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ノイジードラー湖

 Main_karte ウィーンからハンガリーに向けてドライブを続けて行くと、なだらかな丘陵地帯に入り、次第にステップ風の景色に変わります。そんな中に、長さ36km、幅7~15km、面積320km2のヨーロッパ最大のステップ湖、ノイジードラー湖があります。

湖の真ん中には、オーストリアとハンガリーの国境線が走っており、その周辺には130㌶の葦原が広がっています。ハンガリーと共同で設置された自然保護区は、面積が2万㌶(うち約12千㌶はハンガリー側に)あって、Neusiedlerseecard世界的に重要な生態系を形成していると同時に、海のないウィーンの人たちには、湖水浴場として親しまれています。実際、湖水は僅かに塩分を含み、葦原で幹線道路から隔てられていることから海のような印象を与え、「ウィーン子の海」とも呼ばれています。

2001年に、この地域は、ハンガリーと共同でUNESCOの世界自然・文化遺産に指定されました。貴重な動植物の宝庫で、珍しい蘭の種類が生育していたり、チドリ、サギなど10数種の渉禽類や水鳥が生息し、Nseeヨーロッパとアフリカを渡る鳥の重要な中継地となっています。300種もの珍しい鳥がこの湖に引き寄せられ、また、150種ものツル、コウノトリなどが繁殖のために飛来します。したがって、バード・ウォッチャーでなくとも、鳥の観察には格好の場所で、双眼鏡は必携です。ここは、産卵のためにやって来る灰色ガンを研究し、「刷り込み」現象を見出してノーベル生物学賞を受賞したローレンツ博士の主たる研究の場でもありましたDia_konradlorenz

 湖畔の道路は、ほぼ平坦でサイクリング道も整備されていますし、歩きやすい道ですので、特別な靴を履いていなくてもウォーキングに最適です。湖水浴場のポーダースドルフからイルミッツへのサイクリングの途中では、野鳥保護区で小休止をして、水鳥の観察をする楽しみもあります。

 Csc_0109 日照時間が長いことから湖畔の丘陵地帯には、無数のワイン畑があり、イルミッツ、ノイジードル・アム・ゼー、ルスト、メービッシュなどは、ワインの産地としても知られています。そういえば、アフリカから飛来するコウノトリが屋根に巣をつくることでも有名なルストでは、その昔、不凍液入りの高級ワイン騒ぎがありました。ワインの品評会で最高賞を取ったルスト産のアウスレーゼが、実は、まがい物だったのです。

 メービッシュなどでは、ハンガリーとの国境が近いことから、観光客用ではありますが、居酒屋でジプシー音楽を楽しむことが出来ます。Reise_osterreich_neusiedlersee_pustまた、イルミッツでは、広大なステップ草原を背景にジプシー風の釣瓶井戸、あの独特の巨大な天秤のような井戸を見ることが出来ます。

ハンガリーがまだ共産圏であったときには、国境の町メービッシュのはずれには、高い監視塔と湖水の中まで延々と続く鉄条網が物々しく、Austrianeusiedlersee重苦しい雰囲気がありました。当時、国境に関係なく自由に行き来できる鳥や魚が羨ましいとの話を聞いたものです。それが、自由化直後に訪れたときには、あの鉄条網は廃止され、人々がハンガリーに続く湖畔の道を三々五々行き来しているのを見て、隔世の感を抱きました。

  Zugesch_v5j64633792 メービッシュは、夏の夜に湖上オペレッタが開かれることでも有名です。湖上に舞台セットが設けられ、これと相対して湖畔に観客席がしつらえられます。楽しいオペレッタの演目が7月中旬から8月下旬にかけて上演され、人気を博しています。呼び物は、公演が終わった後に湖上に次々に打ち上げられる華やかな花火なのですが、残念ながら日本の花火の比ではありません。

2010年の出し物は、すでに「ロシアの皇太子」(Der Zarewitsch)と決まっています。Derzarwitsch来年夏にお出かけの予定の方はインターネットで予約が可能です。ただし、気を付けないといけないのは、気温が高ければ蚊に刺されますので、虫除けスプレーを持参する必要があります。逆に、8月下旬にもなると、陽が落ちれば湖畔は急激に気温が下がります。一応、膝掛けを貸してはくれますが、セーターなど防寒具の用意は欠かせません。

甲斐 晶 (エッセイスト)

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