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プラスチック・マネー

北朝鮮製とされる「スーパーK」に代表される精巧な偽札の前に米国が屈し、米国が約70年ぶりに新しい100ドル札を発行して、早10年以上が経ちます。「新札は旧札に比べ、見た目は少し変わりましたが、価値は少しも変わりません。」とのコピーの全面広告を新聞に出して、新札のPRに懸命だったのが、思い出されます。Us_100_070120_230653

 新100ドル札は、フランクリンの肖像を一回り以上も大きくして見やすくしたほか、これをお札の中心から左にずらして配置して対称性を排するとともに(財布に折って入れても肖像を傷っけないため)、こうしてお札の右側に生まれた空間に透かしを設けています。この他にも紫外線対応インク、お札に漉き込んだ金属フィラメント、マイクロ文字の採用など最近の精緻なカラーコピー機による偽造に対抗し得るような措置が講じられています。

 世界のお札を調べてみると、偽札の製造防止のための対策には色々なものがあります。古典的なのは透かしと万線と呼ばれる極く細い線で肖像などを描く手法でしょう。いずれも日本のものは名人芸だとして有名です。Englands

 透かしに次いで特殊技術を要するのが先に述べた極細の金属フィラメントをお札に漉き込む方法で、英国のポンド札、欧州共通通貨のユーロ札、韓国のウォン札などに共通の技術です。ある時、イギリス人の友人から、英国のお金には針金が入っているんだと言われてびっくりしたことがありました。ポンド札を調べてみると、確かにその左端から3分の1あたりに、上下に細長い箔状の金属が漉き込んであるのが分かります。

 現在流通している福沢諭吉の1万円札は、2004年に導入された新しいシリーズのものですが、それ以前のものには通し番号が黒いものと茶色のものがありました。前者の方が古いシリーズで、後者ではお札の裏面の下部にあるレース模様の線が“NIPPONGINKO”というマイクロ文字の羅列で構成されており、偽造防止のための最新印刷技術が採用されていました。虫眼鏡で見ないと分からないほどですから、カラーコピーした場合には消えてしまい偽札と判定できるというわけです。

この他、磁気や紫外線対応の特殊インクを採用したり(日本、スウェーデンなど)、従前のオーストリアの5000シリング札のように、ホログラムでモーツァルトの肖像が浮き出てくるものまであります。 Asch5000fしかし、こうした最新の印刷技術、偽造防止技術をいかに駆使したところで、技術革新の目覚ましい現代のこと、いずれ時間がたてば陳腐化してしまい、偽札造りの技術がこれに追いつき、結局、いたちごっこになってしまうでしょう。

 アメリカはクレジット・カードの発達した社会。カードは仮に本物でなくても、保険が掛かっていますから、顧客に実質的な損害はありません。これに対して、偽札の場合にはそうした救済措置がありませんので、現金は信用されないのです。特に高額紙幣(100ドル札)は敬遠されて受け取って貰えません。現金の有り難がられる日本とは大違いです。

 米国のモーテルでチェックインした際のことです。カードでなく現金で支払うと言ったら、3泊分の前払いを要求されたことがありました。カードを利用できない現金客は銀行から信用されない破産者か、身分をトレースされるのを嫌う不審な奴ということになるのでしょう。(ここで100ドル札でも出そうものなら、何度も裏返しては偽札ではないことを確かめ、そのあげくには店の責任者まで呼んできて、その判断を仰ぎます。まるで犯罪者並みの扱いなのです。)

 モーテルのフロントでの一件を見ていた私の友人のドイツ人が私に向かって、「アメリカは現生よりも、プラスチックを有り難がる国なんだよ。」と、片目をつぶりながら言っていたのが何とも印象的でした。Aul_060217_06

 ところがオーストラリアでは10年ほど前から5種類の「紙幣」全てがプラスチック製です。プラスチックへの精密な印刷は難しい上、この「紙幣」に織り込まれた透明なプラスチック製のシールが透かしの代わりになっています。ますますプラスチックは紙より尊しですね。

甲斐 晶(エッセイスト)

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