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引かぬは一生の恥

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という諺がありますが、外来語や熟語などに関して辞書をちゃんと引いて確かめず、思い込みやうろ覚えでやったためにとんだ赤恥をかくことがあります。

 大学院時代のことでした。同じ研究室の助手の方がある英語の研究論文の内容を紹介した際のエピソードです。動物実験の結果について記述したものだったのですが、実験に使用した動物が原著では“a guinea pig”となっていたので「ギニア豚」を用いての実験と報告しました。ところがこれがとんだ大間違いだったのです。確かに“Guinea”はギニアで、“pig”は豚ですから、“guinea pig”は「ギニア豚」となるはずです。しかし英和辞典を引けばすぐ分かることなのですが、これはアフリカはギニア産の特殊な豚などではなく、実験用のモルモットのことなのです。ちなみに広辞苑によればモルモットの語源はオランダ語の“marmot”で、Alpine_marmot2 16世紀にオランダ人がペルーからわが国に伝えた時に、これを別種のマーモットと混同したためとしています。(マーモットはヨーロッパのアルプスなどで良く見られる人なつっこい小動物で、リスに似てはいますがこれよりもやや小肥りで尻尾も短めです。)

 Guinea_pig さてこのモルモットでは私の家内もウィーンでとんだ恥をかく羽目になりました。小学校低学年だった子供たちにせがまれて、モルモットをペットとして飼っていましたが、そのエサのレタスを八百屋で買うのが家内の務めでした。

 ある土曜日のこと、週末でお店がお休みになるのでいつもより大量にレタスをまとめ買いしようとしました。お店の女主人が「そんなに沢山?」と訊くものですから、「え、、家でモルモットを2匹も飼っているので」と言うつもりで、モルモット(“Meerschweinchen”)のところをうろ覚えのまま、“Schweinchen”と言ったので相手がびっくり。それもそのはず、これでは「子豚を2頭も飼っている」ことになってしまうからです。

 間違いに気付いた家内は確か“schweinchen”の前に何か言葉があった筈だとまでは分かったのですが、それが何だったのか中々思い出せません。幸い英語の分かりそうなオーストリア人の女学生が横にいたので、「ねえ、guinea pigってドイツ語で何て言ったかしら」と尋ねたところ、今度は彼女が四苦八苦の番。ドイツ語が母国語であり、guinea pigが何であるかも分かっているのですが、度忘れでそのドイツ語がすぐには浮かんで釆ません。苦労の末、ようやく“Meerschweinchen”だと分かって一同大笑い。女主人もああそうだったのかと納得し、後から店に出てきたご亭主に一部始終を解説。ご亭主の方もおなかを抱えて笑っていたそうです。

 日本語でも同じような間違いが起きるもののようです。これは馬鹿丁寧な日本語をあやつることで知られる日系ブラジル人のタレント、マルシアの場合で、ある蒸し暑い夏の日のこと。楽屋で付き人が「こんな日は、きもだめしが一番なんだよな。」と言うのを小耳に挟んだ彼女は透かさず、「それ私にも一人前」と叫んだとか。どうも「肝試し」を「釜飯」や「焼き飯」のたぐいと勘違いしたようです。もっとも彼女の場合、「いいなづけ」を「高菜漬け」や「広島菜漬け」からの連想で漬物だと思ったという前歴の持ち主なので案外食い意地が張っているだけなのかも知れません。

 英語だとばかり思っていた言葉が実はほかの国の言葉だったということもよくあります。イギリス人に対して「ガーゼ」を色々なアクセントで発音してみるのですが全く通じません。どんなものなのかを説明してようやく「ああ、それはゴーズだよ」(“Aha! You mean gauze!”)と言われて初めてガーゼが英語ではないことが分かりました。ドイツ語のGazeに由来しているのです。ピエロも同様で、こちらはフランス語(pierrot)由来で、英語では“clown”なのです。

 日本語になった英単語のアクセントも要注意です。ブルドーザーのアクセントはドにあると思いきや正しくはブにあります。とにかく外来語はこまめに辞書を引いて確かめておくことが肝要です。

甲斐 晶(エッセイスト)

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