絵本で有名なあのミッフィが、館内のあちこちの解説パネルに登場(左図参照)。館のテーマである「コモングラウンド=共創の礎」、すなわち、人々が同じ土台に立ち、発想し合えば新しい価値観が生まれ、人類共通の課題を解決できるとの考えを示す展示へと導いてくれました。パビリオンの建物の真ん中に、直径11メートルの白い球体が浮かんでいるのが、その外観上の特徴です。再生可能なクリーンエネルギーと日の出を表していて、その内部は360度スクリーンになっています。入館すると、ひとりひとり、手のひらサイズの球体型デバイス「オーブ」を渡されますが、これが色を変えながら光ります。入館者は、水の流れを操るオーブによって、水素など新エネルギーへの転換を巡る旅へと導かれて行きます。

ベルギー館もルクセンブルグ館同様に、万博閉幕後は解体されて再利用されます。健康と医療分野の最新技術に強みを持つお国柄から、館内では、AI(人工知能)やロボットを活用した最新技術など、国を挙げて注力するライフサイエンス、ヘルスケア分野について紹介されます。「人間の再生」をテーマに、生命の源である「水」と「細胞」を表現したパビリオンとなっていて、水の三態である液体、固体、気体をイメージした外観は、3地方に大別される国土の象徴でもあるとのこと。また、パビリオンの中は3層に分かれていて、水の三態である「固体」「気体」「液体」をそれぞれのエリアで表現していました。見学のあとは、屋上テラスに設けられたレストランで、ビールのほかチョコレートやワッフルなどが提供されており、ステージや万博会場の眺めと共に楽しめるようになっていました。

Img_1636 5つのパビリオンを観終わってみて、オーストリア贔屓の筆者の偏見もあるのかも知れませんが、その展示内容の素晴らしさの点で、オーストリア館に軍配を上げる次第です。音楽の都ならではの「未来を作曲」というテーマは、展示内容ばかりでなく、オーストリア館の建築デザインにも反映されています。前回(大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました)に述べたように、空に向かって立ち上がるような特徴的ならせん状のオブジェは、五線譜をモチーフとしていて、そこには「人類皆兄弟」を標榜するあの有名なベートーベンの「歓喜の歌」の冒頭部分、ミミファソ ソファミレ ドドレミ ミレレ の音符が描かれています(左上図)。

Img_1590  入館者が第1の部屋に入ると、まず、両国の絆を象徴する展示として、1873年のウィーン万博で明治天皇に献上されたという幻のピアノ「エンペラー」(ベーゼンドルフ社製グランドピアノ )のレプリカが目に入ります。その反響版にはあの有名な北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版画が描か れており、このモデルは世界に16台しか存在しないとのこと(左上図)。このグランドピアノには自動演奏の機能があって、入館者を迎えると、モーツァルトの曲と思しき作品を演奏し始めます。日本語ガイドの方にその曲名を尋ねてみると、なんとこれは、ウィーン大学の先生がAIを駆使してモーツァルト風の曲を作曲したものとか。うまく騙されました。天井から下げられたロブマイヤー社製のシャンデリアの光に包まれたグランドピアノの自動演奏を聴くのも素敵な体験でした。

Img_1596 オーストリア館のマスコットキャラクター、Aka-shiro-aka(左図参照)に導かれて入る、第2の部屋は「人々」がテーマで、オーストリアの著名人が紹介されるとともに、現代オーストリアの様々な科学技術・現代文化がデジタル技術で紹介されます。そして、これに続く第3の部屋では、オーストリア館のテーマ「未来を一緒に作曲」を入館者が実体験します。複数のスクリーンで、多数の入館者が同時に異なるSDGsを選択すると、その組み合わせに応じて独自の曲が作曲され、バーチャル・オーケストラによって演奏される仕組みです。

こうして、オーストリア館では、文化・芸術ばかりではなく科学技術の粋も体験することができました。

甲斐晶(エッセイスト)

 

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大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました

今年(2025年)の4月13日から10月13日まで、184日間の予定で開催されている大阪万博に、9月初めの週、東京から日帰りで行って来ました。早朝に家を出、新幹線で新大阪まで往復し、夜分に帰宅するという、ちょっとした強行軍でした。

大混雑必至で、特に人気パビリオンは長蛇の列で長時間待たされることとは知りながらも、あえて出かけることにしたのには、訳があります。実は、5つの在日欧州商工会議所(すなわち、オーストリアビジネス協議会(ABC)、ベルギー・ルクセンブルグ商工会議所(BLCCL)、フランス商工会議所(CCIFJ)、オランダ商工会議所(NCCJ)とスイス商工会議所(SCCIJ))が合同で特別イベントを開催することとなり、日墺協会宛にその招待状が届き、役員に対して公募がなされたので、即、応募したところ、幸運にも限定数名の枠に入ることができたからです。しかも、このイベントの特典の一つが、一般の入場券とは異なって、万博会場への入場日時の指定やパビリオンの入館予約をする必要が無く、ID登録も不要なVIP入場券が入手できる(代金1万9千円)ことから、無理してもとんぼ返りで出かけた次第なのです。

Img_1577旅の準備として、事前にJR東海のアプリ、スマートEXでクレジットカードを登録したうえで新幹線の乗車券・座席指定券を入手。このアプリと自分のスマホに入ったPASMOとの紐づけをしておいたので、当日は、このPASMOを使って、自宅の最寄り駅の改札ゲートをタッチで入場して私鉄に乗車。途中、JR在来線への乗り換えもPASMOで行い、品川駅でJR在来線から新幹線への乗り換えもPASMOでタッチしてOK。乗り換えの際、新幹線の乗り換えゲートをPASMOでタッチすると、「EXご利用票」(左図参照。写真をクリックすると拡大します。以下同様。)が自動的に印刷されて出て来たので、これを受け取りました。これには、予約した新幹線の列車番号、車両番号、座席番号が記載されているので、どこに着席したら良いかが一目瞭然に分かってとても便利でした。

スマートEXが便利なのは、座席指定の変更(指定列車、指定号車、指定座席の変更)がとても簡単で、列車発車時刻までなら何度でも無料でできることです。実際に私も、予約した新幹線の発車時刻よりもかなり早く品川駅に着きそうだったので、予約したものより早い発車時刻の列車に予約変更。入場で手間取りそうな万博会場に当初の予定よりも早めに到着できるようにしました。

久しぶりに新大阪駅に着いてみて、東京との違いをいくつか感じました。日本列島を東京から西にわずか2時間半ほど移動しただけで、エスカレーターの人波の列が、東京では左側は立ち止まって乗る人の列で、右側は急いで駆け上る人の列であるのに対して、大阪では、右側の列が立ち止まって乗る人の列でした。左側は駆け上がる人専用なのかと思いきや、ほとんどの方が左側でもそのまま立ち止まって乗っていました。また、東京では、ホームで電車に乗り込む際には、みんなが整列乗車であるのに対して、大阪では整列などせず、横入りしてもあまり咎める様子は見られませんでした。

新大阪からはOsaka Metroを乗り継いで万博会場の最寄りの夢洲駅へ。地下鉄の車両が夢洲駅に近づくと、「次は、いよいよ、夢洲です。」との車内アナウンス。乗客の胸の高まりを代弁しているかのようでした。

Img_1578 夢洲駅の改札口を出て、万博会場に向かうコンコースに出ると、そこは既に大勢の入場者で大混雑(左の写真参照)。ここで大いにその威力を発揮したのが、前述したVIPチケット。普通なら入場に1時間以上もかかるところを、長蛇の列を横目に見ながらスイスイと専用ゲートへ。お陰で特別イベントの集合時刻、10:30よりもかなり前に、指定の集合場所であるオーストリア館に到着できました(オーストリア館の展示内容については、既報の記事、「EXPO 2025 オーストリア館」を参照)。

Img_1585 特別イベントでは、まず11:30に、貸し切りとなったオーストリア館を日本語によるガイド付きでゆっくり見学。見終わって、あのベートーベンの歓喜の歌の楽譜がデザインされた、らせん状の木製外階段(左図参照)を登って3階のオーストリア・レストランへ。テーブルに着くと、給仕担当の女性がオーストリアの伝統料理を手にして回って来るので、それを好きなだけ取って食することが出来ました。Img_1603
左の写真は、こうして出されたオーストリア料理の数々です。左上から、ヴィーナー・シュニッツェル(子牛肉のウィーン風カツレツ)にフッジリのサラダ。その右が、キャベツのストゥルーデル(Kohl Strudel)にパプリカ(辛口)ソースを添えたもの、そして右端には野菜サラダの一部が見えています。いずれもレベルの高い出来で、ネット検索してみたら、どうもオーストリア本国から来日したシェフやウィーンで修業した日本人シェフが関与していたようです。Img_1606
左の写真は、デザートの数々。杏子のジャムを添えたカイザーシュマーレンと本場のカフェー、ユリウス・マインルのウィンナー・コーヒーを楽しみました。写真にはありませんが、あの有名なザッハートルテ(チョコレートケーキ)も賞味しました。

食事の後は、12:45開始で、お隣のスイス館から始めて、フランス館、ルクセンブルグ館、オランダ館を自分のペースで回って、最後に4:40ごろにベルギー館に入館。5:00から同館で行われるネットワーキング・レセプションの開始まで、ベルギー館をゆっくり見学することが出来ました。6:00ごろになると帰宅ラッシュになって退場する観客で退場ゲートが大混雑になり、会場を出るのに1時間以上もかかると聞いたので、レセプションを早めに切り上げて、帰途に着きました。

特別イベントに参加したお陰で、限られた時間内に、ヨーロッパのパビリオンだけでしたが、5つも見ることができました。どこでもVIP入場券の威力で、待ち時間0で即入館でき、我々のためだけの解説もあったりして、大変優遇されたツアーでした。一般のお客さん達は、炎天下の厳しい日差しの中で、日傘を刺してしゃがみ込み、長時間待たされていましたので、この特別イベントのアレンジはとても有難い限りでした。

残念ながら、紙数が尽きました。上記5つのパビリオンを訪れた感想は、次の記事(続・大阪万博(EXPO 2025)に行って来ました))と致しましょう。

甲斐晶(エッセイスト)

 

 

 

 

 

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欧州セキュリィ調査団の旅

 2024年9月下旬に、9日間の日程で、欧州における原子力発電所のセキュリティ対策の状況を調査するため、英国、オーストリア、ハンガリーに調査団として出かけて参りました。

 Heysham2_20241027211201 英国では、ランカスター近郊のヘイシャム2原子力発電所(左図)を訪れて、サイバーセキュリティ対策について調査するとともに、その核セキュリティ業務を請け負っている、EDF Nuclear Services社のグロスター本社を訪問し、核セキュリィティ対策の現状について調査しました。New_wins_logo2018large_20241027211201 さらにオーストリアの首都ウィーンにあるWINS(世界核セキュリティ協会:ロゴは左図)を訪問。各国の核セキュリティ対策の現状について調査するとともに、ハンガリーのパクシュ原子力発電所及び原子力規制機関HAEAを訪問して所要の調査を行いました。

 Paksnpp-atomerm_fbejrat_20241027211201 英国のヘイシャム2原子力発電所とハンガリーのパクシュ原子力発電所(左図)では、現場を視察する機会を得ました。現場視察では、思いがけず予定しなかった事物や出来事に遭遇することがあり、それらを我が国の原子力施設に適用して役立てることができるのはと思われることがあります。今回もいくつかそうした事例に遭遇しました。

 61yvjexv9l_ac_sx569_ 例えば、ヘイシャム2の現場視察では、核セキュリティ担当者が随行して原子炉施設内部を案内してくれましたが、立ち入り制限区域を通過した際のことです。この担当者がうっかりしていてスマートウォッチを区域外の所定の保管庫に置くのを忘れて入域していたため、壁に設置された探知器が反応してしまうということが起きました。これはこの探知器の有効性を示すものですが、内部脅威対策の機器として、電磁波を発生する機器の持ち込みを探知する機器に適当なものはないかと探していた電力会社所属の団員にとって有益な情報となったことと思います。

 また、同発電所の食堂を利用した際のことです。天井から、AからZのアルファベットの看板が吊り下げられているのを目撃しました。何のためのものか随行者に尋ねると、安全上の緊急事態が発生した際に、食堂が職員の1次避難の集合場所として利用されていて、職員は自分の姓の頭文字のアルファベットごとに該当する看板の下に整列することになっていて、これによって迅速に安否確認ができるようにしているとのことでした。こうした工夫はわが国でも参考になるのではと思われます。

 Manchesterap 今回の調査日程は、3泊したブダペスト以外、毎日が移動、移動の連続で、毎晩宿泊地が異なるというタイトな状況が続きました。このため、航空会社に預託した荷物を最初の到着地(マンチェスター)で受け取れなかった場合には、その荷物の転送先の指示に苦労することが危惧されたのですが、幸いにもそうした事態に至ることが無くて済んだのは、何よりでした(左図©Euro Travller)。

 ところが、ロンドンからのフライトが遅延したため、ウィーンの宿に着いた時には、すっかり真夜中を過ぎてしまいました。事前にそのことを知らされていなかったのですが、23:00以降はレセプションに全く人がいなくなり、玄関のインターフォンを押しても、何の反応もないのです。すっかり困っていると、やはり遅れて到着したハンガリー人の老婦人が助けてくれました。彼女の英語が流暢ではないので、お互いにカタコトのドイツ語で意思疎通。その結果、ホテルの電話を呼び出すと、担当者が電話口に出るので、自分の名前を告げます。すると、その個人専用のPIN番号を教えてくれるので、インターフォンの横にあるテンキーを使ってPIN番号を入力すると、割り当てられた部屋の鍵が見事に出てきました。やれやれ。

 Haea-oahlogoen_20241027211201 今回の調査にあたっては、実に色々な方々にお世話になりました。特に、親交のあるHAEA(ロゴは左図)の部長には、ショートノーティスでのHAEA及びパクシュ原子力発電所訪問の依頼であったにも関わらず、手厚い対応をして戴きました。さらに、訪問先の手がかりが全く無かった英国の原子力発電所の視察に関しては、本年1月下旬に東京で開催されたWINSのワークショップでご一緒したEDF Nuclear Services社の専門家の手配によって、円滑な訪問が可能になりました。この場をお借りして関係各位に謝意を表する次第です。

甲斐 晶(エッセイスト)

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