消費者心理
他人より少しでも得をしたいというのは消費者誰しもの思いでしょう。そうした心理を狙って、売る側はあの手この手で消費者に迫ってきます。
一昔前、ガソリンスタンドが固定客を獲得するためにやるのが会員優待制度。会員には特別割引料金が適用されガソリン代が割安になるほか、ダイレクト・メールを持参すると給油量に応じてティッシュ・ペーパーなどの景品が貰えたりしました。
我が家ではあちこちのスタンドの会員となって、今週はこちら、来週はあちらとダイレクト・メールの葉書片手に回るものですから、一頃はティッシュ・ペーパーを買わずにすんでいました。しかし、ティッシュ・ペーパーばかりが家の中にゴロゴロし始めると、次はトイレット・ペーパーが欲しくなりますが、有難いことに、次第にどちらかを選択できるようになり、大いに助かったものです。このほかにも隔週で「男性優待の目」、「女性優待の日」が決まっているスタンドが有り、今週はご主人が、来週は奥さんが、車を運転して割引券の入手に精を出していたご夫婦もあったようです。しかし、最近の石油高騰のあおりで、こうしたサービスも余り見られなくなってしまいました。
さてディスカウント・ストアなどの場合に良くあるのは客寄せのための目玉商品です。しかし数が限定されている場合が多いので、開店前からの長蛇の列を覚悟するか、さもなければせっかく出かけて行ったのに売り切れというのが関の山でしょう。こんな場合にアメリカではレイン・チェック(rain check)という制度があってとても便利です。
そもそも“rain check”というのは、屋外競技が雨のため中止となった場合に、その試合の観客に対して交付される順延された試合への入場券のこと。それが目玉商品が品切れとなった場合でも後日その商品が入荷した際にはセール価格での販売を確約する証書の意味にも使われているのです。
この制度のお陰で、目玉商品を目当てに開店前から長蛇の列を作るという必要はありません。セール期間中に申し込みさえすれば、割引価格での購入が保証されるからです。この制度があれば、いわゆる「おとり販売」も避けることができます。
アメリカで盛んな制度でもうひとつ興味深いのはクーポン(割引券)方式です。日本でも「本券ご持参の方に限り1,000円で生ビール飲み放題」などという優待券を街頭で配布したりしていますが、アメリカのは雑誌や新開の折り込み広告などに印刷されている特定商品の割引券です。これにはメーカーがプロモーションのために発行するどの店でも通用するものと、スーパーなどが客寄せのために発行するその店だけで有効なものの2種類があり、これを持参してレジで差し出すとクーポンに表示された額だけ値引きしてくれ、るのです。そこでアメリカの消費者は日頃からこのクーポン集めに一生懸命になります。(ちなみにアメリカでは“coupon”という単語は「キューパン」と発音することが多いようです。)
もう20年ほど前のことになりますが当時アメリカで生活していて感じたのは消費者保護の思想の強さです。スーパーで買ったものが不良品であった場合は勿論のこと、単に商品が気に入らなかった場合でさえも、買った時のレシートさえあればこちらの言い分を信用してくれて、すぐに別の品との交換や代金の返却をしてくれます。 さらにこうしたお客の苦情処理のために専用の顧客カウンターまで設けられているのが大変印象的でした。
さて米国留学中のことでさらに思い出すのは、当時は貧乏学生のこと、新聞の折り込み広告を見てはセールとなった商品のうち日頃から欲しいと思っていたものにマジックで大きく丸印を付けて週末まで待っていたことです。そしていよいよ週に一度の買い物の日になると、この商品はこちらのスーパーで、あの商品はあちらのスーパーでと、広大なアメリカのこと、距離も厭わずにスーパーのはしごを車でやってのけたものです。
それから30年余り経った今、ディスカウントを求めて、あちこちのお店を渡り歩いている我が姿に、何時になったらこうした生活から脱却できるのかと思うこの頃です。
甲斐 晶(エッセイスト)
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