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商社殺油地獄余話

前回、「落語の楽しみ」と題して、落語に親しむようになったいきさつや好みの噺家について書きました。現在活躍中の3人、柳家小三治、春風亭小朝、桂文珍の名前を挙げて、それぞれの人柄や噺の特徴などを紹介しました。

 その中のひとりで上方落語の雄、文珍師匠の持ちネタのひとつに「商社殺油地獄(しょうしゃごろしあぶらのじごく)」があります。初めて聴いたのは、何年か前のANA国内線の機内でした。奇想天外な展開に抱腹絶倒したことがあります。帰宅後早速AmazonDVDを求め、聴き直して見ました。

 104このDVDは、2008年春に大阪で行われた「桂文珍10夜連続独演会」をDVDに録画したシリーズの第4夜に収録されたもので、「包丁間男」という噺と一緒に収められています。

 従前から文珍さんは、日本全国、各都道府県を訪れては、その地の公会堂などで独演会を開催するという地道な活動を続けています。東京でも毎年春先に国立劇場小劇場で「桂文珍大東京独演会」を数日間開催して、好評を博しています。

特に2010年には、46日から15日まで、1600人を収容する国立劇場大劇場で10日連続独演会を実施。その人気からチケットは即日完売し、連日満席の会場は大爆笑の渦となったという、半ば伝説的なものとなっています。この熱演の模様がやはりDVDシリーズ「桂文珍大東京独演会」として発売され、くだんの「商社殺油地獄」はその第6夜に「高津の富」とともに収録されています。

Photo_5「商社殺油地獄」は、ある産油国、駐在員3人だけの日本商社の小さな出先の噺です。新国王の就任1年記念イベントを取り仕切っているのがアラマ・ハッサンさん。彼は、新国王が日本留学の経験もある大の親日家であって、能狂言にとても関心が深いことから、記念レセプションで狂言をやるように駐在員に注文を付けます。

そうした事情を全く知らない日本人商社マンは、もともと狂言には疎いのですが、どうせ王様には分かりっこないと高をくくり、あわよくば油の割り当てを増やして貰いたいとの下心をもって、にわか勉強で新作狂言『天才バカボン』を国王の前で演ってみせるという筋です。結局は、目論見どおりには行かずに落ちになるのですが、あの有名な漫画の主人公達を狂言に登場させて、パロディ化。これが、滅茶苦茶に可笑しいのです。

文珍さんは浄瑠璃や謡曲の素養があるようで、賑やかな鳴り物入りの狂言の場面になると、見事な節回しで「謡い」を披露します。

ところで、噺の中味がパロディであるばかりではなく、「商社殺油地獄」というタイトルも、近松門左衛門が人形浄瑠璃のために書き下ろし、明治になって歌舞伎に翻案して大当たりを取った作品「女殺油地獄(おんなころしあぶらのぢごく)」の演題をもじったものなのです。

歌舞伎の方のあら筋はこうです。油商河内屋の次男坊で札付きの不良息子与兵衛は、義父の徳兵衛が番頭上がりで遠慮がちなのをいいことに放蕩三昧。ついには家を追い出されますが、両親は、親心から与兵衛が来たら渡してくれと、同業で懇意にしている豊島屋のお吉の元に金を届けます。それを目にした与兵衛は、借りた金の返済期限が迫っていたことから、お吉に金を融通してくれと頼みますが、そんな大金は貸せないとお吉に断られて逆上。油樽を倒して油だらけになりながら、逃げるお吉を殺害し金を奪いますが、結局捕らえられてしまうのです。

さて、是非とも「商社殺油地獄」を生で聴きたいものと、ここ数年来「桂文珍大東京独演会」に出かけるのですが、いつも空振り。一昨年など、リクエストを求められて「商社殺油地獄」と叫んだのですが、その日の昼の部でやったばかりということで駄目でした。

そして、満を持して臨んだ昨年4月、幸運にも手を挙げた私のリクエストが採用され、「商社殺油地獄」を演じて戴けました。話の筋は分かっていながらも抱腹絶倒で大いに堪能いたしました。

甲斐 晶 (エッセイスト)

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