アフリカ・ツメガエル
子供の小さいときにはペットを飼ってくれと子供からせがまれても、世話が焼けるからだめと拒んでいたのに、子供が大きくなって逆に手がかからなくなると、かえってペットにのめり込む人が多いようです。我が家でもご他聞に漏れず、ある時の夏からアフリカ・ツメガエルを飼い始めました。
このカエルはとても変わっています。アフリカ産で、後ろ足の水掻きのある指先に黒いトゲのようなツメが付いていることからこの名がありますが、両棲類のクセに陸上に出ることはなく、専ら水中に生息します。しかし成体は肺呼吸ですから、いつもは水槽の底にじっと潜んで居ても、10分置きぐらいに息継ぎのためりこ水面にちょこんと鼻先を出しては、すぐにまた水底に潜ってしまいます。
息子が高校生時代にクラスでこれを飼っていたことからその存在を知り、夏のまだ暑い盛りのこと、ペット・ショップで元気の良さそうな体長5cmばかりの小さいものを3匹買い求め、中型の水槽で飼い始めました。
3匹のうちの1匹はいわゆるアルビーノで、目が真っ赤なほかは全身が薄いピンク色。他の1匹は体色がオーソドックスな黒い縞模様であるのに対して、残りは黒のまだら模様。初めはプッチーニの歌劇「トーウランドット」に出てくる中国の宮廷の3人の大臣の名前にちなんで、ピン、ポン、パンと名付けたのですが、これではどれがどれやら区別が付きません。そこでそれぞれの体の特徴から白、黒、ぶちと命名しました。
ところがアフリカ産に似合わず、高温が大の苦手。その年の夏の記録的な猛暑で水槽の水温が30℃以上に上昇したためでしょうか。アイス・ノンで懸命に水温を下げたのにもかかわらず、白と黒が相次いで他界。「ぶち」だけが生き残って、そう大きくもない水槽を我が物顔に睥睨していました。
体長は手足を含めて20cmほど。脚はたくましく太くなり、体型も背中がこんもり盛り上がって、横から見ると見事な流線型で泳ぐのに相応しい格好となり、立派に成長しました。
ところがその手(前足)たるや、立派な脚(後足)に比べると極めて小さくて細く、ほんのお印し程度のもの。そのせいかどうかは分かりませんが、アフリカ・ツメガエルの泳ぎ方は、全くカエルらしくないのです。
平泳ぎのことを「カエル泳ぎ」とも言うように、カエルの泳ぎ方は本来、平泳ぎのはずです。しかし、ぶちの泳ぎ方を観察していて気がついたのは、確かに脚は「蛙脚」で泳いでいるのですが、手の方は「蛙掻き」(ブレスト・ストローク)ではなくて、「のし泳ぎ」のスタイルな。のです。どうですか。のし泳ぎの蛙なんて何とも珍妙でしょう?この珍妙な泳ぎ方といい、魚のようにいつも水中にいる点といい、アフリカ・ツメガエルは実にカエルらしくないカエルなのです。
エサは乾燥した糸ミミズで、サイコロ状になったものを一口大に千切って与えます。乾燥ミミズが水を吸ってふやけてくると、あたかも相手が生きものであるかのように、水中からこのエサめがけて勢い良く飛び付いて一気に頬張るのですが、この時ばかりは野生を感じさせられます。イヌやネコのような高等な動物ではないので、飼い主に懐くということはありませんが、エサをやる度に水槽を箸で叩いていたら、これが条件反射となって、水槽を箸で叩くとエサを求めて激しく水面に鼻先を出すようになりました。かわいいものです。
給餌の時以外は水中でじっとしており、ほとんど動きません。ユーモラスに大の字になったまま水中浮遊していることがあり、ひょっとして死んでしまったのではないかと慌てさせられることもあります。
アフリカ・ツメガエルを観察していて疑問に思うのは、前にも述べたようにほぼ10分に1度は呼吸のために水面に出てこなければいけないわけで一体何時眠るのだろうかということです。回遊魚などについての最近の研究結果によれば、これらの魚の睡眠は常にうとうと状態か、脳の半分ずつが交代で睡眠状態にあるそうですから、アフリカ・ツメガエルも案外そうなのかもしれません。
甲斐 晶(エッセイスト)
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