世界の魅力的なパスポート
前回のブログ「新しいデザインのパスポート」を見た友人から、①2020年パスポートの発給はオリンピック・パラリンピックの行われる今年限りで、来年になればまた元のデザインに戻るのか?②他の国のパスポートも日本の2020年パスポートのように、ビザのページに各国独自のデザインが採用されているのか?との質問がありました。
①については、来年以降も引き続き新しいデザインのパスポートが発給されます。②については、ネットで調べてみたところ、多くの国で、パスポートのビザのページがその国を代表するような景観や事物などが描かれているほか、かなりの国で偽造防止対策の一環として、ブラックライト(わずかに眼で見える長波長の紫外線)を当てると別の画像が現れるようになるなど魅力的なものになっていることが分かりました。以下に、その例をいくつか紹介しましょう。(各画像をクリックすると拡大表示されます。)
まずは、フィンランド。偽造防止のために採用されたのはパラパラ漫画の手法です。ビザのページには北欧に生息するヘラジカが描かれているのですが、ページごとにその4本の足の形状が少しずつ変えて描かれているので、パスポートをパラパラめくると、このヘラジカがトコトコ歩き出して見える仕掛けになっています。どんな風に歩くのかは、左上の画像(出典:dezeen )をクリックするか、YouTubeのビデオ映像をご覧下さい。
同じ北欧のノルウェーの場合には、パステル調で美しいフィヨルドが描かれていますが、これにブラックライトを当てると、北欧特有の自然現象であるオーロラの画像が浮き上がって来る仕組みです。
南半球にあるオーストラリアの場合は、国を代表する自然景観や固有の動植物などが描かれたビザのページにホログラムが組み込まれています。すなわち、パスポートを傾けると10種類のカンガルーのホログラム画像が現れる仕掛けになっています。
カナダも36ページにわたるビザのページに、ナイアガラの滝(オンタリオ州)、首都オタワの国会議事堂(オンタリオ州)、国際レースで連戦連勝を誇った伝説の大型帆船Bluenose号(ノヴァスコシャ州)などカナダを象徴する名所旧跡や歴史的建造物などがデザインされており、これにブラックライトを当てるとそれぞれが更に華やかなイラストに変化します。例えば、ナイアガラの滝の場合、昼間のパノラマ景色を描いたものが、ブラックライトを当てると、夜空に輝く星座や月とともに鮮やかな滝の夜景となってが浮かび上がります。
国会議事堂の場合には、変哲も無い建物の画像だったものが、ブラックライトによって建物全体がきらびやかにライトアップされ、夜空に大輪の花火が多数打ち上がります(出展:sigmalive)。
中国も近年パスポートのデザインを変更し、万里の長城のような人気の名所旧跡などをビザのページに鮮明に描いています。ブラックライトを当てると万里の長城の場合には、長城の夜景が明るく照らし出されます。
このようにかなりの国で、パスポートのビザのページに肉眼では認識できない特殊なインクで描いたデザイン画像を、それぞれの国の名所旧跡や特徴的な事物の画の上に重ねて印刷することによって、ブラックライトを当てると不思議な効果の画が合成されるようにしています。そんな中にあってユニークなのはハンガリーのパスポートです。ブラックライトを当てるとなんとハンガリー国歌のスコアが現れるのです(出典:dezeen)
この他、ビザのページにその国を象徴する名所旧跡やユニークな事物の画を印刷しているパスポートの例は枚挙に暇が無いほどです。
英国の場合は、5年ごとにデザインを変更しているようですが、最新のものは2015年12月に発給され始めていて、過去500年間に創造的な作品を生み出した建築家やデザイナーにちなんだ図柄になっています。例えば、左はシェイクスピア劇場などを設計した建築家エリザベス・スコット(1898 – 1972)の肖像とその作品群があしらわれています。ちなみに、彼女の叔父に当たるジャイルズ・ギルバート・スコット卿(1880 – 1960) も選定されており、彼の設計したロンドンのバタシー発電所、リバプールの大聖堂、それに英国を象徴するあの赤い公衆電話ボックスがコラージュされた図柄になっています。(出典:dezeen2)
米国も定期的にパスポートのデザインを変えてきており、現行のものは2007年に改訂されたもので、ビザのページには「米国のシンボル」(American Icon)をテーマに、米国を象徴する歴史的建造物や動植物、名所旧跡の図柄が採用されるとともに、それぞれにちなんだ米国史上の有名人などの名言が13選定され、印刷されています。例えば、ビザの最初のページには、フィラデルフィアにある独立記念館と自由の鐘が描かれるとともに、初代大統領ジョージ・ワシントンの憲法制定会議での発言とされる “Let us raise a standard to which the wise and honest can repair.”との言葉が引用されています。
さらに、その数ページ後には、米国の国鳥である白頭鷲と草を食むアメリカバイソン(バッファロー)が描かれ、そこに公民権運動で活躍したマーチン・ルーサー・キング牧師の名句 “We have a great dream. It started way back in 1776, and God grant that America will be true to her dream.” が掲げられています。
また、これに続く次のページには、岩肌に4人の米国大統領、ワシントン、ジェファーソン、リンカーン、セオドア・ルーズベルトの顔が刻まれたラシュモア山が描かれ、その上方に、冷戦時代のケネディ大統領の言葉、 “Let every nation know, whether it wishes us well or ill, that we shall pay any price, bear any burden, meet any hardship.”が記載されています。ちなみにこれらを紹介しているサイトの著者は、選ばれた13人の男女比が12:1と圧倒的に男性優位なことに苦言を呈しています。
この他にも、インドネシア、フィリピン、ニュージーランド(以上出典:scoopwhoop)、マレーシア(出典:femalemag)などがビザのページにそれぞれの国を象徴する名所旧跡や特徴的な動植物などを描いています。具体的にどんなデザインかは、各出典のリンク先をクリックしてご覧になって下さい。なお、オーストリアの場合には、事物の代わりに、オーストリア各州の紋章などがあしらわれています(出典:scoopwhoop)。
このように、各国はそのパスポートのデザインや偽造防止のための特殊印刷技術を競い合っています。しかしながら、一般の人は自国のパスポートしか持ち得ないわけで(ゴーン逃亡者のように複数のパスポートを持っていれば別ですが)、自分の目で、これら各国のデザイン・コンテストの状況を実物を見て確かめることのできる人はわずかです。けだし、これが出来る各国の入国管理官は羨ましい限りです。
甲斐 晶(エッセイスト)
追記:
この記事を見た高校時代の級友が「プレゼントカードのように立体的に立ち上がったり、オルゴールの音が出るのは無理なのかな?技術が進めば富士山や君が代も面白いと思う」とのコメントを寄せてくれました。面白いアイデアです。現在のパスポートには身元証明用のデータが収められたICチップが既に埋め込まれていますので、midiファイル形式で取り込めば、音を出すのは技術的には可能でしょう。パスポートを開くと富士山の立体像のホログラムが現れて「頭を雲の上に出し・・・」の小学唱歌が流れたら素敵ですね。
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