続・伊能忠敬物語
前回「伊能忠敬物語」では、現役を引退して50歳になってから江戸で学び、正しい暦づくりのため、「地球の緯度1度の正確な距離を知りたい」と、足かけ17年をかけて日本全国を自分の脚で測量。伊能図と呼ばれる『大日本沿海輿地全図』を完成させた伊能忠敬の生涯についてお話しするとともに、香取市佐原にある記念館の展示で伊能図の正確さに感動した立川志の輔が創作した、2時間にも及ぶ新作落語「大河ドラマへの道-伊能忠敬物語」のことを紹介しました。
忠敬が亡くなったのは1818年。伊能図の完成はその3年後の1821でしたから、今年はその200周年にあたります。それを記念して、志の輔はこの4月17日、江東区文化センターにおいて伊能図完成200 年記念落語会で「伊能忠敬物語 -大河への道-」を演じています(左上図)。また、お正月恒例の「志の輔らくごin PARCO」では、新装なった PARCO 劇場における約1カ月間のロング公演、「伊能図完成200年記念『大河への道』」を計画。しかしながら、その直前にご本人が肺炎になってしまい、急遽中止となってしまいました。
このため、200周年には間に合いませんでしたが、来年の1月「志の輔らくご in PARCO 2022」としてリベンジ公演「伊能図完成200+1年記念『大河への道』」が企画されています。1枚7200円と落語会としては破格の高額チケットなのにもかかわらず、発売直後に20公演全てが完売。彼の人気のほどを示しています(左図)。
忠敬の生涯に興味をそそられて訪れた記念館の展示で、衛星画像に基づく精緻な日本全図と伊能図が見事に重なるのを見た感動と、館外で目撃した「忠敬没200年記念に大河ドラマ化を」とののぼり旗から、「伊能忠敬物語 -大河への道-」という大作を創り上げた志の輔の想像力に感服します。
私がこの噺を2014年に初めて聴いた時の演題は、「大河ドラマへの道-伊能忠敬物語」だったのが、今では単に「大河への道」に進化。内容もきっと公演を重ねるに連れ磨きが掛けられているのではと思わせられます。
さて、「大河への道」は起承転結の構成になっています。まず志の輔は、30分にも及ぶマクラの部分で忠敬の非凡な人生、すなわち、50歳で天文学者の高橋至時に弟子入りし、55歳から日本全国を自分の脚で測量、73歳で亡くなるまでに地球一周分の距離を踏破したその生涯を語ります。
次いで「承」では、地元の偉人を主役にした大河ドラマの実現を目指す「伊能忠敬大河ドラマ推進委員会」の一大プロジェクトの顛末が描かれます。委員会は大物脚本家の加藤に脚本の作成を依頼。しかし、最終プレゼンの土壇場になって加藤は「出来ませんでした」と推進委員会の主任池本に詫びます。激怒する池本に加藤は「日本地図を完成させたのは、伊能忠敬ではない。」と思いもよらぬ発見を伝えます。実は地図完成の3年前に忠敬は亡くなっていたのです。
ここから舞台は江戸時代にタイムスリップする「転」の部分へ。主役は高橋景保で至時の息子です。彼は忠敬の死を伏せながらその事業を引き継ぎ、3年後の1821年に伊能図を完成させます。江戸城で将軍に拝謁し、忠敬の死を打ち明けて日本全図を披露します。「これが余の国か」と感動した将軍は、「伊能、大義であった。余は満足じゃ、ゆっくりと休め」と今は亡き忠敬に優しい言葉を掛けるのです。
ここで、再び場面は大河ドラマ推進委員会へ。結局加藤には忠敬の大河ドラマの脚本は書けず、書けたのは景保のものだったのですが、主任はその意味を深く理解し、提出書類にこう書きます。「伊能忠敬なる人物、ドラマにするには大きすぎた」。そして舞台は暗転してこの噺のクライマックスの「結」へ。パラグライダーで空撮した海岸映像がスクリーンに大写しされます。やがて画面上に衛星画像を元に作成された正確な日本地図が出現、続いてその横から歩測で得られた伊能図が現われて、両者がピタリと重なるのです。志の輔が伊能忠敬記念館で感動したシーンの再現です。
ところで、この「伊能忠敬物語 -大河への道-」が映画化され、来年の5月20日から全国で上映されます。主演は中井貴一で、志の輔の落語に感動した中井が「この落語、映画化したら面白いと思うんです。ぜひやらせてもらえませんか」と志の輔に直談判。中井をはじめ、松山ケンイチ、北川景子ら若手からベテランまでの個性豊かな俳優たちを揃えて、それぞれが一人二役で、大河ドラマ制作の行方を描く「現代劇」と、200年前の日本地図完成に隠された秘話を描く「江戸の時代劇」の2つの世界を行き来する不思議な映画となりました。予告編はこちらをクリックすると見られます。https://movies.shochiku.co.jp/taiga/
ちなみに、映画には原作者の志の輔も二役で登場しています。
甲斐 晶(エッセイスト〉
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