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2009年2月

盆栽美術館

 海外に出かけると現地で必ず美術館や博物館めぐりをなさる方も多いことでしょう。では、外国からのお客さんを案内するとしたら、どんな博物館が興味深いでしょうか。首都圏ならJR市ヶ谷駅の近くにあった高木盆栽美術館をお勧めしたものですが、残念ながら5年ほど前に閉館してしまいました。

 ここは、我が国で初めてシュレッダーを商品化した明光商会の高木禮二社長が盆栽という日本の伝統文化を普及・発展するために、ご自身が収集された貴重な盆栽と盆器等を公開・展示していたものです。9階建ての明光商会本社ビルの一部が我が国初の盆栽美術館になっていました。12236_pc_m

 入館者は、まず最上階の屋上庭園に案内されますが、ここには、三方を白壁の土塀に囲まれた中に玉砂利と池を配した日本庭園がしつらえてあります。池の中央には、見事な枝ぶりの樹齢約500年とされる五葉松の盆栽が、やや離れてその左右には、定期的に入れ替えられる2鉢の盆栽が配置されています。この五葉松は、蔵王の岩壁に自生し風雪に叩かれながら生き続け、明治初期に採取され盆栽となったそうです。「千代の松」との銘に相応しいもので、幾星霜の風雪に耐えて培われた、堂々たる老大樹の風格を備えており、とにもかくにも圧倒されます。あるオランダ人の老医師夫妻を家内が案内した時には、実に30分以上も飽かずに眺めていたそうで、ここが都心のビルの屋上であることをすっかり忘れてしまう佇まいです。Photo

  8階は、屋内の常設展示場です。展示物は所有する500鉢以上の盆栽と4000点の盆器・飾台等の中から毎週月曜日(休館日)に入れ替えを行なっているので、毎週異なる四季折々にちなんだものを見ることが出来ます。例えば4月には、<春爛漫の盆栽展>と題して、桜・藤・サンザシなどの花ものの盆栽ともみじ、かえでなどの若葉、桜草、オダマキなどの山野草が展示されました。盆栽は、葉もの、花もの、果(み)もの、草ものと多種多彩なので、季節感溢れる演出が可能なのです。

 6階は、特別展示場で、様々なイベントが行われますが、ある年の5月にアメリカ人科学者夫妻を案内した時には、〈春の花 絵付け鉢展〉が行なわれていて、日本の江戸後期から昭和初期、中国の清朝期及びオランダの1800年代に作られた、さくら・ぼたん・バラなど春の花が描かれた盆栽鉢が書の掛け軸と共に展示されていました

 我々日本人は、盆栽を見るのが初めてではないので、余り素朴な疑問を抱くことはありません。しかし、同道したこのアメリカ人夫妻の場合、ご主人の方は、以前日本を訪れた際に盆栽の作り方の本を買い求め、帰国後実行してみたほどの盆栽好き(結局は、上手く行かなかった由)でしたが、奥様の方は初めての体験です。「盆栽の鉢は、どうして浅く平たいのか。」と核心的な疑問を呈しますが、こちらは答えがすぐには浮かびません。

 係員に尋ねると、盆栽は、真直ぐに伸びる直根を切って背丈が大きくならないようにし、更に枝を張らせ葉を繁らせるために根を横に広がらせなければならず、深い鉢ではなく平たいものになるそうです。鉢の底が浅いので、日に23回の水遣りが欠かせず、また、太陽光を浴びさせるために、室内展示の終わった盆栽は、ビルの谷間、8階の屋外に設けられた培養場で英気を養うのです。Img10552582282

 なお、9階から8階にかけての階段・踊り場には盆栽に因んだ浮世絵が展示されていて興味深いほか、2階には盆栽のビデオや図書なども用意された喫茶室があり、鑑賞の疲れを癒してゆっくりくつろげます。ちなみに、当初は、ケーキと飲み物の無料引換券を入場券を買った時に呉れたのですが、ある時、久しぶりに訪れてみると、備え付けの自動販売機用の無料カードに変っていました。

0727_p02 ところで喫茶室の奥は、明光商会の製品紹介を行なうコーナーになっていました。シュレッダーやラミネート機器が明光商会のものであることは知っていましたが、銀行や郵便局、病院などの窓口でよく見かける、受付の順番を音声と電光表示で知らせてくれる装置もその製品と知ってびっくり。こうしたユニークなヒット商品を次々に生み出して来たアイデア・マン社長高木禮二氏のお陰で、盆栽美術館が存在していたのです。

甲斐 晶(エッセイスト)

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