プラナリア殲滅作戦
世には色々な趣味がありますが、老若男女に広く愛好されているものもあれば、男女どちらかに片寄っているものもあります。「趣味の王様、王様の趣味」と称される切手蒐集は、前者に属するものでしょうが、宝塚歌劇の鑑賞では、観客は圧倒的に女性が主体で男性は遠慮がちに出かけています。また、観賞魚の飼育の場合には、専門店に出入りするお客は男性ばかりが目立つようです。
職場などで熱帯魚の話題が出た際に、目を輝かしながら苦労話などを披露するのは、必ずおじさん達です。我が家でも水槽に緋メダカを飼っていましたが、その世話を熱心にするのはもっぱら私の方でした。 以前、アフリカ・ツメガエルを飼っていたところ元気が無くなり、延命措置には生餌が良いと言われて導入した緋メダカでしたが、肝心のカエルのほうは薬石効無くご臨終。今や緋メダカが水槽を占有している次第については、いつかお話ししたことがあります(アフリカ・ツメガエル後日談)。水草に親が卵を産みつけ、これを飼育室に移し変え、そこから約3週間ほどで小さな稚魚が孵化し、これを大きく育てる喜びは、体験した者しか味わえない喜びです。
しかし苦労も付き物です。病気で緋メダカが全滅したり、水質の影響でコケが生えたり、知らない間に巻貝(スネール)が外部から侵入して駆除に手を焼くといった具合です。巻貝は、買ってきた水草に付着して入ってくるようで、その繁殖力たるや凄まじく、うっかりしているとすぐ水槽全体に蔓延してしまいます。ただし、コケを食べて呉れるお陰で水槽のガラス面がきれいに保てる効用もあり、気にさえしなければ良いのでしょう。
さて、ある時、水槽内にこれまで見かけたことの無い、ベージュ色をした細長い生き物(体長約1cm)が現れました。頭部は菱形で、ルーペで良く見ると、かわいい二つの目があります。水面を器用に裏返しになってすいすい泳いだいり、ガラス面を這い回っています。ところが、これまたやたらと増えるので、困りものなのです。しかも、味が悪いのか、緋メダカは見向きもしません。
その正体や如何にと、ネット上での探求の旅が始まりました。確か中学校の生物の授業で習ったようだったとのかすかな記憶を頼りに、単細胞生物では無いか、原生動物では無いかと検索。ついに執念が実ってプラナリアであることが判明しました。例の、体を二つに切断しても、頭部からは尻尾が、尻尾のほうからは頭が再生する生物です。
プラナリアは厄介な代物で、単体生殖と分裂の両方で増殖するため、あっと言う間に水槽全体に蔓延するのです。かわいい顔つきの一方、その繁殖力たるや不気味な存在です。しかし、蓼食う虫も好き好き。プラナリア愛好家のサイトではその生態や飼育法(放っておいてもいくらでも増えるように思えるのですが)が嬉々として語られます。
さて、我が家ではプラナリア殲滅作戦の開始です。敵は、数が多い上に体が小さく、指では捕まえられません。最善策は、水槽のリセット(全取替え)だそうで、それほど、一度プラナリアに侵入された水槽の原状完全復帰は困難なのです。
ともかく、一匹一匹、駆除するしかありません。こちらの兵器は、ローストターキー用の巨大スポイト。見つけ次第吸い取る作戦ですが、一進一退の繰り返しです。というのは、奴らはフィルター内にも進入し、こちらの目の届かないところで増殖するので、厄介至極なのです。一匹でも目残しにすると、すぐ増え、また最初からやり直しです。
プラナリア対策を記したサイトで銅イオンが効果があると知り、今度は5円玉を水槽内に投下。物理作戦に加え、化学兵器の導入です。この他、実際には試みませんでしたが、鶏のレバーを餌にするトラップ作戦もあるようです。(まるで昔の米軍とベトコンとの闘いを髣髴させます。)苦労の末、最後の一匹まで駆除したのですが、惜しいことにこれを見逃してしまいました。その後、長期出張に出かけ、作戦中断。ひどい事に成っているだろうと思いながら、帰国してみると、何と敵は殲滅されていました。化学兵器が効いたようです。
さて、完全制圧宣言をしたものの、一抹の寂しさを覚えたのは何だったのでしょうか。
甲斐 晶(エッセイスト)
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