国旗にまつわるルール
毎年夏に米国で開催されるINMM(核物質管理学会)の年次大会は、国際的な会合であることを印象づける演出として、主催者が、大会参加者の出身国の国旗をずらりと会場の壁に張り出しています。手違いがあれば、国際問題へと発展しかねません。国旗掲揚のプロトコール違反にならないよう細心の注意を払っているようですが、それでも参加者から、上下逆さだとか、裏返しだとかの苦情が絶えないようです。
昨年の大会でもブラジルの国旗が裏返しになっていました。なぜ、そんなことになったのかと言うと、星条旗の場合のプロトコールをそのまま当て嵌めてしまったからのようです。
室内で国旗を横長に張る場合には、上下を間違えさえしなければ、それほど難しくありません。旗竿側が左に来るように配置すれば良いのです。ただし、上下、左右対称のデザインである我が国やオーストリアの国旗の場合には何の問題もありませんが、 英国国旗(ユニオン・ジャック)のように、点対称のものは要注意で、うっかりしていると上下逆さにしてしまうことがあります(参照)。
問題は、国旗を縦長に配置する場合です。この場合には、旗竿側を上にして配置するのが通例ですが、国旗の左上部に「カントン」 (星条旗の星の部分やオーストラリア国旗のユニオン・ジャックの部分のように四角く区切られた部分)や紋章などが配されているものは、 ほとんどの場合、縦長に配置するときにもカントンや紋章の部分が左上になる向きで取り付けます。こうすると、星条旗もオーストラリア国旗も裏返しにして配置することになってしまいます。
ところで、ブラジルの国旗は、ポルトガルから独立した1822年9月7日の星空を描いた天球儀を中央に配し、その赤道上に「秩序と発展」と言う国の標語が記されていることから、INMMの事務局は、これをカントン扱いとし、星条旗などの場合に倣って、裏返しに配置してしまったようです。(ちなみに、正式なブラジル国旗は、裏表で同じデザインとなるよう、この部分を裏表縫い合わせて国旗を製作しているそうです。)
ところが、カントンが無いデザインの国旗であっても、縦長に配置する際には、その方向が規定されている場合があり、複雑です。例えば、カナダの場合、旗竿側を下にするよう規則で定まっています(参照)。一方、カントンを有すると見なすことの出来る中国国旗の場合、縦長に配置する際には、先に述べたカントン部分が左上になる向き(裏返し)で取り付けるのではなく、旗竿側を上にして掲揚します。
また、リヒテンシュタインや北朝鮮のように、通常の横長のものとは別に縦長用のレイアウトが存在する国もあります。さらに、オランダ、ブラジル、パキスタン、サウジアラビアの4ヶ国は縦長に掲揚すること自体を禁じているなど、国によって様々なルールがあります。ですから、縦長に配置する場合に、国毎にどうするのが正式な掲揚の仕方なのかに違いがあるので、念のため当該国の大使館などに問い合わせてみる必要があります。縦長に配置する際の国旗の方向の例が旗の販売会社「更五」のHPにあります(参照)。
国旗や州旗を飾るのが好きな米国人向けに、これらの旗を掲揚する際のルール(United States Code Title 4 Chapter 1)を詳しく述べたサイトがあります(参照)。この中で興味深いのは、国旗の品位を損なうことになる禁止行為の例として、星条旗の一部または全部のデザインをアパレルに使用することが挙げられていることです。星条旗をデザインした、 Tシャツやネクタイ、バッジなどは米国内でごく普通に売られ、人気も高いのですが、本当はルール違反なのです。
実は、ある有名ブランドの福袋を日本で購入したところ、星条旗をデザインしたトランクスが入っていましたが、米国内では着用してはいけないようです。
また、ルール上、星条旗には何の文字やサインも書いてはいけないことになっています。我が国の場合には、先の戦争中、出征兵士の武運長久を祈願して、友人知人が日の丸に寄せ書きをしていたことを思うと、彼我の文化の違いを感じさせられます。
甲斐 晶(エッセイスト)
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