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ナカムラ大統領

 2000年の夏、パラオ共和国とミクロネシア連邦(「ちょっと良い話」参照)を訪れました。いずれの国も終戦直後まで日本の委任統治が25年以上続き、良き時代であったことから、我が国に対して特別に好感を抱いています。Palauflag

  パラオは、古くからダイバーのパラダイスとして知られ、美しい珊瑚礁に囲まれた、紺碧の海が魅力の1つです。空港のある本島(バベルダオブ島)から、首都のコロール島までの道すがら、ゴミ1つ落ちていない清潔さが印象に残りました。ナカムラ大統領にお目に掛かった際に、このことに触れると、それは、日本の古き良き伝統が残っているからだとのこと。道路清掃の要員ばかりでなく、子供達が毎朝、自分の家の回りの清掃をそれぞれの役目として行う習慣が残っているのです。

 11_13_1 日系三世のナカムラ大統領に依れば、島民の4分の1近くが日系であり、現在でも、日本と緊密な関係にあるそうです。日常生活でも多くの日本語の単語が借用されており、丁度、大統領選挙運動中(3選禁止条項により、同大統領は不出馬)でしたが、センキョ、コウホシャ、ダイトウリョウなどの用語は日本語がそのまま使われているそうです。各候補者の看板にも日系の名字が散見されましたし、ある候補者の場合、その氏名がローマ字だけでなくカタカナでも標記されていました。70歳以上の古老は、今でも流暢な日本語を操る一方、カタカナしか読み書きできないそうで、カタカナでの投票も認めらているのです。

 経済的にも日本との結びつきは強く、輸入品の半分、自動車の場合には中古車を含め実にその9割が日本からのものとか。車体に○○教習所と漢字で書かれたままの中古車が走っていました。

 Map_2 1994年に米国との自由連合国として独立したばかりの若い国だけに、大統領の国造りにかける意欲は大きいものがあります。米国から15年間に亘って毎年供与される盟約金を有効に利用して、本島の周回道路の建設、首都移転、自由貿易区の創設、軽工業を中心とした産業の振興、養殖漁業の育成など、従来の観光だけに頼った経済からの脱却を目指しており、日本からの協力に対する熱い思いを述べておられました。

 人口約1万7千人のうち約5千人がフィリッピン人という偏った人口構成ですが、これは、働くパラオ人の殆どが公務員であって、他に見るべき産業がないことから、若者は賃金の高いサイパンやグアムに渡ってしまい、単純労働はいきおい外国人労働者に頼らざるを得ない産業構造にあるからなのです。大統領が目指している観光以外の産業の育成が急務である所以です。

 パラオは、この地域の国としては珍しく台湾との国交を199912月に樹立していますが、大統領に依れば、これは地理的な近さとこれまでの経済関係の密接さを考慮した結果とのこと。これから台湾との関係も緊密になると思われます。

 しかし、外国人の進出に伴い、思わしくない状況も出現しているようで、たまたま車窓から看板を見かけた中華料理店、美容院、映画館について、どんな店かを現地の大使館員に尋ねてみたところ、いずれについても口ごもるばかり。どうも看板に偽りのある怪しげなお店のようでした。R03031504

 大統領は、我々一行を島内1、2と評判の店にお招き下さいました。パラオでその養殖に力を入れているシャコ貝や特産のナポレオンフィッシュに伊勢エビなどの刺身、それにヤムやタロイモのフライとパラオならではのおもてなしでしたが、中でも圧巻は、特注のスープでした。

 10031551164 大統領が大型のスープ・ボウルの中に浮かぶ黒い物体をおもむろにお箸でつまんでいます。遠目には、昆布か何か海草が折り畳んであるのをほどいているように見えたのですが、広げてみると何とそれは、黒い大型の蝙蝠、フルーツ・バットの翼でした。果物ばかりを餌にしている清潔な蝙蝠だというのですが、一瞬、皆ひるみました。自分は、メキシコでネズミの丸焼きを食べたという一人の団員のコメントに励まされて、スープを飲んでみましたが、これが意外と美味。皆さんも機会があればお試しあれ。ただし、大統領のお言葉に依れば、パラオのバイアグラなのだそうです。

甲斐 晶(エッセイスト)

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