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2018年6月

国境なき落語団

B00132_main落語の魅力を世界に知って貰おうと、外国語の字幕を駆使して落語の海外公演を行っているのが、在日15年のドイツ人女性、クララ・クレフとさん率いる「国境なき落語団 」です。2011年に日独修好150周年を記念して、クララさんの故国ドイツに三遊亭兼好師を派遣して以来、2017年10月までに総計15人の落語家が海を渡って、ヨーロッパ16カ国、4900人の観客の前で日本の古典芸能を披露。公演は大成功で、観客達は毎回日本の独特な話芸の虜になっているようです(上の写真は、ポーランド・ワルシャワ「日本の波」フェスティバルで落語を演じる柳家小せん師匠 =2017年6月。撮影=Maciej Pogorzelski)。

 

B00132_ph03私が、字幕付き海外落語会の存在を知ったのは、現在人気急上昇中の噺家、古今亭一之輔に密着取材してそのプロフィールを紹介した特番でした。正確な番組名は忘れてしまいましたが、一之輔が2016年の秋の海外落語公演に出かけた姿が描かれました。大学で日本語を学んでいる学生達を前にした口演で、果たして分かって呉れるのだろうかと奮闘する様子が放映されたのです。(左の写真は、オーストリア、ウィーン大学での春風亭一之輔師匠の口演=2013年(撮影:キッチンミノル))

 

Photo_3私は、二つ目の噺家の中では特に柳家わさびさんに注目していて、彼のツイッターをフォローしています。そこにおいて、今年(2018年)も6月に、橘家文蔵師匠とわさびさんがドイツ・ノルウェー・ポーランドを約10日間に亘って海外落語公演をしていることを知りました。凄みのある文蔵師匠と吹けば飛ぶようなわさびさんの弥次喜多珍道中の模様がツィッターで配信されていて、読んで見るととても面白いのです。是非ともその帰国後の凱旋公演に参加したくなって、早速チケットを購入しました。 

このことを、フェイスブックの特定の落語仲間だけに公開されているグループサイトに投稿したところ、仲間のひとりから、この字幕付き海外落語会の活動が、上述した「国境なき落語団」の活動であることを教えられたのです。 

彼によると、「今年の欧州公演は文蔵・わさびですが、一之輔・ぴっかりとか、扇辰・小辰とか毎年様々な落語家が行っています。企画の中心はクララさんというドイツ人です。観客の大部分は日本語が分からない中で落語家は日本語で演じ、英語、ドイツ語などの字幕を落語にあわせて出すという公演です。日本での予行演習の落語会で正太郎の「愛宕山」を見たのですが、字幕が大変よくできていました。数年前にはぴっかりさんがパスポートを盗まれて次の公演先に行けるかどうかが危ぶまれたが、総領事がすぐに手配してくれたので何とかなったとか、いろんなエピソードがあるようです。私は残念ながら今年の凱旋公演には行けませんが、会場がユーロライブなので、道中で撮影されたスライドが映されたりして面白い会になるのではないでしょうか。」とのこと。ますます期待が高まりました。(左上は、「橘家文蔵 欧州公演落語会2018」のポスター。)

 

Photo_4上述した「橘家文蔵 欧州公演落語会2018」と題したツイッター、@BunzoinEurope では、この海外落語会での公演を経験した噺家、柳家喬太郎、桃月庵白酒、古今亭一之輔の各師匠からの面白コメントが紹介されていたり、遠征資金集めのために制作された手拭い(二種)や缶バッジが披露されていたりするほか、旅先での珍道中ぶりを描いた動画やスナップが時々刻々アップされていました。 

左上の画像は、「橘家文蔵 欧州公演落語会2018」の応援手拭いで、イラストレーターとつかりょうこさんの作品。 

北欧各地でのお二人の微笑ましいコスプレ似顔絵が満載。にがみばしった文蔵師匠もひたすら可愛らしく、吹けば飛ぶようなわさびさんは文蔵さんよりも二回りも小さいサイズに描かれ、頼りなさそうに文蔵師匠に寄り添う姿が何とも可愛い限りです。 

お二人が無事に帰国された後の6/19の晩、渋谷ユーロライブで開催された橘家文蔵欧州公演落語会2018〜凱旋公演〜に出かけました。 既に開演前、旅先のドイツ・ノールウェー・ポーランドでのビデオ・クリップが流されていました。
 
次いで、公演冒頭のトークでは、旅先のスナップ写真をスライドショーで流しながら、橘家文蔵師匠と柳家わさびさんの二人が普段着での掛け合いで、旅先の面白いエピソードを次々と約1時間に亘って披露。中々興味深かったです。
 
Dfgwskuxuae49bc_2トークの最後には、ポーランド公演に合流した遠峰あこさん(唄うアコーディオン漫談)が飛び入り。ポーランド民謡「赤いりんご」の空耳バージョンを披露しつつ、欧州公演の聴衆の反応ぶりなどを報告してくれました(左は、公演の行われたポーランドのブロツラフに一人残って路上ライブをしている遠峰あこさん。その後、若者達とカフェーで後で述べるような「芝浜」談義に花を咲かせたそうです。出典:@acotomine)。
 
文蔵師匠は、公演で「ちりとてちん」と、なんと大ネタ「芝浜」を演じたそうです。芝浜のオチを言ったとたん、聴衆の「おーっ」との割れるような反応に、日本との差を感じたとか。その種明かしを、その後もポーランドに残ったあこさんがしてくれました。あこさんが聴衆だった若者達に芝浜の印象を聞いたところ、嘘をつくのは罪とのキリスト教文化があるので、いつおかみさんに不幸が訪れるのかハラハラしながら聴いていたところ、思いがけないオチにびっくりした由。文化の差が同じ落語を聴いても違った反応になるのでしょうね。
 
Photo_5更に、彼女の話だと男子と女子で受け止め方が違っていて興味深かったとか。男子は、夫を騙した奥さんはけしからんという意見が多かったのに対して、女子は、あんな駄目亭主を立ち直らせるにはあの嘘は必要で、ああでもしなければ二人は破滅したはずとの意見。単純な男に対してクールでしっかりした女性というのは、「芝浜」に出てくる夫婦を持ち出すまでもなく、万国共通のようです。
 
そして、仲入りの直前、旅先でわさびさんが描いたスケッチ5枚などが、ジャンケン勝負に勝った5名の聴衆にプレゼントされました。
 
私の座席の後ろの方が、その一枚をゲットしたので、スマホで取らせて戴きました。オスロで目撃した、ホームレスがゴミ箱をあさっているところのようです。
 
とても水彩画とは思えないほどの見事な写実性にびっくり。さすがは、日芸油絵科出のわさびさんです。笑点の紙芝居落語でもその腕前を披露していましたっけ。
 
Photo_6中入り後は、わさびさんの「ジャーマンポテト宿」。古典の「茗荷宿」を改作した、今夜限りのネタです。創作落語の作者でもあるわさびさんは、原作者へのリスペクトから、改作は極力避けることにしているとのこと。しかし、旅先で毎日のように食事に出たため、3日で辟易となった「ジャーマンポテト」をテーマに、時折、ドイツ語のフレーズを交えながら、聴衆の笑いを取っていました。
 
トリは、文蔵師匠の「猫の災難」。欧州公演中、ツイッター@BunzoinEuropeに毎日のように投稿される動画では、いつも赤い顔を晒していた師匠でした。そうしたお酒飲みの師匠ならではの呑ん兵衛の描写は見事でした。
 
トリの開始時間は、サッカーワールドカップの日本対コロンビア戦の真っ最中。会場外のあちこちのスポーツパブで観戦中のサポーターの応援の歓声が漏れ聞こえる中での凱旋公演でした。
 
甲斐 晶(エッセイスト)

 

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