白アスパラガス
ウィーンに暮らしていると食材に季節感を感ずることは少ないのですが、そんな中で白アスパラガスは、ちょうど筍や初鰹のように春から初夏の季節の到来を人々に告げてくれます。5月ともなると、あちこちのレストランに、「アスパラガス有ります」との看板が出て食欲を大いにそそります。
日本でアスパラガスと言えば、グリーンアスパラガスが普通ですが、ヨーロッパでは、白アスパラガスが主です。28年前にウィーンに初めて赴任した頃には、グリーンアスパラなどどこの八百屋にも見当たらず、戸惑ったものです。旅先のザルツブルグの青空市場で偶然グリーンアスパラを見つけて感激した記憶がありますが、最近では、ようやくウィーンでもグリーンアスパラが手に入るようになりました。国際化のお陰でしょうか。
実は、グリーンアスパラも白アスパラも本来は同じ種なのですが、直射日光を避けるために盛り土(高さ25cmほどのウネ)によって栽培されるのが白アスパラです。ウネから穂先が出ると日光の作用でまず先端が紫色になり、次第にクロロフィル(葉緑素)が形成されて茎全体が緑色のグリーンアスパラになってしまいます。
そこで白アスパラは、土盛りの中で穂先が延びて地面を割って出る直前に、土盛りの表面の亀裂を目安に収穫します。特に穂先が折れやすいため、独特の道具を使って注意深く採取するのです。どうも日本では、こうした栽培に手間の掛かる白アスパラが農家に敬遠されているようで、このため入手が困難なのではないでしょうか。白アスパラの等級は、穂先の締まり具合、太さ、長さ、真直度などが基準となって値段が決まります。ウィーンでなら一級品でも1㎏あたり800円程度で買えるのに、日本では、インターネットで北海道から産地直送品を注文すると2,500~3,000円もしていましたが、最近では、近くの生協でも手頃な値段で売るようになりました。でも、調理の仕方が分からなかったりで、日本で白アスパラが普及するのには、まだまだ時間が掛かりそうです。
勿論、ウィーンでもレストランで食べる白アスパラは、良い値段がします。立派な太めのものを5、6本茹で上げてお皿に盛り、オランダ風ソース(卵黄とバターがベースのソース)を掛けたものが1,300~2,000円程度します。しかし、たかが白アスパラと侮ること無かれ。実に風味深く、結構お腹が一杯になるのです。まあ、日本の竹の子のようなものでしょうか。
アスパラガスは、タマネギやニンニクなどと同様にユリ科の植物ですが、多年生で、種をまいてから2~3年でようやく収穫できるようになり、その後10年以上も採取することができます。放っておくと1~2mにも背丈が延びますが、食用には、先に述べたように若い芽のうちに収穫したものを供します。アスパラガスは、雌雄異株で、食用として栽培されるのはもっぱら雄株の方です。
古代ギリシャ時代から、アスパラガスは、利尿作用、鎮静作用のある植物として知られていますが、低カロリーでビタミン(A、B1、B2、C、Eなど)やミネラル(亜鉛など)が豊富なほか、新陳代謝を高め、疲労回復に効果があるとされるアスパラギン酸を含んでいます。日本には、江戸時代に観賞用として伝えられましたが、食用としては、大正時代に北海道で栽培が始まりました。
オーストリア国内最大の産地は、ウィーン近郊のマルヒフェルト(Marchfeld)で、約150haに作付けされ、年間約750tと国内生産量の約70%を占めるに至っています。シャンペンなどの名称と同じようにマルヒフェルトアスパラガスの名称は、生産地商標としてEUによって正式に認定され、保護されています。(このあたりの事情や、アスパラガスに関する興味深い情報が満載のサイトをご覧下さい。ただし、ドイツ語です。)
ウィーンに5月から6月下旬にかけてお出かけになる機会があれば、是非ともレストランで実際にお試し下さい。オランダ風ソースの代わりに、バターソースにお醤油や準和風に鰹節とお醤油でも結構行けます。また、ワインビネガーとオリーブオイルに胡椒を振ったものをお皿に入れ、穂先で掻き混ぜながら食べるのも乙なものです。
甲斐 晶(エッセイスト)
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