フォアグラ談義
昨年の暮れも押し詰まった12月27日、ハンバーガーチェーンWendy'sの再上陸第1号店が表参道にオープンしました。廉価戦略のマクドナルドとの差別化を図ろうとしているのでしょう、新生Wendy'sは店舗もメニューも高級志向です。Japan Premiumと名付けられた4種の日本限定メニューの中での注目は「フォアグラ・ロッシーニ」。価格は1,280円もしますが、フランス料理の中でもグルメの象徴とされる「ロッシーニ風ステーキ」をハンバーガーに仕立てたもので、ハンバーグの上にフォアグラのテリーヌを乗せ、「マデラ酒とバルサミコを煮詰めた芳醇なソース、そして香り豊かなトリュフクリームで仕上げ」ているそうです。世界三大珍味、キャビア、トリュフ、フォアグラのうち2つを用いているのですから贅沢至極です。
ところで、新鮮なフォアグラのソテーは秀逸です。フォアグラといえば、これを加工したパテ(レバー・ペースト)やテリーヌが一般的ですが、個人的にはあのもてっとした食感が駄目でした。しかし、ある時、フランス駐在の友人を訪れた際に、「ここのレストランの生フォアグラのソテーはお勧め」と言われて試してから病み付きに。レバー特有の臭みが全くなく、口の中に入れると舌の上でとろけるおいしさです。新鮮な生フォアグラが入荷しないと出来ないので、メニューには乗らないというしろもの。お刺身のネタ並ですね。日本でも、フォアグラ丼なるメニューのあるお店もありますので、どうぞお試しあれ。(画像:http://www.gourmet-world.co.jp/shopping/?page=product&prod=89)
フォアグラの主要生産国はフランスとハンガリーです。後で述べるような方法によってフランスではアヒルからフォアグラを生産しているのに対して、ハンガリーではガチョウを用いています。2004年の統計では、フォアグラの年間総生産量23,670トンのうち、フランスが76%、ハンガリーが11%を占め、ブルガリアが第3位、8.5%です。
さて、フォアグラの製法はアヒルやガチョウにとってちょっと残酷なやり方です。フランス語でフォアグラ(foie gras)とは、肥満した(gras)肝臓(foie)という意味で、アヒルやガチョウに無理矢理、餌を食べさせて人工的に作り出した脂肪肝なのです。そもそもカモの類は渡りを行う際に予め肝臓に脂肪を蓄えて脂肪肝になる性質があり、これを利用しているのです。
強制給餌のやり方はこうです。初夏に生まれた雛を野外の囲い地で牧草を餌に十分運動させて育て、基礎体力を付けさせます。(ウィーンに駐在していた頃、ハンガリーの窯元ヘレンドを訪ねる途中、プスタ平原に放し飼いになっている多数のガチョウの群を見ました。きっと基礎体力醸成中だったのでしょう。フォアグラを取った後の羽毛はダウンになりますから、実に一石二鳥です。)(画像:http://images.google.co.jp/imgres?q=%E3%83%95%E3%82%A9%E3%82%A2%E3%82%B0%E3%83%A9+%E5%BC%B7%E5%88%B6%E7%B5%A6%E9%A4%8C&hl=ja&rlz=1T4TSHD_jaJP324&biw=1024&bih=372&tbm=isch&tbnid=NgZI4RqcDqhr0M:&imgrefurl=http://digital.asahi.com/articles/TKY201111100643.html&docid=S07Yps7r1AiICM&imgurl=http://digital.asahi.com/articles/images/TKY201111100634.jpg&w=500&h=336&ei=2vD6T8W0GoLu-gaE3pXfBg&zoom=1&iact=hc&vpx=683&vpy=53&dur=3782&hovh=184&hovw=274&tx=182&ty=132&sig=110260935287841849764&page=1&tbnh=101&tbnw=143&start=0&ndsp=14&ved=1t:429,r:12,s:0,i:107)
夏を越して秋になると狭い場所に閉じ込めて運動できないようにし、消化しやすいよう柔らかく蒸したトウモロコシを漏斗で強制的に胃に詰め込む作業を毎日3回繰り返し、これを1ヶ月続けると肝臓が肥大して2kgもの脂肪肝になるのです。(画像:http://plaza.rakuten.co.jp/anticablog/diary/201206280001/)
このように大量の飼料を無理矢理食べさせるのは動物虐待だとして愛護団体が猛烈な抗議やボイコット運動を展開。その結果、オーストリア、ドイツ、英国など欧州14ヶ国において強制給餌が法律で禁止されるとともに、かつてのフォアグラ生産国のイスラエルでもフォアグラの生産が禁止されるに至っています。さらに米国カリフォルニア州では、強制給餌とフォアグラの販売の禁止を本年7月から実施しています。また、欧米のスーパーや航空会社ではフォアグラの販売禁止や機内食からのフォアグラの追放を行うところが増えています。一方、こうした世界的な趨勢にあらがうかのように、フランスではフォアグラは文化遺産の一つであって保護されるべきとの国会決議が2005年になされていますし、ハンガリーでも食の伝統文化であるフォアグラの保護と財政支援などを行う法案づくりの動きが進んでいるそうです。
このように賛否が分かれるグルメ食材のフォアグラですが、その美味しさの魅力に負けて食べ過ぎてしまうと、ご自分の肝臓がフォアグラ状態になりますので呉々もご用心、ご用心。
甲斐 晶(エッセイスト)
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