クアラルンプールにて
2000年の夏、マニラに出張した後(「マニラにて」参照)、日を置かずにマレーシアの首都クアラルンプールを訪れました。省エネルギーや公害防止などの技術の移転を通じて、環境問題の解決に向けた支援方策を検討するために政策担当者との対話を行いました。
クアラルンプールを訪れるのは私にとって初めての経験です。成田からの直行便で、暮れなずむクアラルンプールに到着。入国手続きは極めてスムーズで、「空港での第一印象によってその国と商売する気になるかどうかが決まる。」と語っていた商社マンの言葉を思い出しました。このあたり、荷物が出てくるまでに1時間以上も待たされた中央アジアの某国や、3時間以上も待たされた北西アジア某国の地方空港と大違いです。ちゃんとシステムが出来ており、維持されています。
テントをモチーフに丹下健三氏が設計したという空港内の案内板もマレー語、英語に並んで日本語で表示されています。日本などに学ぶ「ルック・イースト」を標榜しておられた、当時のマハティール首相の意気込みを痛感しました。空港から市内へのハイウエイも広い車線と淡い光の照明で好印象を与えます。途中、小高くなっていて市内が見下ろせる場所を通過しましたが、立ち並ぶ高層ビルの夜景が見事でした。
市内は、イギリスによる統治時代を彷彿とさせる歴史的な建物と近代的な高層ビル群とが良くマッチした都市計画になっており、オレンジ色の屋根瓦の高層アパートなど、マレーシアの伝統的建物の特長を生かした建築物もあちこちに見られました。しかし、途中まで建てかけで放置された高層ホテルやモノレールの橋脚などが散見され、数年前のアジア経済危機の影響を感じさせられました。
さて、折角、省エネルギーの政策対話に来たというのにビルの中の冷房がガンガン利いているのには閉口しました。部屋ごとのきめ細かな温度調節が不可能とのことで、真夏でもコートを羽織ったり冬服を着て執務するのが常とか。暑さにも拘わらず、冬支度の服装で通勤するのがステータスシンボルだそうで、冷房のガンガン利いた職場で働いていることを誇示しているのです。エネルギー資源の豊富な国ならではの現象でしょうか。
政策対話は、クアラルンプールから車で小一時間ほどの所にある新首都プトラジャヤの庁舎で行われました。各省の庁舎や各国大使館の建物、そして議事堂のほかモスクまで備えた新都市を建設中で、緑や草花が多く、まるで壮大な公園の中に来てしまったようです。ただ、長期滞在者の話では、こちらではどんなに新しいビルでもペンキがすぐ剥げてしまい、老朽化するとのこと。高温多湿で日差しが強いせいでしょう。
新首都に向かう途中、突然のスコールに逢いました。我々の前を行くトラックの幌無しの荷台には、むき出しになったパンが山積みのまま。急な雨に戸惑ったのでしょうか、運転手は、雨宿りする風でもなくひたすら目的地に向けて運転を続行しています。びっしょり濡れてしまったあのパンを一体どうしたのだろうかと、余計な心配ながら気になりました。南の国のメンタリティーなのでしょうか。
物価は、日本の3分の1ほどでしょうか。食事も美味しく、マンゴーやドリアンなど果物も豊富。町並みも綺麗で、治安も悪くありません。近代的な設備が揃っており、便利なショッピングセンターがあちこちにあり、日本の商品も容易に入手できそうです。イスラム圏であることを割り引いても、日本人にとっては住み心地が良さそうです。
ただし、びっくりしたのは、コンピュータ・ソフトや音楽CDの海賊版が多数売られていることでした。マレーシア政府職員の話では、日本からのお客さんに紹介して大いに喜ばれるのがそうした違法コピーを扱っている地区だそうで、どんなCDでも揃っているとか。その店に無くても、どこからか融通してくれ、感激するそうです。
私の立場上、そうした怪しいところではなく、HMVに出向きました。イスラム圏なのにちゃんとコラールのCDがあり、格安の値段で入手でき大満足でした。
甲斐 晶(エッセイスト)
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