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和製英語

 今に始まったことではありませんが、英語で表現すると何となく格好良いと思うのでしょうか、宣伝文句に英語が用いられたり、製品名に英語もどきの名称が使用されているのを良く見かけます。不思議なのは、どうも日本人のスタッフだけで決めているようで、多少ともネイティヴ・スピーカーのチェックを受けていればそんな表現にはならないと思われる変な英語が、まま見受けられます。

 一例を挙げると、PHSの宣伝が華やかな頃、あるメーカーが「愛Phs する人とP(ピー)してる。」とのコマーシャルをしきりに流していましたが、これを聞いた英語を母国語とする人々に対して不快感を与えたそうです。というのも、peeとは、小用を足すことで、pissの最初の文字に由来しているのです。(ちなみにCalpisも「英語人=英語を母国語とする人」には、奇異な命名なのです。)また、コーヒーに入れる粉末状のクリームの商品名、Creep490272000508102 、多分、Creamとの関連性と日本語の語感だけ決めたのでしょうが、この語に「 (人にうまく取り入るような)いやなやつ」という意味があることが分かっていたなら、きっとボツになっていたことでしょう。

 さて、10年ほど前のある日、車を運転中のこと、私の前をT社のRV車が走っておりました。ノロノロ運転であったこともあり、何気なく後部に装備されたスペアタイヤのカバーに視線が行きました。大きく車種名が書かれた下に何やら、英文が見えます。"A trip with nature is always a special environmental adventure."との表現でした。この英文は、何を言いたいのでしょうか。"a trip with nature"というのは、自然と一緒の旅、自然と一体となる旅という趣旨なのでしょうが、意味不明です。また、"a special environmental adventure"というのも分かるようでいて分からない表現です。

 10102017_199801 ある国際会議に出席したついでに「英語人」に率直な感想を聞いてみました。幸いにもこの会議には、英国人、米国人、カナダ人、オーストラリア人と英語を母国語とする人たちがおりましたが、異口同音に「何を言おうとしているのか分からない」とのコメントでした。

 20060710100535z カナダ人は、「きっと、『このコピーが読めたら近づき過ぎです』との警告では、・・・」などと冗談を言っていましたが、英国人は、"an unintelligible aphorism"(難解な警句)だと言っていましたし、オーストラリア人は、"Delphic"(曖昧)だとしていました。アメリカ人は、"I don't get anything from the message. Perhaps, something like a walk in the woods can be something special."(どういう趣旨なのか全く分からない。「森の中を散歩するのは、何か特別なこと」と言った程度のことか。)と断った上で、"Trip with nature"とは "Trip in natural surroundings"ということなのだろうか、また、"environmental adventure"とは"a new experience involving the environment"(環境との関わりを持つ新たな経験)と言う趣旨なのだろうかなどと首をかしげていました。

 この結果を紹介しながら、T社に問題を含んだ英語表現である旨を指摘する手紙を出すと、丁重な礼状が参り、「私どもとしては、明らかな誤りではないと思っておりますが、ご指摘のとおりわかりにくい表現でございますので、改める方向で検討いたしたいと存じます。」との回答でした。しかし、問題の本質は表現に誤りがあるかどうかではなく、それ以前の「意味不明」、「英語のようだが、趣旨不明な表現」と言うところにあるので、本来どういう趣旨でこのコピーを作成したのか、また、どのように改めるつもりなのかを再度照会しました。すると、「変更時期、表現内容については、現在のところ未定で」あり、「コピーの表現の趣旨については、(私に対して)ご案内するほどのものではない」との、極めて慇懃無礼な回答ぶりにがっかりしてしまいました。

 世界に冠たるT社でさえ、「英語人」にチェックして貰ったとは思えない意味不明の英文コピーを麗々しく掲げて平気なのですから、日本人の英語感覚には、いささか問題がありそうです。

                            甲斐 晶(エッセイスト)

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