ウィーン散歩の本
『ウィーン-おとなが楽しむこどものための街歩きガイド』(B・ヘプラー、A・ボディカ共著、ひやままさこ訳:セバ工房発行)という素晴らしい本に巡り会いました。
元々は、子供たちがこの本を片手にウィーン市内、主として旧市内を探索するために書かれたものなのですが、日本語版の書名が示唆するように充分「おとなが楽しむ」ことができます。原著のタイトルは、“Wien – Stadtführer für Kinder”( 子供たちのためのウィーンガイド)ですから、日本語版のタイトルは原著の内容から、翻訳者が意訳して付けたものなのです。
何しろ、イラストがとてもかわいいのです。いずれも無邪気で親しみの持てそうな男の子と女の子の2人の子供達に加えて、一匹のワンちゃんと一羽の小鳥が道案内をするという設定です。
旧市内の中心、シュテファン寺院周辺の探訪(コース1)から始まって、市電を使って途中下車をしながらのリンク(環状道路)の周遊(コース6)に至るまでの6つの街歩きコースが紹介されています。しかも、それぞれのコースには、子供たちの想像力をかき立て、興味を引くような、魅力的な名前が付けられています。例えば、「小さなパンと大きな動物」、「吸血鬼とごみ容器」、「天使と消防士たち」、「皇帝と王様」、「怪獣と聖人」、「大きなメリーゴーランド」といった具合です。各コースともほとんどが歩行者専用区域か歩行者専用地区内ですので、子供たちが歩いて見て回っても極めて安全です。
この本の良いところは、いきなり各コースの見どころの説明が始まるのではなく、まず初めに、ウィーンが小さな村からどのようにして大きな街になったか、人々がこの街でどんな風に暮らしていたのか、そしてその痕跡がどんなところに残っているのかが説き明かされます。この歴史解説の部分も、大人にとって大いに興味深いものです。
すなわち、ローマ帝国の駐屯地であったウィンドボナの時代に始まって、中世の領主の城塞であった頃の様子が紹介され、次いで、絶対王政、バロック時代、ビーダーマイヤー時代、更には、旧市内を囲っていた城壁が取り壊されて都市が拡大したフランツ・ヨーゼフ皇帝の時代へと話が進みます。そして、二つの世界大戦を経て、現代、しかもごく最近の開発の動きまで詳しく説明されています。あの市街地再開発の拠点となったガスタンクのことや水族館になった高射砲塔のこともちゃんと出てきます。
さらに、旧市街での6つの徒歩コースに加えて、ウィーンの中心部以外でも子供たちが見たり、聞いたり、楽しく体験でき、興味を持ちそうな場所が紹介されています。
この本の魅力は、何と言っても、今まで知らなかったような、ウィーンの建物にまつわる謂われや秘密を発見し、新たな知識が得られることです。しかも、コースの所々に、謎解きが隠されていて、読んでいるだけで、早く実際に歩いてみたいとわくわくして来ます。
著名な音楽家のサインが壁一杯に書かれた部屋で有名なレストラン、「グリ-ヘン・バイスル」の戸口の下、地下牢のような狭い空間にいるおかしな格好の人形が鉄格子越しに見えるのですが、これが何者かを知らなかったところ、この本にちゃんと出ていました。「愛しのアウグスティン」です。
彼は、歌手でしたが、ペストが流行っていた頃、ある日飲み過ぎて道端に寝込んでしまいました。墓堀人は彼をペストで亡くなった死骸と思い、手押し車で運んで墓地の穴に投棄。彼は酔っていたので全く前後不覚だったのですが、午後になって暗い穴の中で死体に囲まれているのに気付いてびっくり。助けを求めて叫びましたが誰も来てくれません。バグパイプを持っていたことを思い出し、それを吹き始めると、奇跡が起こり、救い出されたのです。ペストに感染すらしなかったと言い伝えられています。そして、今でも、グリーヘン・バイスルの地下通路に座っているのです。
どうです。A5版80頁の小冊子です。機会があれば、一冊片手にウィーンに出かけて見ませんか。 甲斐 晶(エッセイスト)
| 固定リンク
「ウィーン」カテゴリの記事
- 世界に続く道(2020.10.04)
- ウィーンの水道水(2016.11.22)
- オイゲン公の冬の宮殿(2014.08.29)
- ウィーンのドイツ語(2012.07.08)
- ウィーンの森の嫌われ者(2010.01.24)


コメント