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ローカル路線の旅

 前回(日本の味覚)は、海外出張のおみやげのアイデアを列挙してみましたが、その中で海外では余り戴かないものの例としてワサビ漬けを挙げました。Img854_3

 ワサビ漬けは、新幹線の中の車内販売でも売りに来る静岡の田丸屋のものが有名ですが、その社長が実は某原子力関係法人の理事を務めた方だというのは余り知られていないところです。

 ところで、このワサビ漬け、地元の静岡では、田丸屋よりももっと有名なお店があるというのを地元出身の友人から聞いていたので、東京から浜松へのドライブの途中に寄ってみました。

 何しろ全て手作りですから、とかく品不足。午前中には売り切れてしまい、早々と店を閉めてしまうので、予約する必要があるというのです。東名高速に入る前に携帯電話で予約を入れ、途中のサービスエリアで静岡市近辺のガイドブックを購入して、目指す田尻屋への道順を確認します。 幸いにも、途中、大した混雑もなく、お昼前に無事田尻屋に到着しました。

 Tajiriya お店の構えは、それ程大きくありません。中央にシンボル的な大きな漬け樽がどーんと置かれている以外、飾り気のない店内。その傍らで中年の女性と男性が黙々と所定量のワサビ漬けを秤で取り分けては、次々に容器に詰めています。品物を注文すると、代金と引き替えに淡々と品物を渡してくれるだけ。愛想も素っ気もありません。これで良く商売が成り立つものです。

 Sz002501 ところで、旅を終えて自宅に戻ってから、その味を試してみてびっくり。ちょっと口に含んだだけで、良質のワサビの香りと刺激が鼻から額に直撃。半端な刺激ではありません。知人にもおみやげに差し上げたのですが、これまた好評でした。

  商品に添えられていたしおり、「元祖わさび漬由来記」を読んでみると、この田尻屋こそ今から240余年前の宝暦年間に、その初代の田尻屋利助が静岡名産のワサビ漬けを創意工夫して最初に造り始めたとのこと。お店の片隅で黙々と商品を詰めていたのは、初代から数えて八代目の店主夫婦だったのです。きっと昔気質なのでしょう。お店を立派にしたり、大量販売のために生産規模を拡大して支店を設け、新幹線で販売するといった路線を取らずに、昔ながらの創業地で操業。家内工業ベースで造った量が売り切れたら店じまい。商業主義に陥ることなく、頑固なまでに伝統の手作りの味を守り続けているのです。A2300200a Sekibeya  

 田尻屋で道を聞いて、東海道をさらに西に車を進めると、安倍川に掛かる橋のたもとに、もう一つの静岡名物である「あべ川もち」の老舗、石部屋を見つけました。ここのは、もち米100%で、つきたて。とても柔らかいのに歯ごたえがあり、新幹線で売られているものとは大違い。ここも、商品が売り切れたら、それで店じまい。やはり無愛想ながら、味はしっかりしています。今回は、試して見ませんでしたが、わさび醤油の「からみもち」も名物とか。次の機会にはと思っています。Asobiba073_mariko

 さらに、東海道を西へ進むと、両側から山が迫って来て、あたかも広重の描いた東海道53次の版画のような風情。丸子の宿で丁度お昼時となったので、名物「とろろめし」の丁字屋へ。芭蕉の句にも詠まれた、古くからのとろろ汁のお店で、味噌仕立てなのが特色。さすがに、名にし負う味でした。「名物に旨いものあり」です。050205144150

 浜松からの帰路、今度は焼津インターで高速道路を降り、漁業の町、焼津に向かいました。本来は、友人から教わっていた、鮮魚を安く買える焼津さかなセンターを目指したのですが、生憎と夕方5時を回っていて閉店。代わりに、ガイドブックで見た港の近くの寿司屋へ。近海ものの新鮮なネタを使った、お任せにぎりがわずか3000円。どれも美味で、大いに満喫しました。

 最近のモータリゼーションの進展で、全国に高速自動車網が四通八達。大変便利にはなりましたが、その反面、どこのサービスエリアも画一的で個性がありません。高速道路をちょっと離れてローカルな道を行ってみると、思いがけない良さが発見できることを今回体験しました。便利さと引き替えに、良いものを失ってしまったようです。

                                                            甲斐 晶(エッセイスト)

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