シーラカンス余話
前回(「インドネシアにて」参照)は、インドネシアで「生きている化石」シーラカンスの標本を見たお話しをしました。10年前にインドネシアで生け捕りされたものです。
発見のきっかけは、1997年9月にスラウェシ島を新婚旅行中だったポス・ドクの海洋生物学者Mark Erdmann氏夫妻が二人で青空市場を歩いている時に、木製の荷車に載せられて引かれて行く不思議な魚を奥さんのArnazが見かけたことでした。ご主人のMarkは、すぐにシーラカンスだと気付いて写真を撮りますが、それが学問的にも一大発見だったとは知らずに、その写真を自分たちのハネムーンのホームページに掲載します。これを見たシーラカンス専門家のE.K.Balon博士が写真を削除するように助言。確認のため再度標本を捕獲するように、またこれに必要な資金の要請を行うようにと勧めました。
プレスには内密にすることを条件に、National Geographic Society 、Nature そしてSmithsonian Institution がこの計画に乗ります。Erdmann博士は、11月にスラウェシに戻り、地元の漁師たちに報奨金付きでシーラカンスの生け捕りを依頼。ついに1998年7月30日の朝、約130mの深さに仕掛けた鮫の網に体長約120cm、体重約30kgの得物が掛かったのです。
漁師のOm Lameh SonathamがErdmann博士のもとに生きたまま届けます。その後6時間ほど生存。その間に博士夫妻は、その色彩、ヒレの動きや全般的な行動状況を写真に記録しました。DNA分析用の試料採取がなされ、冷凍保存後、標本にするための固定作業を行い、長期保存と展示のためにチビノンの動物標本館に移されました。この発見に関するErdmann博士の論文が彼の指導教官及びインドネシア科学院の同僚との共著で、同年9月24日号の「ネイチャー」誌に掲載され、世界を驚かせたのです。
シーラカンスは絶滅種の国際取引に関する条約上、絶滅のおそれのある種に指定されていますが、
スラウェシ島での発見以来、日本人の密輸ブローカーが暗躍。島民の年収の8倍近い高値で捕獲を持ちかけたりしたそうです。一方、漁師の無知や貧困につけ込むこうしたブローカーの動きに心を痛めたJICAの日本人専門家や地元のNGO活動家が保護・啓蒙運動に乗り出したりしました。
シーラカンスは1938年に最初の個体が発見されて以来、200匹ほどがコモロ、マダガスカル、モザンビークなど主に南アフリカの西インド洋で捕獲されています。それまでは、40億年前頃の化石の記録に現れ、8千年前には絶滅したとされていたため、珍しい「生きている化石」としてその標本が世界中の博物館などで展示されています。
また、シーラカンスの保護・啓蒙のために捧げられたウェブサイトも多数ありますが、最も充実しているのがこのサイトで、シーラカンスの泳ぐ姿も楽しめます。一方、シーラカンスの発見そのものが進化論の誤りを物語っているとするサイト もあります。実に世の中色々です。
甲斐 晶(エッセイスト)
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