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ガソメーター

ウィーン空港から市内に自動車専用道路で移動すると、4gasometerimg_1047ドナウ運河を渡って間もなく左手に大きな排気筒の火力発電所が現れ、その背景に巨大な煉瓦造りの円筒形の建造物が4つ一列に並んでいるのが見え始めます。これがガソメーターです。ジェームズボンド007シリーズの第15作、「007 リビング・デイライツ」のロケ地となったこともあります

 ガソメーターとは、ガスタンクを意味するドイツ語です。元来が、ウィーン市内に都市ガスを供給するためのガスタンクとして1896年に建設が始められ、1899年からガス供給を開始し、約100年間に渡ってその役割を果たしてきました。しかし、時代の変化の波はここにも及び、1986年、天然ガスへの転換に伴って、ガスタンクとしての使命を終えざるを得ませんでした。

その優雅な姿から歴史的な建造物に指定されていましたが、お役後免になった後、その再利用についての議論が熱心に行われました。デザインコンペの結果、4基のガスタンクは地域再開発の拠点として、今から5年ほど前にすっかり生まれ変わったのです。Qqgasometer0

ガソメーターは、一基の直径が約65m、高さが約75m、容積は約9万m3もあり、「第三の男」で有名なプラターの大観覧車もすっぽり収まる大きさです。

二重円筒構造になっていて、外筒は煉瓦造り(壁厚は0.95.4m)ですが、要所々々に窓が設けられている上に、全体が茶褐色の中にあって適宜アクセントのために白いストライプ模様が挿入されたデザインになっています。ガスタンクという工業的、実用的なイメージから大きくかけ離れた、とても優雅な外観です。

当然のことながら、窓(開口部)のある外筒にはタンクとしてのガス貯蔵の機能は無く、主に美的外観のためです。その機能は鋼鉄製の内筒が担っていて、貯蔵ガスの容積に応じて伸縮自在なテレスコープ構造となっていました。Gasometerbehaeltergasglocke_oben250

さて、ガソメーターの再利用にあたっては、この古典的な二重円筒構造物の内外部の空間に近代的な建築物を挿入するのを基本方針としました。一列に並んだ4基のガソメーターは、西から(市内に近い方から)順に、ABCDと名付けられていますが、それぞれ別の建築家に担当させ、デザインを競わせたのです。

コンペの結果選ばれたのが、A棟:Jean NouvelB棟:建築家チーム Coop Himmelb(l)auC棟:Manfred WehdormD棟:Wilhelm Holzbauer です。それぞれ独創的な発想で臨み、1999年に建設を開始。新旧の建造物を見事に調和させた斬新な建築物群からなる新たな複合施設、Gasometer Town (略してG-townと呼ばれています)を完成させ、2001年9月30日に正式にオープンしました。

Gasometerchofkomplett 4基は3階(欧州風に言えば2階)部分がブリッジでつながっており、いずれも上層部分は集合住宅となっています。下層部分には、棟により商店やレストラン、事務所、診療所、学生寮、ウィーン市の公文書館、マルチホール、駐車場などがあります。共通部分がショッピング・モールとなっており、そのままA棟の階下にある地下鉄駅に繋がっています。Gasometercnarrenschlossmalll1000109

これら4者中の3者は煉瓦構造の外筒にはあまり手を加えず、円筒内部に増築することで対応していますが、B棟を手がけた建築家チームだけは例外的に外筒に高層棟を付属させています。これまた、横から見ると「く」の字型のユニークな形状です。ガソメーターと道路を挟んだ敷地には、映画館など娯楽・商業施設(E棟)が新たに設けられ、渡り廊下でガソメーターと結ばれています。Qqgasometer2

かくして、ガソメーターはウィーンの新たな観光名所として多くの観光客を呼び込んでいるようで、G-town見学のガイド・ツアーまであります。廃止された高速増殖炉を遊園地にしてしまったドイツ・カルカー炉の例を挙げるまでもなく、ヨーロッパでは昔の建物を再利用することが珍しくないのです。しかし、そんな中にあってガソメーターはかなりユニークな存在と言えるでしょう。    甲斐 晶(エッセイスト)

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