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2020年3月

日本のパスポートの秘密

前回の記事「世界の魅力的なパスポート」において、世界の多くの国のパスポートでそのビザのページがブラックライトで幻想的に浮かび上がる素敵な隠し絵が印刷されていることを紹介しました。日本のパスポートではどうなっているのか知りたくて、早速、ブラックライトをネットで購入しました。

Bl-img57192386 送料込みで200円台の中国製の安価なものが多数Amazonで売りに出されていました。しかし、コメント欄を見ると、①安かろう、悪かろうで、結局、粗製濫造品を掴まされ、すぐ壊れてしまった、②中国から送られて来るので商品が着くまでえらく長く待たされたなどの書き込みが多かったので、これは少々高くても日本製をと考えました。色々、ネット検索した結果、日亜化学工業社製のUV-LEDを搭載したPW-UV343H-03Lという商品を選びました。税込み・送料込みで1,880円しましたが、注文してわずか2日で無事配達されてきました。

90445_jpg 早速、今回発給された2020年パスポートの前に使っていた旧パスポートを確かめてみました。身分証明のページは、写真が薄いフィルムでコーティングされており、ページを上下に傾けるとページの中央から右の部分に富士山と小さな桜の花びらのホログラムが現れます。この桜の花びらは角度によって雪の結晶に変わるのが芸の細かいところです。写真の部分のホログラムは、複数の波線が写真を覆うように現れるとともに、丸に山桜の家紋や大小多数の桜の花びらが現れます。別の意匠の家紋も現れ、これら二つの家紋が角度によって全く別の家紋に変化するのですが、デザインが細かすぎて、私の目では何の家紋かを判別するのは困難です。またビザの各ページには大きな桜の透かしが漉き込まれています。

Soldppidpage まず、身分証明のページにブラックライトを当ててみました。すると、ICチップに記録されている顔写真がページの右側にモノクロで楕円形の縁取りの中に現れるとともに、楕円の縁取りの上部と下部にはそれぞれパスポート番号と生年月日が極めて小さいフォントで表示されます。また、楕円の縁取りの左側と右側の部分に、それぞれ姓と名がアルファベット表記で現れます。さらに、顔写真のすぐ右横には、二重丸の枠内に日本国外務省の文字が英文で表記され、その中央に政府の紋章である五七の桐が浮かび上がります。顔写真のページと見開きになっているページ(p3:右の写真の上部)には、三本の横線が現れます。これがp5、p7ではそれぞれ二本、一本に変わります。

Oldppblight2 他のビザのページでは、ブラックライトで照らすと、大きめの桜の花びらが沢山散らばっているのが現れます。これは、上で紹介して来たような蛍光色のものではなく、また自然光の下では隠れていて識別できないので、特殊技術による偽造防止策のようです。

次に、2020年パスポートも調べてみました。身分証明のページのホログラムがさらに高度化し、ページを上下に傾けると、色々なホログラムの文様が動き出し、別の文様に変化するように見えます。例えば、桜の花びらが小さくすぼまって行って、別の小さな桜の花びらになったり、六弁の花形が小さくなって行って五七の桐の紋章とJAPANのロゴが現れたりします。また、ページの右下にある六弁の雲形の場合はくるくる回り始めたと思うと「日本国」のロゴが現れます。

Qnewppmaskedjpg ビザのページに大きな桜の花びらの透かしが漉き込まれているところは変わっていません。さらに、身分証明のページにブラックライトを当てて現れる変化も上に述べた旧パスポートの特徴と全く同じです。また、身分証明のページの見開きで対になっているページには、三本の横線と大小様々な大きさの正方形や複数の桜の花びらの形が現れます。ただ、三本の横線は蛍光発色ですが、そうでないその他の文様は旧パスポートのビザのページに現れる桜の花びらのように特殊技術によって生ずるもののようです。これらの文様は残りのビザのページにも施されていてブラックライトでくっきり現れます。

Snewpplastpage この他、パスポートの最終の見開きページ(左の写真参照)には、旧パスポートにも同様に採用されていた特殊印刷技術による偽造防止対策が採用されています。これはお札の偽造防止技術を応用したもので、左側のページの中央にインクの盛り上がった部分(精密凹版印刷)があります。ページを傾けてこの部分を左側から眺めると、大きな桜の花びらとその下にJAPANの文字が現れます。同様に右側のページの下に、一万円札の表の透かしの左下にあるような雲形の模様が見られますが、ページを傾けてこれを下から見るとJPNの文字が現れます。

この他にも、マイクロ文字など偽造防止のための高度精密印刷技術が駆使されているようですが、私には確認できませんでした。政府も手の内を全て明かすことになるので、どんな技術が使われているかは公表されていません。

このように、我が国のパスポートには、様々な偽造防止の技術がふんだんに盛り込まれています。皆さんも一度実物で確かめて見ては如何でしょうか?もっとも、上記の全ての特徴を確認するにはブラックライトが不可欠になりますが・・・。

一家に一台ブラックライトがあれば、お札やクレジットカードの真贋判定も簡単にできますし、有害な蛍光剤、蛍光染料等の蛍光反応を確認したり、紫外線硬化樹脂やジェルネイル等の硬化、夜光(蓄光)ルアーの短時間での蓄光などに大いに役立ちます。(しかしながら、どう見ても特殊な用途で汎用では無いですね。)

甲斐 晶(エッセイスト)

 

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世界の魅力的なパスポート

Hokusai-img_4560-masked 前回のブログ「新しいデザインのパスポート」を見た友人から、①2020年パスポートの発給はオリンピック・パラリンピックの行われる今年限りで、来年になればまた元のデザインに戻るのか?②他の国のパスポートも日本の2020年パスポートのように、ビザのページに各国独自のデザインが採用されているのか?との質問がありました。

①については、来年以降も引き続き新しいデザインのパスポートが発給されます。②については、ネットで調べてみたところ、多くの国で、パスポートのビザのページがその国を代表するような景観や事物などが描かれているほか、かなりの国で偽造防止対策の一環として、ブラックライト(わずかに眼で見える長波長の紫外線)を当てると別の画像が現れるようになるなど魅力的なものになっていることが分かりました。以下に、その例をいくつか紹介しましょう。(各画像をクリックすると拡大表示されます。)

Finlandpassportdesigngraphics_lowres_sq_ まずは、フィンランド。偽造防止のために採用されたのはパラパラ漫画の手法です。ビザのページには北欧に生息するヘラジカが描かれているのですが、ページごとにその4本の足の形状が少しずつ変えて描かれているので、パスポートをパラパラめくると、このヘラジカがトコトコ歩き出して見える仕掛けになっています。どんな風に歩くのかは、左上の画像(出典:dezeen )をクリックするか、YouTubeのビデオ映像をご覧下さい。

同じ北欧のノルウェーの場合には、パステル調で美しいフィヨルドが描かれていますが、これにブラックライトを当てると、北欧特有の自然現象であるオーロラの画像が浮き上がって来る仕組みです。

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南半球にあるオーストラリアの場合は、国を代表する自然景観や固有の動植物などが描かれたビザのページにホログラムが組み込まれています。すなわち、パスポートを傾けると10種類のカンガルーのホログラム画像が現れる仕掛けになっています。

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カナダも36ページにわたるビザのページに、ナイアガラの滝(オンタリオ州)、首都オタワの国会議事堂(オンタリオ州)、国際レースで連戦連勝を誇った伝説の大型帆船Bluenose号(ノヴァスコシャ州)などカナダを象徴する名所旧跡や歴史的建造物などがデザインされており、これにブラックライトを当てるとそれぞれが更に華やかなイラストに変化します。例えば、ナイアガラの滝の場合、昼間のパノラマ景色を描いたものが、ブラックライトを当てると、夜空に輝く星座や月とともに鮮やかな滝の夜景となってが浮かび上がります。

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国会議事堂の場合には、変哲も無い建物の画像だったものが、ブラックライトによって建物全体がきらびやかにライトアップされ、夜空に大輪の花火が多数打ち上がります(出展:sigmalive)。

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中国も近年パスポートのデザインを変更し、万里の長城のような人気の名所旧跡などをビザのページに鮮明に描いています。ブラックライトを当てると万里の長城の場合には、長城の夜景が明るく照らし出されます。

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China2

Hungarypassportdesigngraphicsbooks_dezee このようにかなりの国で、パスポートのビザのページに肉眼では認識できない特殊なインクで描いたデザイン画像を、それぞれの国の名所旧跡や特徴的な事物の画の上に重ねて印刷することによって、ブラックライトを当てると不思議な効果の画が合成されるようにしています。そんな中にあってユニークなのはハンガリーのパスポートです。ブラックライトを当てるとなんとハンガリー国歌のスコアが現れるのです(出典:dezeen

この他、ビザのページにその国を象徴する名所旧跡やユニークな事物の画を印刷しているパスポートの例は枚挙に暇が無いほどです。

Creativeunitedkingdom_updatedbritishpass 英国の場合は、5年ごとにデザインを変更しているようですが、最新のものは2015年12月に発給され始めていて、過去500年間に創造的な作品を生み出した建築家やデザイナーにちなんだ図柄になっています。例えば、左はシェイクスピア劇場などを設計した建築家エリザベス・スコット(1898 – 1972)の肖像とその作品群があしらわれています。ちなみに、彼女の叔父に当たるジャイルズ・ギルバート・スコット卿(1880 – 1960) も選定されており、彼の設計したロンドンのバタシー発電所、リバプールの大聖堂、それに英国を象徴するあの赤い公衆電話ボックスがコラージュされた図柄になっています。(出典:dezeen2

Us-passportnewinside 米国も定期的にパスポートのデザインを変えてきており、現行のものは2007年に改訂されたもので、ビザのページには「米国のシンボル」(American Icon)をテーマに、米国を象徴する歴史的建造物や動植物、名所旧跡の図柄が採用されるとともに、それぞれにちなんだ米国史上の有名人などの名言が13選定され、印刷されています。例えば、ビザの最初のページには、フィラデルフィアにある独立記念館と自由の鐘が描かれるとともに、初代大統領ジョージ・ワシントンの憲法制定会議での発言とされる “Let us raise a standard to which the wise and honest can repair.”との言葉が引用されています。Us20

さらに、その数ページ後には、米国の国鳥である白頭鷲と草を食むアメリカバイソン(バッファロー)が描かれ、そこに公民権運動で活躍したマーチン・ルーサー・キング牧師の名句 “We have a great dream. It started way back in 1776, and God grant that America will be true to her dream.” が掲げられています。

Us-current_2_lg また、これに続く次のページには、岩肌に4人の米国大統領、ワシントン、ジェファーソン、リンカーン、セオドア・ルーズベルトの顔が刻まれたラシュモア山が描かれ、その上方に、冷戦時代のケネディ大統領の言葉、 “Let every nation know, whether it wishes us well or ill, that we shall pay any price, bear any burden, meet any hardship.”が記載されています。ちなみにこれらを紹介しているサイトの著者は、選ばれた13人の男女比が12:1と圧倒的に男性優位なことに苦言を呈しています。

この他にも、インドネシア、フィリピン、ニュージーランド(以上出典:scoopwhoop)、マレーシア(出典:femalemag)などがビザのページにそれぞれの国を象徴する名所旧跡や特徴的な動植物などを描いています。具体的にどんなデザインかは、各出典のリンク先をクリックしてご覧になって下さい。なお、オーストリアの場合には、事物の代わりに、オーストリア各州の紋章などがあしらわれています(出典:scoopwhoop)。

このように、各国はそのパスポートのデザインや偽造防止のための特殊印刷技術を競い合っています。しかしながら、一般の人は自国のパスポートしか持ち得ないわけで(ゴーン逃亡者のように複数のパスポートを持っていれば別ですが)、自分の目で、これら各国のデザイン・コンテストの状況を実物を見て確かめることのできる人はわずかです。けだし、これが出来る各国の入国管理官は羨ましい限りです。

甲斐 晶(エッセイスト)

追記:

この記事を見た高校時代の級友が「プレゼントカードのように立体的に立ち上がったり、オルゴールの音が出るのは無理なのかな?技術が進めば富士山や君が代も面白いと思う」とのコメントを寄せてくれました。面白いアイデアです。現在のパスポートには身元証明用のデータが収められたICチップが既に埋め込まれていますので、midiファイル形式で取り込めば、音を出すのは技術的には可能でしょう。パスポートを開くと富士山の立体像のホログラムが現れて「頭を雲の上に出し・・・」の小学唱歌が流れたら素敵ですね。







 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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新しいデザインのパスポート

これまで10年間使っていたパスポートの有効期限が新年早々切れてしまいました。

すぐに更新手続きをしても良かったのですが、毎週見ているTOKYO MX テレビのアートステージ~画家たちの美の饗宴~」で、2020年春に発行されるパスポートからそのデザインが一新され、ビザのページに葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」が描かれると知って、新デザインに切り替わるまで更新手続きを見合わせることにしました。

外務省のホームページに2020年旅券(パスポート)のことが詳細に説明されていました。それによると、次期パスポートを2020年オリンピック・パラリンピックの開催を念頭に、その前年の2019年度中の導入を目指して準備を進めて来ていましたが、いよいよ令和224日以降に受理する旅券の発給申請について,新型の2020年旅券を交付することとなったのです。

1 2020年旅券はIC内の個人情報の不正読取り等を防ぐ機能を強化しているほか,偽造防止能力を高めるため,葛飾北斎の「冨嶽三十六景」をデザインに取り入れています。「冨嶽三十六景」は、世界的にも広く知られ,世界遺産でもある富士山をメインモチーフとし,まさに日本を代表する浮世絵のひとつであることから採用されたものです。外務省は、基本デザインの選定において,有識者5名による次期旅券冊子デザイン選定準備会合を開催し,複数の候補につき議論した内容を踏まえて最終決定しました。この選定準備会合は海外通信・放送・郵便事業支援機構会長の高島肇久氏を代表とし、元マラソン選手の有森裕子氏、慶応義塾大学文学部教授の荻野アンナ氏、俳優の関口知宏氏、東京芸術大学名誉教授の中林忠良氏で構成され、日本的なデザインをコンセプトに検討を行いましたが、「富嶽三十六景」以外には、正月やひな祭りなど日本人が持っている原風景にも似た日本の情景や,空を飛ぶ旅を連想させる鶴,桜などの日本の季節を代表する四季の植物をモチーフとした様々な候補があったようです。

2 一般旅券には有効期間が10年のものと5年のものがありますが、10年旅券は表紙を除き54ページあり,裏表紙,人定事項ページ,ICページ等を除く査証欄等の48ページに「冨嶽三十六景」の図柄を見開き2ページで一作品使用することとし,24作品が選ばれました。また、5年旅券では32ページに16作品がが選ばれました。

Hokusai-img_4560-masked 新たなデザインとなったパスポートの実物を是非この目で見てみたいとの思いを強くして、2020年旅券の申請受付が開始してすぐに申請していたところ、10日ほどで発給されました。私のは5年旅券ですので「富嶽三十六景」のうち16作品がデザインされています。そのうちのひとつを上に示します。有名な「凱風快晴」ですが、5年旅券にはこのほかにもお馴染みの「神奈川沖浪裏」、「山下白雨」などの作品が収められています。あまりの美しさ、すばらしさなので、こうしたページに入出国のスタンプやビザのスタンプを押して貰いたくない気分です。

皆さんも、機会があれば、是非、2020年パスポートを入手し、ご自分の目で実物のすばらしさをご覧になってみて下さい。

甲斐 晶(エッセイスト)









 

 

 

 

 

 

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