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海外ではご用心

異国の旅先で日本では考えられないようなトラブルに巻き込まれることがあります。Vol01_01

 これは日本人の海外旅行など未だ夢のまた夢であった頃の話です。其核燃料加工メーカーの役員だったⅩ氏が約40年前に青雲の志を抱いてフランスに原子力留学。花の都パリに到着早々、自分宛に送金されて来た一年分の留学資金を受け取って銀行から出て来るや否や、品骨卑しからぬ中年の紳士がアプローチ。その横にはフランス人とおぼしき老人がいます。

 事情を聞いてみるとくだんの紳士は米国人で、「自分は航空会社に勤務している。午後の遅い便で帰国するのだが、手元不如意なので銀行でお金を用立てたい。通りすがりのフランス人のお爺さんにいくら説明しても言葉が通じなくて困っている。ついては通訳の労を執ってくれないか。」とのこと。お安いご用とばかり、その紳士の車で3人連れだって別の銀行へ出かけますが、生憎と閉店間際で所期の目的を果たせません。

 この間、そのアメリカ人は「君は実に親切で良い人だ。こうしたことが真に国際親善に役立つんだ。」と言って、しきりにⅩ氏をおだて上げます。彼が満更でも無くなった頃を見計らって、今度は「実は自分はダイヤの原石を持っているので、是非とも換金したい。適当な宝石店があるかどうか、その老人に聞いてくれ。」と頼んできます。

 ところがここで事態は急展開。話を聞いたフランス人の老人は、「自分は若い頃宝石を扱っていたので目は利くんだ。」と言いながら、アメリカ人からダイアを受け取って鑑足します。その結果、「これは超一級の品で、いつでも換金できるから私が買い取りたい。しかし自宅に行かないと現金がない。取り合えず君が立て替えてくれないか。そうしたら我が家に一緒に行って、君の立て替えた分を支払うから。」とⅩ氏に持ちかけます。

 懐には入ったばかりの大枚の留学資金が有りますし、こんなことで人助けが出来て、国際親善にも役立つのならと、Ⅹ氏はお金を差し出します。当のアメリカ人の喜び様ったらありません。彼と別れて、くだんのフランス人の老人とその家に向かうべく地下鉄の駅まで行ったところで、雑踏にその老人の姿が消えてしまいます。慌てたⅩ氏は騙されたことに気づいて警察に届けますが、既に後の祭り。そこで彼は最近パリで被害が続出の二人組によるダイヤ詐欺事件を耳にするのです。

 お次は日本人がお金持ちであることが定評となってきた最近のことです。Vol61_01パリに出張した某研究所のY室長が航空会社と提携している一流ホテルに宿泊。エレベーターから降りて、部屋に入ろうとしたところで数人組の暴漢が押し込んで来て、ピストルで彼の頭部を殴打。クレジットカードを奪ったうえ、暗証番号を教えるよう強要。仲間がそのクレジットカートでちゃんとお金を引き出せたのを確認するまで、ピストルを突きつけられていた由。一流ホテルでも油断は大敵なのです。

 私も20数年前、ロンドンの一流ホテルのスイートルームに家族で逗留中に危ない目に遭いました。家族は部屋続きの別室にいて、私は入浴中。鍵の掛かった私の部屋での何やら怪しい物音に、慌ててバスルームから出てみると、見ず知らずのアラブ系の男が丁度部屋から出て行くところ。廊下で追いついて問いただすと、“Don’t mind.”などと言いながら平然と立ち去ります。実害はなさそうなのでそれ以上深追いはしませんでしたが、一応フロントに話をすると、程なく刑事が来訪。一部始終を話すと、近頃ホテル荒らしが横行中で、その人相は先の男とぴったりとのこと。良くも何も起こらずに済んだものと、足が震える思いでした。Vol02_01

 この他にも、ウィーンの我が家に尋ねてきた縁戚筋の日系アメリカ人のZ嬢がブタペストの余り混雑していない地下鉄の車内で、アベックが無理やり体を押しつけてきて気が付くとバッグの中のクレジットカードが盗まれていたり、インドの一流ホテル内の宝石店でルビーの偽物を掴まされた知り合いの大学助教授の話など、異国の旅先でのトラブルの例には枚挙の暇がありません。皆さんもくれぐれもご用心のほどを。

甲斐 晶(エッセイスト)

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