CNS年次大会等を訪れて
2023年6月上旬に、原子力発電所のセキュリティに関する調査のため、カナダと米国に出かけました。まず、カナダのセントジョン市で開催されたカナダ原子力学会(CNS)の年次大会に参加し、開会セッション等に出席するとともに、同市に所在、または同大会に参加していたセキュリティ関連のメーカーや原子力関連のエンジニアリング会社等との個別会合を行いました。さらに、米国ワシントンD.Cに移り、セキュリティ関連のNPO.を訪問して所要の調査を行いました。
CNSの年次大会では、カナダの原子力事業者の発表を通じ、次世代のSMR(中小型炉)の配備を中心にして、クリーンで安定したエネルギー源の活用により、カーボン排出ネットゼロの社会の実現を目指す意気込みを強く感じさせられました(図:カナダで配備が検討されているMoltex炉)。また、個別企業等の会合では、サイバーセキュリティ及び核セキュリティに係る先進技術に接することができ、所期の目的を果たすことができました。
開会セッション開始の冒頭、先住民の男女2名が、本大会の参加者及びその家族の健康と安寧を祈念する儀式を、先住民の歌や踊り、タバコの煙を鷲の羽で煽いだりする動作を交えて行っていました(左図)。こうした特別な行事を学会の開会冒頭に行っていることを目にしたり、開会セッションにおけるカナダの各州や事業者の発表の中で、その事業の推進において、先住民との共存を図るべく、事業への先住民の参画にいかに腐心しているかの言及を耳にしたりして、先住民との関係に特別な配慮を行わなければならないカナダ特有の事情、すなわち、原子力開発利用においても先住民の理解と協力や参画が必須と考えるカナダの原子力関係者の姿勢が窺えて印象的でした。
ところで、新型コロナが5類感染症に移行して間もないタイミングでの出張だったためか、日本からカナダへ向かう機内では、マスク姿の乗客が日本人以外にも見かけられ、我々の一行も皆マスク姿でした。しかしながら、CNSの年次大会では、レセプションにおいてもマスク姿の参加者は殆ど見かけなかったことから(380人ほどが参加登録した年次大会でマスク姿は、たった一人、白人男性がいただけでした)、我々も、若干の懸念を抱きつつも、郷に入りては郷に従えで、マスクなしで過ごすことになりました。
しかしながら、ワシントンD.C.着いてみると、道行く人々にマスク姿が多く見られ、アメリカ人のメンタリティはカナダ人と少し違うのかなどと感じましたが、実はこれは、カナダ東部で続く森林火災(右上図、出典:NHK)の煙が国境を越え米国に広がり深刻な大気汚染を引き起こして いたためでした。このため、ワシントンD.C.でもひどいスモッグになり、公衆衛生当局がマスクをしないと肺などに健康上の影響を起こす可能性があるとの警告を出したためだと分かりました。左下の図は、自由時間にリンカーン記念館を訪れた際に、カナダの森林火災によるスモッグのために霞んで見えるワシントン記念碑を撮ったものです。森林火災によるスモッグの影響は深刻で、ワシントンDCよりもカナダに近いニューヨークでは飛行機の発着にも遅れがでたほどとの報道がなされていました。
今回CNSの年次大会が開催されたセントジョンは人口約12万のニューブランズウィック州第2の都市で、ファンディ湾の北、セントジョン川の河口に位置しています。世界最大の干満差を見せるファンディ湾は、1日2回、大西洋の潮の満ち引きでセントジョン川を逆流して約1000億トンの海水が押し寄せることから、「Reversing Falls(逆流する滝)」が見られることで有名で、同市のウェブサイトには、Reversing Fallsを見物するため、その日の干潮・満潮の予報時刻の情報が掲載されているほどです(https://saintjohn.ca/en)。
個人的には、約50年前、ミシガン大学に留学中の夏休みに、ノヴァスコシャへ州へのドライブの途上で、「逆流する滝」の見物にセントジョンを訪れて以来の再訪問でした。今回、宿泊したヒルトンホテルが河口に位置していたので、毎日のように「逆流する滝」を見られるはずでしたが、どうも名前負けしている印象だったのは、50年前と余り変わりませんでした。(左図:「逆流する滝」の様子。出典:Tripadvisor)
さて、カナダにはセントジョン(Saint John)と良く似た名前のセントジョンズ(St. John’s)という町があるので要注意です。後者は、カナダ東岸に浮かぶニューファンドランド島東端近くの人口約20万の港町で、ニューファンドランド州の州都です。北米最古のイギリス人入植地ともいわれ、また世界一霧の深い町としてギネス認定されています。そのロゴ(左図)はセントジョンズ湾の幅の狭い深い入り江の形状を象徴しています。
甲斐 晶 (エッセイスト)
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