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津軽塗り

 前回(伊奈かっぺい)は津軽弁のコメディアン「伊奈かっぺい」のことを書きましたので、今回もついでに津軽にちなんだお話をしましょう。Cimg1361_2

 津軽の名産品には色々ありますが、工芸品で有名なのが津軽塗りです。縄文時代の人々の生活に関する従来の常識を次々と覆すことになった青森市郊外の三内丸山遺跡の泥炭層中からも極めて良好な保存状態で漆器が出土するなど、この地域と漆器との関係には大変深いものがあるようです。Wan11

しかし、現在の津軽塗りの歴史は、元禄時代に遡ります。今から300年ほど前の津軽4代の名君、信政公が漆工芸の隆興を図り、漆樹の植林育成により漆の自給自足を図るとともに、若狭の漆匠、池田源兵衛を召し抱え、技法の研究を命じたのが始まりで、その子源太郎により考案されたと伝えられています。

 その特徴は、数種の色漆を不均等に何回も塗り重ねて、研いでは塗り、塗っては研ぐを繰り返し、微妙で複雑な色紋様を研ぎ出す「唐塗り」にあります。Kara_pic_01 仕上げまでに40数回の工程と2ヶ月余りの日数を費やす製法の馬鹿丁寧さと製品の馬鹿丈夫さが「津軽の馬鹿塗り」とも呼ばれる所以です。0129c

  昔は、唐塗りの他にも様々な紋様を生み出す多くの手法が行われていましたが、今では、七々子(ななこ)塗りや錦塗りなどが残るだけ。Nanako_pic_02 七々子塗りは、下地の上に菜種の種子を蒔き付けて研ぎ出し、沢山の小さな丸い輪型の紋様を一面に散らす手法で、色遣いこそ単純なものの、細かい輪型の複雑なパターンには味わい深いものがあります。Nisiki

 私と津軽塗りとの出会いは、今から36年前のこと。初めての青森への出張で、朝虫温泉に投宿。温泉街のそぞろ歩きの途中で津軽塗りの専門店を見つけました。丁度、婚約中でしたので、結婚してからの普段使いにと、唐塗りの箸箱と、唐塗りの夫婦箸を求めたのですが、手間の多い製法を反映してとても値段が高く、清水の舞台から飛び降りる気持ちで大枚をはたいた記憶があります。

  爾来、「馬鹿塗り」の名に恥じずに、ほぼ毎朝、毎晩の酷使に耐えてきたのですが、さすがに25年余りも経つと、あちこち摩耗が目立つようになってきました。我々の結婚生活同様良くこれまで保ったものだと感謝しつつも、銀婚式を機に2代目を求めようと言うことになり、10年前にたまたまむつ市に出張の機会があったので物色してみました。ホテルから折角タクシーを飛ばして閉店間際の物産館や土産物屋に出かけたのですが、あるのは安物ばかり。やはり津軽塗りは下北ではなくて、津軽まで足を延ばす必要があるようです。

  ところがその数日後、同僚が都内某デパートの物産展で津軽塗りの箸の高級品を見かけたと教えてくれました。早速、出かけてみると、弘前市にある「游工房ギャラリー」の作品で、伝統的な津軽塗りの技法に現代的な味わいのデザインを施した魅力的なものばかり。一目で気に入りました。しかし、一膳4800円と値段が高いのが玉に瑕です。Kanban

  電話番号を調べて游工房に直接コンタクトしてみてびっくり。何と、工房で買えば3600円とか。デパートが3分の1もの中間マージンを取っているのです。夫婦箸は注文生産とのことなので、夏休みに旅行がてら弘前まで出かけ、見本を見せて貰ってから注文しようということになりました。

 いよいよ夏休みとなり、夫婦連れで青森へ飛び、レンタカーで弘前まで出かけました。事前に送ってもらっていた工房への手書きの順路図に従って、弘前市内から、L02012 岩木山の山麓に広がるリンゴ畑の中を行くアップルロードをドライブ。「海の日」で休日だったのにも拘わらず、主宰者の久保猶司さんが工房を開けて待っていてくれました。ニューヨークでの作品展の準備中ということでしたが、気持ちよく応対してくれました。ギャラリーには屏風やタンスなど現代感覚の洒落た漆工芸作品が沢山。お金が有れば買いたくなるものばかりです。

 Hashi 注文して待つこと3ヶ月半。11月上旬に素敵な仕上がりの夫婦箸が到着しました。これを青森の漆工芸店で買った七々子塗りの箸箱に入れて、毎日、毎日、大事に使っています。次に3代目を求めることになるのは、きっと金婚式の時でしょう。

甲斐 晶(エッセイスト)

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