« 2021年3月 | トップページ | 2021年12月 »

2021年6月

わさび小痴楽二人会

Photo_20210617222901ようやく第1回目のコロナワクチンの接種を終えた日の夜、副反応で痛む左腕を抱えながら、国立湯演芸場で開催された「柳家わさび・柳亭小痴楽二人会」(第21回栗好みの会)に出かけました。コロナ禍で寄席や落語会の開催が中止となったり、ネット配信が盛んになる中で、久しぶりの生落語です。会場は、わさび師匠と小痴楽師匠それぞれの応援団で満ちていました。(左上は会場の受付で渡された今晩の落語会のポスターで、お二人の可愛いイラスト入りです。)Photo_20210617222902 この夜の二人会では、それぞれの持ち味を存分に堪能することが出来ました。お二人のマクラから、お互いに相手に敬意を抱いている様子が良くわかりました。所属協会こそ違え、同時期に真打昇進を果たした仲です。今後、益々切磋琢磨されることを期待しています。

 

Photo_20210617223102 小痴楽はお父さんが先代の柳亭痴楽。綴り方「狂室」で有名な、「破壊された顔の持ち主」である、先々代の痴楽の弟子ですが、先々代の存在が大きかったせいか、個人的には小痴楽のお父さんの印象は余りありません。豪放磊落な性格で、ほとんど家庭を顧みず、お金が入るとすぐに奢ってしまって、家に入れることはなかったとは小痴楽の弁。たまに電話があるとハワイからだったりして、「良いゴルフクラブを見つけたので、100万円すぐ送れ。」といった内容だったとか。突然、家に戻って来ると、子供たちに貯金箱を出させ、これを壊して中身を持って行ってしまう姿に、こんな親のようにはなるまいと子供心に小痴楽は思ったとか。

ところが、このコロナ禍で寄席や落語会が中止に追い込まれ、家賃も払えない状況に。奥さんに相談すると、昨年10月に生まれた長男に支給されている子ども手当を貯めた通帳の存在を打ち明けられます。いくらあるのか聞くと、「それは言えない。」との賢い奥様のことば。子供のお金をあてにしなければならない自分に父の姿が重なってしまったと、小痴楽は15分にも及ぶ長い近況報告のマクラで述懐していました。

苦労しているだけあって、親の七光りを享受しているほかの二世噺家とは違って、彼の噺には力があります。昨晩披露した「磯の鮑」も「岸柳島」も観客をぐんぐん引きつける熱演でした。

Photo_20210617223101 一方、わさび師匠の昨夜のネタ、「券売機女房」も「五目講釈」も、師匠の月例の勉強会「月刊少年ワサビ」で初披露されたのを聴いて以来でしたが、いずれもそのときよりも更なる磨きがかかって、高度な仕上がりとなっていて、会場を大いに沸かしていました。新作も古典もこなすわさび師匠ってすごいと感じました。

Photo_20210617223001 実は、トリの演目を何にするか高座に上がっても迷っていたとか。「明烏」とも思ったそうですが、同じ郭噺となって「磯の鮑」とかぶります。「二十四孝」をとも考えたそうですが、迷った末に語り始めたのが居候の若旦那の噺。てっきり「湯屋番」と思いきや、途中から五目講釈になって予想を完全に裏切られました。この噺は、講釈の素養が無いと出来ないもので、わさび師匠の「言い立て」の能力は大したものです。

 

 

甲斐 晶(エッセイスト)

 

| | コメント (0)

« 2021年3月 | トップページ | 2021年12月 »