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観客気質

 欧米の国に出張した際には、できるだけその地のオペラやミュージカルを見るように心がけています。前回は、オペラ談義に話の花を咲かせましたので、今回は、国による観客気質・鑑賞マナーの違いに触れてみましょう。6150146

 まずは、ウィーンから。とてもマナーのうるさい地です。演奏中に音を出すのは、御法度。アメリカのように、ヒーローやヒロインが舞台に出てきただけで拍手などしようものなら、すぐさまこちらの方を睨まれたり、シーッと言われたりします。拍手は、演奏が終わって一呼吸置いてするのが常識。オペラのアリアが終わらないうちに、感激した観客が拍手をすると言うことはまずありません。51d8ixbmpl_ss500__2

 ところが、演奏が終わったからと言って安心して拍手をすると、これまた顰蹙を買う場合があります。それは、ワーグナーの祝祭劇「パルジファルの第1幕の後のこと。これは、厳粛な宗教的楽劇であり、礼拝的要素があるので拍手は自粛するようにとの原作者ワーグナーからの指示がなされているからです。

 日本の場合のように、開演前、切符の表示を見ながら勝手に自分の座席に行ってはいけません。必ず係員に座席まで案内して貰い、その人からプログラムを買って、端数の小銭をチップとして差し上げるのが習わし。また、会場での録音、写真撮影も御法度で、プログラムに日本語でそう注意書きがしてあるのには、同胞としてちょっと肩身が狭い思いがします(もっとも、最近では、幕間での撮影は許されているようです)。

 服装の方は、国立オペラ座の場合には、天井桟敷や立ち見席でもない限り、ジーンズ姿は見かけず、割としっかりしています。しかし、平土間などの上席以外では、夜会服など着た人はいません。時折、大した席でもないのに、きっとガイドブックの記述のせいでしょう。場違いにフォーマルな服装の日本人観光客を見かけたりします。An_der_wien_2

 左様までに、ちょっと堅苦しい雰囲気のあるウィーンなのですが、これは、もっぱら国立オペラ座の話であって、フォルクスオペラやミュージカルの場合には、もっと砕けています。アン・デア・ウィーン劇場に最近評判になっているミュージカル「エリザーベート」 を見に行ったところ、人気歌手が出て来ただけで、若者達が熱狂的な拍手をしていました。劇場の違いや客層の違いのためもあるのでしょうが、これもウィーンの姿なのかと驚かされました。2f016wien0

 これがロンドンやニューヨークともなるとそんなのは、当たり前。日本の宝塚歌劇のファンのように、打てば響くような観客ばかり。舞台と聴衆が一体となって盛り上がります。この点日本の観客は、一般に慎み深く、おとなし過ぎるようです。外国から来たエンタテナーが手拍子をするよう日本の観客に求めても、なかなか乗って来ないので苦労するそうです。

 これは、ニューヨークでミュージカル「美女と野獣」134533 を見たときのこと。私の後ろに座っていたラテン系の女性客達なのですが、興が乗ってくると歌手の歌に合わせて鼻歌を歌い出すのには、参りました。まるで自宅の居間でテレビの歌謡ショウを見ている風情。彼女達のラテン気質がなせる技かとも思ったのですが、このリラックスムードは彼らだけではありません。他の観衆もオーケストラの演奏が始まり幕が上がっているのに、ざわざわと私語をし続けたまま。とてもウィーンでは考えられない光景でした。もっとも、ロンドンで見たミュージカル"Me and My Girl"でも同様でしたから、ウィーンがちょっと堅苦しすぎるのかもしれません。Memygirl

 オペラやコンサートのように音楽を芸術としてじっくり味わうには、ウィーン式の鑑賞態度が良いのでしょう。しかし、オペレッタやミュージカルのように気軽にエンタテーメントとして楽しむには、舞台と観客が一体となって盛り上がる方がベターです。

 上に述べた観客気質の違いも、実は、お国柄による相違と言うよりも、案外、オペラとミュージカルの相違によるところが大なのかも知れません。

甲斐 晶(エッセイスト)

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