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オペラ談義

 30年以上も待ち続けていた新国立劇場が落成し、Zpfile000_2 そのこけら落としに團伊玖磨氏作の「健・TAKERU」の公演が行われのは、もう10年以上も前の平成19年の秋でした。ようやく国立のオペラ専用の劇場が出来、これで日本も本格的なオペラ時代が到来するのではとの高い期待がありました。    

  オペラの楽しさは、演劇と音楽が総合された芸術であるところにあります。したがって、初めのうちは、単に有名なアリアを聴くだけで大満足なのですが、次第に、演出家による演出の違いや、同じアリアでも歌手によってどう唄いこなされるのかを堪能したくて、同じ演目なのに何度でも見に(かつ聴きに)出かけるようになるのです。

 かく申す私も当初は、食わず嫌い。「あんな黄色い声を張り上げるものが何で面白いのか」と思っていたうちの一人でした。ところが30代半ばでウィーンに赴任。初めて本物に接し、その魅力に取り付かれて病膏肓になりました。これまで内外で鑑賞したオペラやオペレッタの演目は、全部で100種類以上にもなります。41baevqn7l_ss500_

  これらの中で、見る度に感激するのは、プッチーニのラ・ボエームです。お針子のミミと詩人ロドルフォの恋を縦糸に、彼の仲間の貧乏芸術家達の友情を横糸にして織りなされる人間模様。重病となって死期の間近なミミのために、仲間達がわずかばかりの持ち物をそれぞれ売り払って、薬などを用立てる場面は、涙無しには見られません。

  パリのオペラ座(バスチーユ)で見たときのこと。フランス語訳が舞台上方の字幕に出ていて、つたない私のフランス語力でも訳語を目で追ううちに登場人物の心の綾がひしひしと伝わります。「古い外套よ」と売り払う外套に別れを告げるコルリーネのアリアのところで、遂に涙が目から溢れ、これを隠すのに一苦労。幸い字幕が上の方にあったので助かりました。感涙を落とすのは、私だけではないようで、ブエノスアイレスのコンロン劇場で隣り合わせた老婦人とのオペラ談義でも、彼女はラ・ボエームで涙すると言っていました。51veskmtk9l_ss500_

   同じプッチーニの蝶々夫人も、彼女のけなげで一途な愛に心を打たれます。特に、待ち焦がれていたピンカートンの艦船が夜が明けると長崎港に戻って来るのを心待ちにする時に流れる間奏曲は、感動的です。ところがそんな彼女の純真な愛を踏みにじってアメリカ女性と結婚し、子供だけを引き取りに来るピンカートンの身勝手さは、ただただ腹立たしい限り。加えて、外国で見るこのオペラの登場人物の着物は、袖の大きさや帯の締め方など和服とは似て非なるもの。時には、主人公の着物が左前だったり、お辞儀をしながら合掌したり、畳の上を靴でずかずか上がったりと、日本人が見ると噴飯もので、見終わって憤りが残ります。51afbu0u6dl_ss500_

  ヴェルディの椿姫では、パリで高級娼婦にうつつを抜かしている息子のアルフレードにプロバンスの故郷に戻ろうと切々と諭すお父さんジェルモンのバリトンでのアリアが胸を打ちます。

  ところで、見ていて哀れなのは、同じヴェルディのリゴレット513i612ob0l_ss500_ 愛する一人娘が主君に拐かされた上、自分の差し向けた刺客によって殺されてしまうのです。この時の彼のアリアは、悲痛です。

  51qi9wmzusl_ss500_ 一方、ユーモラスなのは、モーツワルトの魔笛あまりに人間的なパパゲーノの生き方が火や水、無言の行を経て神殿入りを許されるタミーノとパミーナのカップルとは好対照で観客の笑いを誘います。51xzgoixnll_ss500_ 

  年末ウィーンで恒例の「こうもりも全編これ楽しい出し物。特に、監獄の場で黙役で出る看守のフロシュ役はコメディアンが務めるのが常で、そのコミカルな語りと演技にお腹を抱えます。 41z71kx8r8l_ss500_

  遺産が目当ての遺族から頼まれて、死んだ金持ちにまんまと成りすまし、偽の遺言状を書く羽目になるプッチーニのジャンニスキッキも人間の欲とそれに振り回される人々をコミカルに描き出していて実に愉快です。そうした泥臭い人間劇の合間に、娘ラウレッタのアリア「私のお父さん」などの珠玉の名曲がちりばめられているのです。

  かくしてオペラは、人間の喜怒哀楽をオーケストラ演奏と最高の楽器である声楽で描き出す素敵な世界。やっぱりオペラって止められませんね。

甲斐 晶(エッセイスト)

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