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エコノミークラス症候群

 Ana_logo 2000年前後から、我が国でも新聞などで「エコノミークラス症候群」のことが良く報道されました。これは、長時間、機内の狭い座席に座り続けた乗客が、機内や目的地に到着して飛行機から降りた直後に死亡するもので、成田ではそれまでの8年間に25名の利用客がこれで亡くなったとの分析結果が出されたりしています。Jal200011月に英国上院の科学技術特別委員会が英国政府や航空会社に対策を勧告したことから急に注目を集め始めたようで、全日空日航 もそのホームページで利用客注意喚起し、機内で適度の運動等の対応方策を紹介しています。A0055913_0145763

しかしながら、この「エコノミークラス症候群」は何も最近急に知られるようになったわけではなく、欧米では深部静脈血栓症として、既に1988年以前から医学雑誌などで指摘されていました。以前、私の勤めていたIAEA(国際原子力機関)でも、米国人の同僚トムが外国出張の途上、長時間の飛行の後に飛行機から降りたとたんに意識不明となり入院。幸いにも一命を取り止めたということがありました。

彼は、担当医からこの深部静脈血栓症の存在を知り、IAEA事務局に注意喚起の書簡を発出。その結果、出張などで6時間以上のフライトを利用する職員などに対して、199010月、以下のような注意書きが配布されました。3738361656

     長時間の飛行中、脱水や血中溶存ガスの減少によって、血液の粘性が増す。

     長時間座席に座ったままでいると、四肢、特に脚部や足部の血行が不良となる。血液の粘性が増せば増すほど、心臓の血液循環の働きは悪くなる。

     こうした状況下では、血管の塞栓が起こり得るが、これはその後、悪い影響を起こさずに溶解することもあるし、移動して心臓経由で肺に達し、肺血管の塞栓を起こすこともある。こうした血栓ができる確率は、長時間座ったまま、特に脚を組んだままにして血行を妨げると増大する。

     次のように簡単に行える予防法が有効である。まず、脱水を最小限にするために多量の水を飲むこと(注:アルコールは脱水作用があるので相応しくない)。また、可能ならば、通路側の座席に着席し、Sample011時間ごとに席を立って歩き回ること。座席に座ったままでの運動でもましであるが、歩いた方がずっと効果的である。座席を立つことが不可能な場合には、せめて脚を頻繁に動かしたり、深呼吸を頻繁に行うこと。こうすることで、血行が良くなり、血流のよどみが防げ、血栓の形成を防止できる。

要するに、長時間、狭い座席に拘束された結果脚部の血行が悪化してその静脈に血栓が出来、これが移動して肺に達すると、肺血管の塞栓が起こり、Embolus呼吸困難、そして意識喪失を起こし、ついには死亡に至るというものです。こうした深部静脈血栓症を起こしやすいのは、静脈瘤のある人、過去に脚部に血栓を起こしたり、脚部や骨盤を手術したり、脚部に怪我をしたりしたことのある人、妊婦や経口避妊薬を服用中の女性、肥り過ぎの人、大柄の人、高齢者、喫煙者などとされています。 

したがって、これを「エコノミークラス症候群」と呼ぶのは誤解を与えます。体質などによってはファーストクラスの乗客やパイロットでもその危険性があるのです。現に成田では、到着後コックピットで深部静脈血栓症のために倒れ、亡くなった米国人パイロットの例があります。また、航空機旅客以外にも発生する可能性があり(2004年新潟県中越地震の際に車中で長期間寝泊りした被災者に発生した例など)適切な表現とは言えないので、最近では、ちゃんと深部静脈血栓症と呼ぶようになっています。10030845770

さて、IAEA事務局に深部静脈血栓症の危険性を訴えた我が同僚トムについての後日譚です。彼は、血栓の出来やすい自分の体質を逆手に取って、2年に1度許されている自分の一時帰国の際に、飛行機の代わりに鉄道と船による米国への往復の旅を要求。論客で鳴らした彼のことです。ついには、豪華客船クイーン・エリザベスⅡ世号での復路を認めさせたのです。日本人だったらきっと、一時帰国そのものを諦めていたことでしょう。

甲斐 晶(エッセイスト)

                                 

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