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2018年4月

落語研究会

「落語研究会」をご存じですか?あちこちの大学にある落研(オチケン)の事ではありません。毎月、月末に三宅坂の国立小劇場で開催される、落語だけ(色物無し)が出し物の落語会のことです。その系譜は戦前の1905年まで遡り、途中、戦争を含め4度の中断があって、現在は第5次となります。そして、平成30年6月には通算第600回を迎えることになる歴史有る会なのです。現在は、TBSが主催していて、収録した中から選んだ演目が地上波で毎月第3日曜日の早朝4時から「TBS落語研究会 」として放映されています。

Tbs我が家のビデオレコーダーには、キーワード録画の機能があり、「落語」、「オペラ」、「オーストリア」など好みのキーワードが設定してあって、番組情報のデータや番組タイトルなどからこれらのキーワードを含む番組が自動録画されます。そうして録画された番組の中に、「TBS落語研究会」があったのです。番組の最後に必ず次回開催の案内が出演者リストと共に示されるので、「落語研究会」の存在を知るようになった次第です。


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590席ある国立小劇場の座席のうち、当日券用は78席だけであとは全て年間を通じた予約指定席(「定連席」)となっているようです。当日券の発売は開演30分前の18:00からなのですが、人気の噺家が出演する回ではすぐに「満員御礼」となってしまいます。実際、勤め先を早めに退社して17:30頃に会場に着いて見ると、時既に遅く、当日券を求める長い行列が出来ていて「満員御礼」の表示があって、地団駄を踏んだ経験が何度かありました。





Photo_7どうにかして「定連席券」を得たいものと、数年前に事務局に問い合わせたところ、年度末にその発売申込手続きがあることを知って、以後何度か申し込んだのですが、毎回落選。定連席を持っている人は次年度も継続を希望する人が多いようで、新規募集のために開放されるのは毎年
4060席ほどしか無いのですから、当然、倍率が高くなる訳です。でもその昔は、定連席を求めて数日前から赤坂のTBSで並ぶ という、涙ぐましい苦労を強いられていたようで、それを考えれば現在のシステムは格段に良くなっています。そんなことが3度続いた昨年3月、何と見事に当籤したのです。倍率の高くなると思われる前の方の席ではなくて、最後列の席(B席)を選ぶ作戦が成功したようです。

定連席券の値段は高いのですが(A38,000円、B33,000円)、当日券(A3800円、B3300円)の10回分で12回聴けるのですからお得なはずです。しかしながら別用と重なることもままあって、結局、昨年は9回しか参加できませんでした。でも、当日券を求めて並ぶ必要がないのは明らかに便利です。

昨年の4月が定連席券を得て初めての会でしたが、周りはもう何年も定連席を続けている方ばかりのようで、お互いに親しく話し合っている姿が印象的でした。ところが、私の隣りは、とてもユニークな方のようで、噺家が高座に座ったり、噺が終わって退場したりする際に、聴衆が皆拍手をしても決して付和雷同することもなく、その上、噺の間中くすりともしません。極めて取っつきにくそうな方でしたが、平成29年度最後の会である一昨日、思い切って話しかけたところ、大いに話が弾み、思いがけない人柄であることが分かりました。決して印象で判断してはいけないことを悟らされた次第です。

この晩は、開口一番が入船亭小辰の「蟇の油」、次いで柳亭こみちの「稽古屋」、仲入り前が古今亭志ん輔の「宗珉の滝」、膝代わりが桃月庵白酒の「粗忽長屋」、そしてトリが柳家小三治「千早ふる」というプログラムでした。

Photo_3平成29年度芸術選奨 大衆芸能部門で文部科学大臣新人賞を受賞した白酒と人間国宝の小三治が出ることから、18:00の当日券発売開始前に既に割り当て枚数を超える80名以上が並んだため、この晩も行列制限が行われたようです。

こみちの「稽古屋」は真打ち昇進で初めてネタおろしをしたそうで、志ん輔の「宗珉の滝」同様、私にとっては初めて聴く噺でした。こみちによる同様の音曲噺「豊竹屋」をこの落語研究会で聴いたことがありますが、こみちの唄と踊りの巧さ、芸達者ぶりが今回も印象に残りました。女流噺家は、どうしても江戸弁が女っぽくなってしまって限界を感じるのですが、彼女にはそんなところがみじんもありません。今後の活躍が楽しみです。

志ん輔の「宗珉の滝」は金細工名人で二代目横谷宗珉となった横谷宗次郎が親方から勘当中に紀州の殿様のお抱えになるまでの人情噺風の演目です。噺の中で志ん輔が、「錦明竹」に出てくる「横谷宗珉四分一拵小柄付の脇差」とはこの宗珉のことと解説するのに、「錦明竹」の一節を演じていたのはとても興味深かったです。

白酒の「粗忽長屋」は彼なりのくすぐりが満載で、どこまでも明るくて爽快な爆笑噺に仕上げていて、白酒ワールドを大いに楽しみました。オチも伝統的なもので無く、彼なりのものに変えていました。

Photo_6小三治が「千早ふる」という軽い噺をどう演ずるのか興味津々でしたが、間の取り方が絶妙で、さすが人間国宝との感を深めました。頸椎を手術したばかりで、リューマチも患っているようですが、大いに長生きして戴きたいものです。

ところで、私のお隣さんは亭号をお持ちで、素人ながらお仲間と落語を演じておられるとのこと。これまで3年間この定連席を続けてきたけれど、これからは他の趣味(島巡りや寄席巡りなど)に生きたいのと、自宅が遠いため帰宅が遅くなってとてもきついので、これで落語研究会を卒業するとのことでした。紙切りのリクエストでその年の干支を切って貰い始めており、十二支を全て集めたいとの目標を立てておられ、これまでに2つ集めたとか。いつまでもお元気でその念願が全うされますように。でも干支にちなんだ紙切りの蒐集は年に1回のペースでしょうから、まだ10年はかかりそうです。ご苦労様。

 

甲斐 晶 (エッセイスト)



























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