月刊少年ワサビ
前にも書きましたが、寄席や落語会に出かけて生で落語を聴くのが、私の趣味の一つです。
昨年もせっせと寄席や落語会に出かけ、沢山の噺家の噺を楽しみましたが、昨年の落語鑑賞のデータをとりまとめてみたところ、以下のような結果となりました。
昨年1年間に寄席や落語会で聴いた噺の総数は168席(一昨年は150席)、寄席・落語会の回数は36回(一昨年は26回)でした。
一昨年は、家内から「もういい加減にしたら。」と呆れられていたので、昨年はペースを落としたはずでしたが、結果的に一昨年を超える数値となってしまっていて、大いにびっくり。
噺家別では、以下の通りです。
1.柳家わさび 31席
2.柳家さん生 9席
3.古今亭駒治 8席
4.柳家権太楼 5席
4.林家正蔵 5席
5.春風亭一之輔 4席
5.古今亭文菊 4席
5.三遊亭歌武蔵 4席
この後は、3席が柳家さん喬、柳亭市馬、鈴々舎馬風、柳家甚語楼、三遊亭伊織、三遊亭わん丈、柳亭市松でした。
こうして見ると我ながら特定の噺家に偏っているなと思います。
柳家わさびが飛び抜けて多いのは、彼が昨年秋に真打となったので彼の真打昇進披露興業を多数追っかけたことと、彼の月例のミニ独演会「月刊少年ワサビ」と、王子の蕎麦屋の2階で隔月で開催される「越後屋寄席」(さん生、甚語楼との3人会)に昨年から出るようになったからです。わさびに次いで柳家さん生が多いのは、さん生がわさびの師匠なので、真打披露興業や越後屋寄席で必ず出て来たからでした。
彼らに次いで古今亭駒治が多いのは、前回書いたように幻の名作「十時打ち」を聴きたくて、駒治の真打披露興行を追っかけたからです。
ところで「月刊少年ワサビ」は、毎月末に神保町にある「らくごカフェ」で開催されます。会場は50人足らずで満席となるほどの小さなスペースですが毎回、わさびさんのファンで一杯。後述するように女性ファンが目立ちます。NHKの「落語ディーパー」や日テレの「笑点」の若手大喜利などでの活躍のゆえか、この頃では2ヶ月先の予約まで常連客によってすぐ満席になってしまいます。
開始は19:30から(受付開始19:00)ですので、まず、腹ごしらえに「いもや」という変な名前の天ぷら店に行くこととしています。
このお店は、神保町の交差点から100メートルほどの路地裏にある小さなお店です。
かなり年配の、いかにも職人風な寡黙のご主人と清楚で上品な感じの奥さんの二人だけでやっています。
とても人気のあるお店で、昼食時(11:30~15:00)には長い行列が出来、並び始めてから食べ終わるまでに小一時間はかかりますが、皆さん、忍耐強く並んで順番待ちをしています。さすがに夕食時(17:00~19:30)には列は短めです。
人気の秘密は、注文の品を目の前で揚げてくれ、出来たての美味しい天ぷらをわずか650円で楽しめるからでしょう。
定食のネタは、海老、紋甲いか、白身の魚、掻き揚げ、海苔(または紫蘇)などです。これに大盛りのごはん、熱々の豆腐とわかめのお味噌汁、香の物が付きます。
暖簾をくぐると小さなカウンターがあり、7人で満席となってしまいます。
お客は定食に(お好みで)追加のネタを注文します。
ご主人が黙々と手際よく揚げ、揚げ上がるとそれにおかみさんがご飯とお味噌汁を添えて出してくれます。
驚くのは、メモもないのに全てのお客の追加注文内容をおかみさんがしっかり覚えていて、食べ終わると正確な代金を請求してくれるところです。
美味しい天ぷらで身も心も満たされて、定刻の19時目掛けて会場に向かうのですが、これがとても分かりづらいところなのです。
初めて訪れた際には、「らくごカフェ」のある建物(神田古書センター)の正面の入り口から入って狭い階段を5階まで上ってみたのですが全く見当たりません。困り果ててしまってお店に電話をしてみると、なんと建物の裏口からしか入れず、しかもそこにたどり着くには、隣の建物の脇の道を大回りしないと駄目なのでした。
苦労して会場に着いてみると、19:00前というのに、30人ほどがもう並んでいます。常連さんのようで、そのほとんどが女性。
やせ細って弱々しい感じのわさびさんが母性本能をくすぐるのかも知れません。
この落語会の目玉は、毎回、前月の会で客席から出されたお題3つを元にわさびさんが三題噺を創作して披露するもの。
初めて参加した回のお題は、「お酒の失敗・座右の銘・猪突猛進」でした。
そして、隔月で古典のネタおろしがされます。毎月の三題噺の創作と隔月でのネタおろしが彼の良い修行の場になっています。
初参加の回では開口一番が「風呂敷」。これは、彼がレギュラーで出ているNHK(Eテレ)の「落語ディーパー」の番組で古今亭特集が組まれることになり、その準備のための練習と断っていました。
マクラでは、直前に武道館で行われた、らくごカフェ100回記念公演の模様が紹介されました。
出演した一之輔や天どんなど先輩師匠方の楽屋裏話が披露され、面白かったです。
本題に入っても、彼なりの仕草やクスグリの工夫がされていて、客席を大いに沸かせていました。
二席目は、注目の三題噺。「楽しいシラフ」と題して、どんなに飲んでも酔えない人物と酔客のやりとりを色々な格言を交えて可笑しく仕上げていました。
中入り後は、次月のお題の決定コーナー。聴衆があらかじめ一人一題ずつお題を書いて箱に入れた紙をわさびさんがランダムに5つ選択。この中から、客席の拍手の多かったトップ・スリーが次月のお題となる仕組みです。
初めて参加した回の三席目は、お馴染みの「だくだく」。空っぽな部屋の壁に家財道具などを描かせる場面で彼らしい工夫と仕込みがしてあって十分楽しみました。
口演終了後には出口でひとりひとりのお客さんをわさびさんが送り出し。私が「甲斐晶」であることを認識してくれていて、とても有り難く思いました。わさびさんの追っかけも多く、毎回、差し入れの山のスナップがわさびさんのツィッターで紹介されます。
昨年は9月下旬から11月上旬まで真打昇進披露興行の多忙な中で毎月の「月刊少年ワサビ」をこなしたのですから、わさびさんは凄い!53㎏だった細い体がさらに痩せたように思えます。
家内からさらなる叱責の声が聞こえてきそうなので、今年こそ自粛しようと思っている今日この頃なのですが・・・・。
甲斐 晶 (エッセイスト)
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